第25話 黒煙の中で

 俺はエリザ王女を自分の前に乗せ森をすすむ。

 乗っている馬をあまり早く走らせると王女の身体に響くため、速度は出せない。

 テレサと別れてしばらく経ったが、もう彼女は王都周辺に到着したようだ。

 その様子はシエナにドローンを一機つけて監視させている。


「あの、ラーズ様」

 エリザが話しかける。

「私は大丈夫ですので、できればもう少し急いでくれませんか?」

「しかし、身体に響きますよ」


 そんな会話をしているとシエナが、

『王女の言うとおり、急いだほうがいいかもしれません。王城は陥落寸前、テレサは先ほどまで王城にせまる勢いで敵を倒していましたが、人質を取られて今は身動きできなくなっているようです』

『く、では急ぐしかないな』


「では王女、少し急ぎます!つらくなったら言ってください」

「いえ、このくらい大丈夫です。構わず急いでください」


 俺はできる限り馬を急がせた。


 ◇◇◇◇◇◇◇



「な、なんだあの化け物は⁈」

 エルヘイム王国へ進行中のホーチ王国軍本陣で叫ぶのは、軍を指揮するダビデ・エイブ将軍だ。

「あれはエルヘイム王国の『閃剣のテレサ』です。わが軍を蹴散らしながらこちらに進んでおります。既に5千余りの兵が戦闘不能との報告が!」

 副官が叫ぶ。


「誰かどうにかしてあの化け物を止めてこい!もうすぐ城も落とせるというのに、奴がいてはすぐに取り返されるではないかっ!」

(こいつが『閃剣』、こいつさえ殺せばエルヘイム王国は終わりだ!)


 血管を浮き上がらせ叫ぶ将軍に、前線の伝令が耳打ちする。

「よし、よくやった」

 そう言って陰湿な笑いをみせる。


 ダビデ将軍の率いる部隊は、ホーチ王国の中でも有名な『白虎部隊』である。

 有名と言ってもそれは、戦での勲功が高いという意味ではなく、その残虐さ、非道さをもって知られている。


 その部隊は、他国の村や町に侵攻すると、無抵抗な民をまるでおもちゃのように扱い、残虐の限りを尽くす。

 それが女、子どもでさえ容赦なくいたぶり、蹂躙して殺す。

 周辺のどこの国でも嫌悪感を持っているのが白虎部隊である。


 そんな彼らは、それがまさに勇猛果敢なことであるかのように自分たちの中で解釈しているのでたちが悪く、人間の負の部分を煮詰めたような部隊であった。


 そんな部隊を率いるダビデ将軍が『閃剣』に向かって叫ぶ。


「そこまでだ『閃剣』!これが見えないのかっ」


 そこまで破竹の勢いで王城に向かっていたテレサが声の方向を見る。

 すると叫んだダビデ将軍の後ろに、二人が拘束され、一人が倒れているのが見える。


 捕まっているのは、エルヘイム王と王妃だ。

 それに倒れているのはエリザの兄、エルド王子だ。既にこと切れている。


 それを見たテレサは目を見開き、王の方を見て神経を集中する。


「すまない。エルド。最愛の我が子よ。余がふがいないばかりにこんなところで」

 王がそうエルドの亡骸に話しかけている。

 隣の王妃はエルドをみてただただ泣いている。


 テレサはエリザさえ無事であればいい。だが、彼女の愛する家族は守らねばならない対象である。

 テレサが、この状況を無視して敵に突っ込めば、もしかしたらホーチ軍を殲滅させることができたかもしれない。

 エルヘイム城内外にはまだ、少ないながら味方の兵も戦っている。

 それらも救うことができたかもしれない。

 ――――――――しかし。


「お前たちの勝ちだ。好きにしろ」

 そう言ってテレサは攻撃をやめ、ラーズにもらったブレードを手放した。


(エリザの悲しむ顔は見たくないな)


 そう思いながら、自分の命を諦めることにした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



『艦長、テレサが捕まりました』

『間に合わなかったか!』


 王都に到着した俺とエリザ王女は小高い丘から王都を見下ろす。

 王都のあちらこちらから黒煙があがり、それは王城も同様だった。


 いまだ民の悲鳴や、兵の戦う声が聞こえる。

 そんな中、王都の中心に位置する広間に到着する。


 俺とエリザ王女は馬をおり、周囲を警戒するが敵兵はほとんど王城へ向かっているようだ。

 そんな中、広場の中心で折り重なるように倒れる三人の亡骸を見つける。

 エルヘイム王と王妃、そしてエルド王子であった。


「!!!!! そんなぁ・・・お父さま、お母さま、お兄さまぁ・・・」

 エリザは膝から崩れ落ち、泣き崩れる。

 俺はそんな王女を抱きかかえ、目立たないように建物の中に移動させる。


『遅くなり申し訳ありません。ようやくロールアウトした航空戦力が王都上空に到着しました』


 それを聞いた俺は王女に話しかける。

「王女、俺は今から王城へ向かい、敵を殲滅します。王女はここに隠れていてください」

 するとエリザは、

「私も行きます。私には見届けなければならない義務があります。」

 泣きはらした目が痛々しいが、覚悟を決めた様子でそう言いのけた。


「それに、テレサが心配です。テレサにまで何かあったら・・・」

「では急ぎましょう」


 俺とエリザ王女は王城へ向かう。


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