第26話 科学と技術

 王城の正面でダビデ将軍が声を張り上げる。

「この化け物をつるし上げてはりつけにしろ!」


 十字に組まれた木板にテレサが磔にされる。

 両手のひらを直接釘で打ち付けられ、あちこち血だらけになったテレサはそれでもまだ、かすかに命をつないでいた。


(あれだけの攻撃をくらって今だ死なないとは。だがさすがにもう虫の息だ。こいつを磔にし、わしが『閃剣』を討ち取ったと本国に知らせなくては)


 ダビデ将軍は、いやらしい笑みを浮かべながら、

「見ろ!いかに『閃剣』と言えど、わしにかかればこんなものだっ!」

 そう高らかに叫ぶ。


 ホーチ王国兵が、オォォォと勝ちどきをあげたその時。


 一筋の光がダビデの持っていた剣を熔解させる。


「な、なんだ?」

 柄だけになった自分の剣を見つめて、混乱する。


 すると至る所で光の雨が降り注ぎ、王城になだれ込んでいたホーチ王国軍を薙ぎ払う。


「この光は?」

 エリザが不思議そうに光を目で追う。

「俺の仲間です」

「あなたの、仲間?」

「色々と間に合わなくてすみません。やっと到着しました」

 そう言って空に目をやるとそこにはシエナが送り込んだ航空戦力が30機ほど旋回していた。

 ロールアウトした機体から順次投入しており、今は小型航空機だけだが少しづつ数は増えている。


 ホーチ王国兵は逃げまどい、空を見上げながら、

「な、なんだこれは?助けてくれ!」

「ひぃぃ悪魔だ!空飛ぶ悪魔だ!」

そう叫びながら武器を捨て逃げまどうが、攻撃力の高い小型殲滅機リトルビー補足ロックされれば逃げることはできず、次々に殲滅されていく。


「神の使い・・・ではないのですか?」

「これは科学と技術の力ですよ」

「かがく、ぎじゅつ・・・」

 そう言ってエリザは何か考えるような仕草をしていたが、俺は王城の正面に磔にされたテレサを見つける。

「あれは!」

「!!っ テレサ!」


 俺はエリザをドローンと航空戦力に護衛させ、単身敵の真ん中へ突っ込む。


 ダビデ将軍が、

「なんだ貴様は?ホーチ王国軍の精鋭中の精鋭、白虎部隊とわかっているのか?」

 そんな言葉を無視して俺は、敵兵を一気に殲滅していく。


 一気に兵の数が減り、ダビデ将軍は、

「まだ化け物がいるじゃないか!なんだこいつは。はやく殺せ!」

 

 俺は敵兵を殲滅しながら、テレサのもとへたどり着き、足元から木板をたたき切る。

 木板ごとテレサを受け止めた俺は、ゆっくりとねかせる。

 体中傷だらけで、手は釘が刺さり痛々しい。

 頭からも血を流しており、相当激しい攻撃に遭ったようだった。

 かろうじて息があるようだが意識はない。

「貴様ら!」

 ここにくるまでも、被害にあったエルヘイムの民の亡骸を見たが酷いものだった。

 俺は怒りを抑えることができず、走り出す。


 一気にダビデ将軍の間合いに入った俺は、まずは副官の首を飛ばす。

 何が起きたかわからない様子の将軍は、副官と俺とを交互に見て、予備の剣を手に持ち、俺に切りかかろうとする。

 俺は剣を持っている将軍の右腕をナノブレードで切り飛ばし、次に左腕も飛ばす。

 将軍は、膝をつき、

「うわぁぁなんだこれは、痛いぃぃ」

 と泣き叫んでいる。


「お前らのやってきたことを考えればまだぬるいな」

 そう言うと、

「お前はなんだぁ!一体何なんだぁぁ!」

 と叫ぶので、

「お前は別に知らなくていい」

 そう言って将軍の首を飛ばす。


 既に周りはドローンと小型航空機によってほぼ制圧され、助かったエルヘイム貴族や兵は、空飛ぶ物体にびっくりしながらも、敵ではないとわかると安堵した様子をみせた。


 俺はテレサのもとに再び駆け寄ると、エリザがテレサに寄り添い、

「テレサ、テレサ死なないで!あなたまで死んだら私は一人ぽっちじゃない。死なないで・・・」

 といって、テレサにしがみついている。


 俺は、テレサに医療用ナノマシンの入ったカプセルを飲ませようと、ドローンを呼び寄せた。

 すると、シエナが


『艦長。危険と判断します』

『何がだ?』

『テレサにカプセルを飲ませる行為のことです』

『どういうことだ』

『先日のヒルデと少女の件ですが、ヒルデから少女にナノマシンが移動した際、莫大なエネルギーが算出されました。おそらく少女の魔因子が原因と推測しますが、テレサの魔因子の量は少女のそれとは桁違いです。何が起こるかわかりません』


『テレサを見殺しにしろと?』

『テレサの治療に反対するわけではありません。彼女に協力してもらえれば、魔因子について解明できることがあるかも知れません。よって彼女をメディカルポッドで治療することを提案します』 


『メディカルポッドは旗艦にしか』

旗艦までの移動手段がまだ用意できていない。それを口にしようとすると、

『いえ、先日報告しました開発中の無人島に一台、製造が間に合いました。同時に大型ドローンも先ほどロールアウトしましたので、それにテレサを格納し、無人島まで搬送します』


『そうなのか⁈』

『帝国のAIの私にとって、艦長の命が最優先事項です。ですので、複数の治療パターンを確保するのも最優先事項です。まもなくそちらに大型ドローンスカイキャリーが到着します』

『わかった。なるべく急いでくれ』

『了解しました』


「エリザ王女」

 そう呼ぶと彼女はすがるような目で見てくる。

「テレサを治療できる施設まで運びます。よろしいですか?」

「助かるのですか?お願いします!テレサを助けてください!」

「助かるかどうかはまだわかりません。一刻を争います」


 キィーーーンという音をさせながら頭上に大型ドローンスカイキャリーが到着する。

「こ、これは」

 エリザが驚いて上を見上げる、しかしこちらを向いて

「お願いします!テレサを」

「わかりました。しかし治療できる場所までかなり距離があります。それはご了承ください」

 エリザは無言で力強くうなずく。


 俺はテレサを大型ドローンスカイキャリーに乗せる。

 するとハッチが締まり、浮上し始めた。

 ある程度の高度をとると、大型ドローンスカイキャリーは施設のある無人島方向を目指して飛んで行った。

 エリザはその様子をドローンが見えなくなるまで見守っていた。


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