第33話 南国の風

 エルヘイムとホーチの国境沿い、今まさに追撃者を使者達が迎え撃ち、屍の山を築いている。

 しばらくすると、どうやらこの追撃兵の指揮官が現れたらしい。


「なっ。なんだこれは!なんだこれはっ!」


 そう叫ぶ敵の指揮官に教えてあげる。


「フフ。自国の兵もわからないのかしら」


「なんだと!」


 さすがに馬鹿にされたことは気付いたようだ。

 こちらに気付くと敵指揮官は、


「ほう。お前のような女がこんなところで何をしている?」

 ニヤニヤしながら物色するような目を向けてくる。


「不快ね」


「貴様!調子に乗りおって」

 と敵指揮官が言うとかぶせるように、副官らしき男が叫ぶ。



「『閃剣』っ!なぜここに?!死んだはずではっ!?」

 と、この世の者ではないものを見たような顔で叫ぶ。


「あら、私の顔を知っているの?あなたは優秀そうね」

 テレサは長剣を抜刀しながら歩いて敵との距離を詰める。


「でも女性に対してその顔はないわ。傷つくもの」


 心底悲しそうな顔をしながら、敵の殲滅を始めた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 テレサはラーズに助けられた後、大型ドローンスカイキャリーで無人島=ディアナポートまで運ばれ、メディカルポッドに入れられた。


 しばらく意識を失っていたが、培養液で満たされたポッド内でテレサは目を覚ます。


(ここは・・・?私は助けられたのか)


 自身の傷が回復していくのがわかる。それにこの中は心地いい。


 治療を受けているのを理解したテレサは、おとなしく治療が終わるのを待った。

 戦況は気になったが、ポッドの窓の外になにやら空を飛ぶ何かが動いていて、その何かがエリザの姿を映していた。

 ドローンが現在のエリザの様子を中継し、映像をテレサに見せていたのだが、それを見たテレサは安心し、傷を治すのに専念できた。


 メディカルポッドの扉が開く。思ったより早く身体が回復したことに驚く。

(死ぬくらいの傷だと思ったんだけど)


 ゆっくりと自分の感覚を確かめるように歩いてポッドの外に出る。

 真っ裸だったが、ポッドの中から見た空飛ぶ何かが近づいてきて、タオルを渡してくれた。

 そのあと別の個体が服を持ってきてくれる。

 基本的に鎧や騎士服しか着ないのだが、この時渡された服はフリフリのワンピースだった。

(私には似合わないと思うけど)

 そう困り顔をしながらも袖を通す。


 この場所には窓はなく、それなのになぜか明るかった。

 見たことのない装置、自分が先ほどまで入っていたカプセルも、なにやら多くの管のようなものでつながれ、それが何なのかまるで理解できなかった。


 着替えると、空飛ぶ何かに促されるようにして、階段を上る。

 するとそこは壁がなくすべてガラス張りのフロアで、周囲360度すべてを見通せた。

 ここは高い場所のようだ。王都でも2階、3階建ての建物はあるがここまでの高さはない。

 窓から外を見ると、ここが島だということがわかる。


 これだけで、ここの技術が大陸にない水準だとわかる。

 バルコニーがあったので外に出ると、南国の暖かい風を感じて、しばらく眼下に広がる広大な海を眺める。

 風がテレサのきれいな金の髪を撫でる。ふと、建物の中と外で、まるで温度湿度が違うことを感じる。


 しばらくすると、空飛ぶ何かが目の前に来て、唐突に話始めた。


『気分はいかがですか?テレサ』


 いきなり話しかけられたテレサは、目をぱちくりさせて、


「驚いた。あなたしゃべれるのね」


 そう返す。


『私はシエナ。この島と施設の管理をラーズ閣下より任されている者です』


「そんな小さな体で凄いのね」


『これは私の本体ではありません。このドローンを通じてあなたと通信しているだけです。本体は別にあります』

 この空を飛ぶ何かはドローンというらしい。


「憑依みたいなものかしら。いえ遠くの人と話ができる魔法みたいなもの?」


『今回は後者の方が近いです。今はその認識で構いません』


「そう。では本当の姿ではないのね。色々気になることがあるんだけど、私を助けてくれたのはあなた?それともラーズ?」


『ラーズ閣下がホーチ軍に囚われていたあなたを助け出し、私が大型ドローンスカイキャリーでここへ運び治療しました』


「ではあなた達は私の命の恩人ということね。ラーズには2度も救われたわ」

 テレサが続ける。


「ここはどこなの?どうして私を助けたの?」


『ここは城塞都市リーベルより南東へ1500キロメートル離れた無人島=ディアナポートです。私たちが占領して開発しています。あなたを助けた理由は、ラーズ閣下の判断が大きいですが、簡単に言えば私たちに協力してほしいのです』


「協力?」


『その話は後ほどさせてもらいます。まず、エルヘイムとホーチの戦況についてからお話しします』


 シエナから大体の状況を教えられ、テレサは目を瞑る。


「結局、あの子の家族を守ってやれなかったのね」


 そう沈んだ表情をみせるテレサに、


『しかしエリザはテレサに生きていてほしいと望んでいました。あなたがいる限り、エリザは大丈夫だと思います。今も国内をまとめようと必死になっています』


「・・・そう」


 するとテレサは、


「ではせめて、あの子のかたき討ちを私がやるわ。私を戦場に戻してくれる?」


『少しお待ちください・・・許可がおりました。時が来れば、大型ドローンスカイキャリー』でホーチ王国東端までお送りします」


「ありがとう」




 それから約3週間、テレサはディアナポートに滞在した。

 当初はすぐにエルヘイムに戻してもらうつもりだったが、エリザも元気そうだし、自分が無事だということも伝えてくれている。

 なによりこの島にある見たことのない設備、きかい?というものに興味がわき、シエナから色々教えてもらった。

 シエナ達の目的が、こういった先進的なものを皆に伝え、人類同士で争わないような世界を作るのが目的だという。それからその先、人類の敵のことも何となく教えてもらった。

 それは空からやってくるという話だったが、さすがにそれは想像が難しかった。

 それからシエナ達の国は、ここからは想像もできないくらい遠い場所にあるということも教えてもらった。


 そして、その時が来た、とシエナが言うので大陸に戻る準備をした。

 装備も新調してもらい、剣も自分好みの長い剣をわざわざ鍛造してくれた。

 見た目はツヴァイハンダ―のようだが、普通のものよりずっといい素材で作られているようだった。


 大型ドローンスカイキャリーに乗り込んだテレサは、体育座りで窓から外を見ていた。

「狭いわね」

『これはあくまで緊急搬送用のドローンです。しばらくすればもう少し快適なものも用意できます』

「いいえ。別に文句を言っているわけじゃないのよ。それと、聞きそびれていたけど」

『何か?』

「ラーズのことを閣下って呼んでたけど、軍属なの?」

『そうです。ラクテ銀河帝国軍の准将閣下です』

「准将?あの若さで。ふーん、でも聞いたことない国ね」

『・・・遠いところにありますので』

「銀河帝国か・・・」


 そのあとは特に会話もなく、ものの数時間でホーチ王国の東端まで到着した。



◇◇◇◇◇◇◇



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

1章のストックが切れました( 一一)


しばらく、平日は1話づつ更新でいきたいと思います。

すみません。

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