第23話 王女と騎士 2
◇◇◇◇◇◇◇
(まさか、毒にやられるとは)
そう思いながら敵を蹴散らすのは『閃剣』の異名を持つテレサ・クレスト・バルドニアである。
Sランク冒険者であり、エルヘイム王国筆頭騎士、さらに第一王女親衛隊長を務める彼女の剣にホーチ王国の兵士はなぎ倒されていく。
「群れるなよ、うっとうしい」
いつもなら数百、数千の敵を相手にしても難なく殲滅することができる。
しかし、さすがに毒に侵された身体では思うように動かないらしい。
◇◇◇◇◇◇◇
エリザ一行は、ゴルドー男爵と会うことが叶わないまま、西へ向かい、ダンケ子爵領へ入った。
しかし子爵領にあるレッダという村に滞在中、護衛騎士やエリザ、テレサまでもがはやり病に侵される。
(これはまずいな)
そう思っていた矢先、ゴルドー男爵からの使者が町に到着する。
使者が言うには、
「ホーチ王国によって、各地の井戸に毒が巻かれている。決して井戸水を飲むことのないように」
というものだった。
しかし、時すでに遅く、皆が井戸水によって毒に侵されたあとであった。
みながみな重症で、動けるのはテレサだけだった。
そこでレッダの村はホーチ王国の襲撃を受ける。
エリザを連れ出すのがやっとだったテレサは、なんとか王都に帰還するべく、やっとの思いで王都までもう少しのところにある村までたどり着いた。
ホーチ王国軍は3万の兵で王都に侵攻中である。
それに合流しようとする、更なる1万の兵が東へ進軍していたところ、エルヘイム王国内にある小さな村を見つけた。
ホーチ王国軍はその村を蹂躙した。
村の奥にある小さな小屋の中で、エリザ・クレスト・エルヘイムは虫の息となっていた。
傍らで自らも毒に侵されながら看病するテレサの姿があった。
(毒をまき、その上で我が国に侵攻するとは、敵も容赦ないな)
そう思いながら、毒で発熱し、苦しむエリザの額のタオルを変える。
すると、外の気配の変化に気付き、テレサは立ち上がる。
(囲まれているな。いつもならもう少し早く気付いたと思うんだがな)
そう思いながら、エリザを抱きかかえ小屋の外に出る。
すると、小屋を包囲しているホーチ王国兵がこちらを取り囲むように立ちふさがる。
「二人とも、かなりの上玉だな」
「弱ってるみたいだが、関係ねぇな」
そう言って下卑た笑いを浮かべながら近寄ってくる。
テレサは、エリザを片手で抱きかかえながら、もう片方の手で自分の身の丈ほどある長剣を自在に操り、近寄るホーチ王国兵の腕を斬り飛ばす。
「うがぁぁ」
そう言ってホーチ王国兵は倒れこむが、多勢に無勢。
次々と押し寄せる兵にエリザを守りながら戦うのは困難と判断し、逃げの一手をとった。
エリザを抱えながらも、テレサはホーチ王国兵を引き離す。
敵を引き離してしばらくした後、森に入り、大きな木を見つけた。
その木の根元はちょうど人ひとり入れるくらいのスペースがある小部屋のようになっていて、外からも見つかりにくそうだった。
テレサはそこにエリザを隠したあと、追ってくるホーチ王国兵のもとに向かう。
敵は、毒を井戸に流した。
ならば、もしかしたら、敵兵が解毒剤を持っているかもしれない。
そこに一縷の望みをかけて敵兵のもとへ向かう。
ホーチ王国兵を何百が葬ったところで、敵兵の異変に気付く。
(いつもなら、ある程度数を倒すとひるむはずなんだがな。どうも敵兵の様子がおかしい。)
(死兵というわけでもない。おそらく幻覚作用のある薬を盛られているといったところか)
そう思ったテレサは、敵の勢いはすべてを殲滅するまでやまないと判断する。
いまだ、解毒薬をもった兵は見当たらない。
(自国の兵に薬を盛るような国が、解毒薬を兵に持たせるはずもないか)
そう考える。
自分の命だけなら諦めていたかもしれないが、エリザがいる。
エリザの分だけでも解毒薬を確保しなければ。
そう思ってテレサは戦い続ける。
自分の鎧が砕けようと、矢に貫かれようと、ひたすらに戦い続ける。
「フフ、お前たちは何のために戦っているのだろうな」
微笑みを絶やさずに戦い続けるテレサを見たホーチ王国の兵は戦慄する。
「アハハ、お前たちの生きている意味を教えてくれ」
そう言って満身創痍になりながらも、テレサは追撃のホーチ王国兵を全滅させた。
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