第29話 王城会議 2

「まさか『閃剣』がそんなことになっていたとは・・・」

 フリード子爵は信じられないといった表情で頭を抱えている。


「でも、ラーズ様が大丈夫とおっしゃられるなら、それを信じます。私の毒もテレサの毒もラーズ様が治療してくれたのですもの」


「ええ。信じますとも。今更ラーズ殿を疑ったりはしません」

 子爵が言うと、エリザも頷く。


「しかし、適当な貴族がいませんな。王女に敵対的とはいえ現状ではそのままにするしか・・・」

 フリード子爵が考え込んだところで、シエナが俺の頭の中で提案する。


『艦長。適当な貴族がいないというのなら、アンドロイドを送り込みましょうか?』

『ん?どういうことだ』

『統治のみならアンドロイドを端末として私か、もしくは私の補助AIで代行可能と思います。統治手法については各領を観測した結果、ほぼ領主の独裁ですので、首をすげかえるだけなら問題ないと思います』

『いや、アンドロイドで長時間居座るとさすがに人間じゃないことがばれないか?』


『私は艦長が降下してからこの間、常に端末に使用できる躯体の改造に時間を費やしてきました。もう人間と比較しても問題ないくらいにバージョンアップしているはずです』


(なにやら、執念のようなものを感じる・・・)


 確かにシエナのスペックなら、作戦行動中でも並行してそのような研究に時間を費やすこともできるだろう。

 しかし、その結果を評価するのもシエナ自身、もしくは補助のAIだろう。

 ちょっと心配だった。


『・・・艦長が心配されるのでしたら、アンドロイド躯体の顔は見せないように、黒のベールで隠しましょう』

 なぜか心を読まれた俺はひとまずシエナの提案をエリザに伝えることにした。


「もし、エリザ王女が望むのならば、当面のかん、俺の仲間を派遣しましょうか?統治については今の領主よりはうまくやるはずです」


「・・・・・」

 エリザはしばし考え込む。


 そして、

「いえ、ご提案は嬉しいのですが、何から何までやっていただいては民に申し訳がたちません。それに、父や母、それに兄に顔向けできません。何とか自分で頑張ってみようと思います」

 そう言うと、胸の前で両手を握り、決意を固めたようだった。


 とはいえ、各領を改革するとなると領主貴族たちの反抗は必至だ。

 なので、

「それでは、私のドローンたちをお使いください。身の安全は保障しますし、領主を制圧するのにも使えます」


 エリザは一瞬、さえぎる様に手をあげたが、苦渋の表情でその手を戻し、

「そうですね。私たちだけのちからでは、事を成すのには不足でしょうね。ありがたく、使者様たちをお借りします」

 かなり悩んでいる様子だったが、実利を優先したようだ。

 テレサの不在も大きいだろう。

 このあたりは、統治者としての資質を感じる。


 ちなみに使者航空戦力たちはシエナが管理しているので、アデルが現れるくらいのことがなければ、他に何が起きても心配はない。

 指令を与えてあとはスタンドアローンでも問題ないだろうが、やはりシエナに見てもらっていた方が安心だ。


 結局ここまでエルヘイムに与えるばかりになってしまった気がする。


「それで、ラーズ様。ラーズ様の私たちに求めるものは何ですか?」

 こちらとしては、これからが本題だ。


「まず、ホーチ王国を制圧したあとの土地は俺たちが占領します」

「それは、私としては構いませんが・・・」

「別に王族になりたいとかそういうことではありません。俺たちの目的は、ホーチ王国各所に眠っている資源です」

「資源?」

「そうです。大雑把に言えば、科学技術の元になるものがそこに眠っているのです」

「そんなものが⁈」

「そうです。しかしホーチ王国は他の国にばかり目をやって、自分たちの足元に眠っている資源に気付いていません。気付いていたとしても使い方がわからないでしょうが」

 エリザと子爵が顔を見合わせている。


「そこで俺たちがその土地を発展させます。その資源があれば、例えば衣類ができたり、食器を作ったり、道を整えたり、大量の荷物を運ぶ乗り物を作ることもできます。そしてそういった製品をエルヘイム王国にも貿易、流通させましょう。」

「そんなことができるのですか?!」

 二人ともいいリアクションをしてくれる。

 本当はまだまだ使い道はあるが、言ったところで理解できなければ意味がないのでこの辺にしておく。


「人が足りないので、ホーチ王国民をうちで引き取ります。エルヘイムの難民や貧困層についても、エリザ王女が了承してくれるならば、預かります。しかし、準備に多少の時間がかかるので、その間はエルヘイムでそういった人たちの面倒を見てほしいのです。もちろんホーチ王国の流した毒の解毒剤は配布しますし、ゴルドー男爵の応援もこちらへ向かってくれています」

「まぁ、男爵が。わかりました。それまではエルヘイムで民をお預かりしましょう」


「それでその、ラーズ様がホーチ王国へ旅立ってしまわれると、連絡したいときは手紙になってしまうのでしょうか?色々相談したいこともでてくると思うのですが」

 エリザの言葉を聞いた俺は、たぶん他に便利な連絡手段があるのではないかとカマをかけてきているように感じた。


(先進的な考えのお姫様だ)


「大丈夫ですよ。エリザ王女の近くに常にドローンか小型殲滅機リトルビーを付けます。それに話しかけてもらうと、言葉は俺に届きます」

「まぁ、それはすごい」

「なんと!ラーズ殿は精霊をも従えておられるのか」

 エリザと子爵が驚く。


 精霊っているのだろうか?まだ実感は湧かないが、このファンタジー惑星ならいてもおかしくないのかもしれない。

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