第27話 エルヘイムの貴族
俺とエリザ王女が王宮入ると、
「エリザ様!ご無事でしたかっ!」
そう言ってこちらに駆けてくる口髭を生やした貴族らしき男が近づいてきた。
「フリード子爵!あなたも無事で」
エルヘイムの貴族だろう。お供は三人しかおらず、子爵と呼ばれた男を含めボロボロだ。
エリザに近寄るやいなや跪く。
「申し訳ありませんエリザ様。王や王妃、それにエルド殿下まで。あの蛮族どもに最後に意地を見せてやろうと玉砕覚悟で突っ込んだところを、謎の空飛ぶ使者殿に救われました」
「あなた達だけだけでも無事でよかったです」
エリザはまだ立ち直っているわけではないだろうが、気丈に振る舞う。
「生き恥を晒してしまい・・・いかような処分もお受けいたします」
そういう子爵に、エリザは
「自分の領を置いてまで王国のために参集してくれた者を、褒めることはあれ処分するなどあり得ません!」
そう一喝する。
「・・・命の限りエリザ様に、いえエリザ女王に尽くします」
フリード子爵の言う通り、今のエルヘイムの王族はエリザしかいない。
このままエリザが女王になるのが筋だが、日和見を決めていた国内の大貴族たちが何を言い出すかわからないのが現状だ。
疲弊した王都と違って、兵を出し渋っていた貴族たちは、毒の被害があるとはいえ王都と比べると損害は軽微だった。
ゆえに力を温存していたエルヘイム国内の大貴族の動向が読めず、エリザの立場は非常に脆いものであった。
「ここには参集できませんでしたが、自領でホーチ王国と戦っている者もいます。カーベル辺境伯もそうです・・・ですが、辺境伯は先ほど戦死されたと報告がありました。辺境伯領まで馬で一日の距離ですので、各地の戦況は芳しくないと思われます」
「助けに向かいたいですが、王都にもうそんな戦力はありません。各領もなかなか協力してもらえておりませんし・・・」
沈んだ顔でエリザが言う。
『艦長。エリザを女王として擁立し、我々でその後ろ盾となりましょう』
『そうだな。俺も同じことを考えていた』
「エリザ王女、あなたが無事に即位できるように、私がお手伝いします」
一歩前に出て、そう宣言すると、
「それは!願ってもありません!」
とエリザは少し驚きながらも答える。
すると、フリード子爵が疑問を口にする。
「あの、あなたは?」
おそらくラーズを貴族ではないと思っているであろう子爵だが、王女との会話から丁寧に話しかけることにした様子だった。
「俺は、ラーズ・ロンフォールと言います」
「なんと貴族でしたか。これは失礼しました。ただ我が国の貴族ではなさそうですが」
「俺は貴族ではありません。この国の者でもないですよ」
「む、そのような人が王女となぜ一緒に?」
子爵の考えはもっともだったが、エリザが説明する。
「王都に侵攻するホーチ王国軍を壊滅させてくれたのはこのラーズ様です」
「なんと!!それではあの空飛ぶ使者殿達も?」
「ええ、私の仲間?です」
兵器は仲間と呼ぶのだろうか、と思いながら返事をしたら疑問符がついてしまった。
「何ということだ!あなたは私の命の恩人だ。私も先ほどは死を覚悟したのだが、使者殿に救われたのだ」
「間に合って良かったです」
「でもなぜ疑問形なのですか?仲間?と・・・」
子爵が不思議そうに首をかしげている。
俺が説明しようとすると、エリザが
「おそらく使者様たちには、魂がないのだと思います。武器や防具と同じ・・・長く使われる道具には魂が宿るというお話も聞いたことはありますが、そういう意味でラーズ様の武器、だったのではないでしょうか?」
「なんと・・・」
フリード子爵は絶句しているが、俺も絶句していた。
(そこまでわかったのか?この中世みたいな水準にある世界に生きていて)
「そのとおりです。彼らには魂がありません。俺は彼らを使い、エリザ王女の後ろ盾になるつもりです」
そう答えた。
(あれらが、武器?しかし神話のおとぎ話みたいに、光をも操る使者殿たちを武器としして使う?ラーズ殿は一体どういうお立場の方なのだ?しかし、あの力をもってすれば王女の安全は確保できる。逆に敵となればホーチ王国との戦争どころではないのではないかっ⁈)
フリード子爵は脳内で高速計算を行った後、
「私も賛成でございます。王都内の残りの貴族も私がすべて説得してみせましょう。問題は、国内の反対するであろう領主貴族たちですが」
『いっそ、すべて首を挿げ替えた方がいいかもしれません』
『うーんそうだな。過激だとは思うが、すべて隠居してもらって、王の参集に応じた貴族たちに各領を治めさせた方が、こっちにも都合はいいな』
『その案が打倒かと思います。各領主の跡取りが、王女に協力的であれば引き継がせてもよいかもしれませんが』
『そのあたりはエリザ王女次第だな』
俺は、その内容をエリザ王女に伝え、王女もそれで納得した様子だった。
「あとは、ホーチ王国をいつ落とすか、だけど」
「!あの蛮族国家退治まで引き受けてくれるのですか?」
フリード子爵が前のめりに聞く。
「それについては、少し落ち着いてから王女と話し合う時間をいただきたい。俺からの要望もお伝えしなければいけませんので」
その場は一旦解散し、翌日王城内の一室にて集まることになった。
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