第28話 王城会議 1
翌日、王宮に泊まらせてもらった俺は、ベッドの上で目を覚ました。
「やっぱりベッドで寝るのが一番だよなー」
独り言を言うと、シエナが
『おはようございます艦長。もう朝食の準備もしてくれているみたいですよ』
そう言うと、ドアをコンコンとノックする音が聞こえる。
「おはようございます。ラーズ様、朝食をお持ちしました」
そういってお城のメイドが朝食を運んできてくれた。
「ありがとう。そこに置いておいてください」
そういうと、メイドはラーズに深々と一礼して部屋を出て行った。
後で聞いた話だが、メイドの彼女も、ホーチ王国兵に襲われそうになっていたところを、ドローンに助けられたということで、ラーズにとても感謝していたという。
ドローンを操作していたのはシエナであって、俺は正直命令するだけだから、なんだかシエナに申し訳ない気持ちになる。
朝食後、着替えながらシエナに状況を確認する。
『エルヘイムとホーチの国境付近の戦いは、昨日のうちにロールアウトした航空戦力でほぼ制圧しました。現状ホーチ側には侵入せず、エルヘイムに入り込んだものだけを排除しております』
『それからテレサについては、無事にメディカルポッドに収容し、回復中です。
『よかった、とりあえず一安心だな』
戦力の確認もしておく。
『現在、採掘採集と併せて順次戦力を増強中です。ホーチ王国の占領が完了すれば、大型の海洋艦の建造に着手したいと思います』
『航空戦力だけでは厳しい?』
『そうですね。まず現在建造中のリーベル=無人島間の地下鉄ですが、各地にこのような施設を作るのは現実的ではありません。この二地点に大きな鉱床があったことで建設中ですが、やはり大型の輸送船を作る方がルートも選べますし応用も効きますので必要かと。それと海洋軍艦の建造ですが』
『ふむ』
『小型航空戦力での軍事作戦はどうも大魔法の
『なるほど。魔法と勘違いか。無理もないな。よし、じゃあそれで進めてくれ・・・しかし、そうなると』
『何か懸念事項でも?』
『いや、この惑星ディアナの人々が航空戦力を魔法と認識するなら、やっぱりまだ俺たちがこの星の外から来たことはまだ言わない方がいいかと思って』
『そうですね、あまりのんびりしていてはアデルに対処できませんが、現状だとその方が懸命かもしれません。艦長の判断に従います』
『うん。じゃあとりあえず海洋戦力を拡充する方向で進めてくれ』
『了解致しました』
脳内会議を終えて、王女たちが待つ部屋へ向かう。
部屋の前には若い兵士が立っている。
その兵士は俺が近づくと扉を開け「どうぞ」と言って、俺が部屋に入るとそっと扉を閉めた。
まだ10代だろうか、などと考えていると、部屋の中にいたエリザが、
「彼はまだ16歳なのです。流行病のせいで、家族で働けるのは彼だけになってしまったのです。そんな境遇の若い兵士がここには多い。戦争になれば彼らも出陣します。もし彼らが亡くなるようなことになれば、残った家族は路頭に迷うことでしょう」
と俺の思考を読むように話しかけてきた。
部屋にはエリザとフリード子爵しかいない。
政治の話ができるのが二人だけとは、今のエリザの立場の危うさを示しているようだった。
「病は毒だったと国から民に公表したのですか」
そう俺が問いかけると、エリザは
「いえ、まだです。民の間では噂程度で広がってはいますが、今日のこのお話しが終われば国として公表することになるでしょう」
「そうですか」
俺は促されて、椅子に座る。
「では、本題に入りましょう。ラーズ様はこの国に何を求めるのでしょうか?私の命を救ってもらった恩人に申し訳ないことなのですが、正直言ってこの状況で、この国に差し出せるようなものはありません」
そういうと、フリード子爵が目を丸くする。
エリザがまだ話していなかったみたいだ。
「そうですね。まず俺がエルヘイムにできることからお話しします。ひとつ目は、昨日言いましたホーチ王国の制圧です。なるべく民間人を傷つけないように制圧します。ですが、そのために少し時間を下さい。一ヶ月程度でしょうか」
「それは構いませんが、一ヶ月もこの国が持つかわかりません。協力してくれていたカーベル辺境伯も亡くなってしまったということですし」
エリザは俯いて手を握りしめる。
「それは大丈夫です。ふたつ目ですが、ホーチ王国からこの国への侵攻は防いでみせます。と言いますか既に敵軍は国境の外に追いやりました」
「何ですって⁈既に追いやった・・・もしかして昨日の使者様たちですか?」
「その通りです。数は時間が経つほどに増えてますので、もう二度と国境は跨がせません」
「何ということだ!」
そう言ってフリード子爵が天を仰いでいる。
「しかしこんなに頼もしいことはない!」
と言っているので、納得しているようだ。
「そしてみっつ目、エルヘイム王国内の貴族の選別です」
「選別?」
首を傾げエリザが反応する。
「そうです。今回のように国の一大事に協力もしない貴族など不要。エリザ王女に従順な貴族、若しくは王女が頼りにする貴族を擁立すべきです。そのお手伝いをします」
「しかしそれでは、私が間違えてしまったら・・・」
「そのための頼りになる貴族を擁立すべきだと思うのですが、誰がおりませんか?」
「そうですね。フリード子爵には陞爵していただき、変わらず仕えていただけると助かります」
「もったいないお言葉です。国王陛下に良くしていただいたご恩に報いるためにも、このフリード、命尽きるその時までエリザ様にお仕えいたします」
「ありがとう。フリード子爵。今後子爵領の他に、他領についても治めてもらうことになると思います」
「ははっ」
フリード子爵は膝をつき答える。
「他には、カーベル辺境伯は残念でしたが、その跡取りのニヘルも私が幼いころから交流があります。彼はどうでしょう」
「良いと思います。しかしまだ足りませんな。できればエリザ様を諫めてくれるようなまともな大貴族が一人欲しいところですが」
そう言ってフリード子爵は顎ひげを撫でる。
「あとは城塞都市を擁するゴルドー男爵でしょうか」
「確かに彼なら、統率力もありますし、内政も強い。しかし爵位が・・・」
「・・・残念ながら今のところ味方になってくれそうな大貴族はおりませんね。支持していただける方を陞爵するしか」
「・・・ならば致し方ありますまい」
少しの沈黙のあと、
「あのっ!」
エリザが俺を見つめて、
「テレサは。テレサはどうなりましたか?無事なのでしょうか?」
本当はテレサの容態を一番に聞きたかったのだろう。
目にはうっすら涙をためている。
「一命をとりとめましたよ。もう命に別状はないでしょう。全快にはしばらくかかりそうですが」
「!! よかったぁ」
そう言って、へなへなと床へ座り込んだ。
「エリザ様!大丈夫ですか?」
慌てて子爵が駆け寄る。
「大丈夫です。安心して力が抜けてしまいました」
そういって眩しい笑顔をのぞかせた。
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