第31話 エルヘイム王国男爵
王城での会議から1週間が経った。
ゴルドー男爵の増援部隊も王都入りし、復興の支援にあたってくれている。
さすがに男爵自身は城塞都市リーベルに残って陣頭指揮をとっている。
シエナを通じてリーベルの様子を見ると、テッドも百人隊長として頑張っているようだ。
といってもリーベルに敵兵が入ってくることはないので、そこは心配していない。
ネリーもギルドにうまく報告してくれたみたいで、問題もなさそうだ。
無人島に搬送したテレサも順調に回復しているようで、もうすぐメディカルポッドから出られるみたいだ。
そう言えばこの無人島をいつまでも無人島と呼ぶのもな。
拠点になるわけだから、名前を付けないと。
『シエナ、無人島の名前だが、宇宙エレベーターの建設予定地だから、【ディアナポート】と名付けようか』
『了解しました』
(特にひねったわけでもないが、無難すぎたかな。まぁいいか)
前回同様、王城の会議室に向かう。
すると、エリザ王女、フリード子爵に加え、前回いなかった若い貴族風の男が室内にいた。
エリザが立ち上がり、その男の紹介を始める。
「こちらはカーベル辺境伯の長子、ニヘルです」
「ニヘル・カーベルと申します」
そう言って頭を下げる。
浅黒い肌に、薄い金髪の好青年だ。
「俺はラーズ・ロンフォールです。よろしく」
「この度は、エリザ王女と王都を守っていただき、ありがとうございました!それに我がカーベル領も、危ういところを使者様に救っていただきました」
「ニヘルはこの度、お父君の跡を継ぎ、カーベル辺境伯となります。さらにフリード子爵についても陞爵し侯爵とします。一足飛びの陞爵ですが宰相としてその手腕をふるってもらうことにしましたのでふさわしい爵位についてもらいます」
「必ずやお役に立って見せます」
フリード侯爵とカーベル辺境伯がエリザ王女の前にひざまずく。
「それと、ゴルドー男爵にも伯爵の地位を授けます。城塞都市をかかえておりますが、他領の采配をも振るってもらうつもりです」
「なるほど、味方の貴族の力が増すのはいいことだと思います」
俺はそう感想を口にしながら、なんとなくゴルドー男爵は嫌がるような気がした。
王女とはいえ、実質王命なので逆らえないだろうけど。
「フリード子爵・・・侯爵は自分の領地は大丈夫なんですか?」
と俺が思った疑問を口にすると、
「自領はせがれに継がせますので心配いりません!」
とやる気満々だ。
「なるほど。着々と準備は進んでいるというところですね」
王女が大きく頷く。
「それでは俺からの報告です。予定通り、あと3週間でホーチ王国を制圧する準備が整います。作戦を実行すれば1日もかからず制圧は完了するでしょう」
「あの使者様たちですか?」
「そうです。使者の数は日を追うごとに増加しています。3週間後には十分な数が揃いますので、民には被害を出さず、王侯貴族のみを捕らえることができます」
「それは素晴らしい。あの使者様たちを見たあとでは、信じないわけにはいきませんな」
とフリード侯爵がいう。
カーベル辺境伯もウンウンと頷いている。
「順序としては、先にホーチ王国を制圧し、その事実を突きつけてエルヘイム内の反抗的な貴族を引きずり下ろします。ホーチ王国制圧の際には、冒険者ギルドも情報を流してくれる手はずになっていますので、国内の抵抗は少ないでしょう。それをエリザ王女が派遣した兵が成し遂げた、ということにすればいいのです」
「まぁ。冒険者ギルドにまで段取りをつけてくれていたのですね。しかし、そうですね・・・」
エリザは顎に手をあてて、「うーん」と考える仕草をする。
「私が派遣したという部分ですが、まだ弱い気がするのです。ラーズ様がエルヘイムの貴族であれば説得力がつくというもの」
(え?)
「そう。その後のホーチ王国の占領についても、エルヘイム王国の貴族が占領し、褒美を取らせる形で独立を認めた。とした方がいいかもしれません。そうなれば独立後もエルヘイムと独立国は仲良しですよ~というアピールができ、周辺国のけん制もできます」
『案外悪くないかもしれません。いきなり帝国を興すより、もともとある国に認めてもらった方が、対外的にはよいかと』
『うーんそんなもんか』
だがシエナも納得したのならいいのだろう。
「わかりました。でもすぐ隣の国に引っ越しちゃいますよ?」
「それは仕方ありません。でもすぐに連絡も取れるし、お会いすることもラーズ様なら容易でしょう?」
「うん。まぁそうですね」
「では、ラーズ様にはエルヘイム王国男爵位を授けます」
『シエナ。一応このこともネリーに伝えておいてくれ』
『わかりました』
「そういえば、エリザ王女の女王即位はいつにする予定ですか?」
「そうですね。タイミング的にはホーチ王国の制圧後、なるべく早くがいいですね。その後、ラーズ様の国を認める形の方がいいと思います。国内貴族の目もありますが、多少強硬してもいいと思っています」
「わかりました。しかし時間はどの程度かかるのでしょうか?」
「女王の即位には、形式上ディアナ教の教皇もしくはそれに準じる者が任命することになっていますが、ラーズ様が望むのならばそれは省略しても良いと考えています」
(うーんここで宗教がでてくるのか)
『艦長。ラクテ銀河帝国についてはディアナ教の任命など不要ですが、この大陸の民の多くがディアナ教の信者です。エルヘイムも例外ではありませんので、ここは形式にのっとって任命を受けさせた方が無難と判断します。それと、後々にこの宗教勢力を利用した方が惑星の統治に利するかもしれません』
『ふーむそうだな。他の国からの目もあるし、あえて敵を作る必要もないか』
「エリザ王女、任命は受けてください。ただし、3週間後すぐに任命できるように前倒しで教会に話を通しておいてください」
「わかりました。ありがとうございます」
フリード侯爵がフーっと安堵の息をもらす。
(ラーズ殿がそう判断してくれてよかった。ディアナ教を敵に回せばやっかいなことになるのは目に見えているからな。それにディアナ正教国がなんというか。あそこのディアナ教は他の地域とはちょっと性格が違うからして・・・)
人知れず胸をなでおろすのであった。
そして時は満ち、ホーチ王国は崩壊の時を迎える。
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