第22話 制圧会議 

「では今後のことについてですが」

 俺が話始めるとみんな集中して聞いている。


「俺はホーチ王国を制圧しようと思います」

「‼」

 全員が驚いてこちらを見つめる。


「もちろん民まで犠牲にするつもりはありません。しかし仲間が調べた結果、あの国は民を弾圧し、王侯貴族は腐敗しきっていると聞きました」

「情報は正しい。わしも長年隣国の噂を聞いておるが、民は圧政に苦しみが餓死者の数も毎年相当でているという」

「さらに毒を巻いている。民が使う井戸に毒を入れる。ただの虐殺行為です。しかもエルヘイム側はそれに気付いていなかった」

「そのとおりだ。はやり病なら仕方ないと・・・妻のリーザも、ホーチ王国に殺されたということだ」


 男爵は怒りを目に宿す。

 娘二人は、口をへの字に曲げて耐えている。


「そのような相手に話し合う余地はありません。これ以上の犠牲が出る前にホーチ王国には消えてもらいます」

「それに反対はないのだが、ラーズ殿にそれができるのか?」

「できます」


 断言する俺に、みんなに納得させるためなのか、男爵は続ける。

「確かにラーズ殿は強い。直接戦闘を見たわけではないが、わしは結果を目の当たりにしている。その結果を見れば、あの『閃剣』に匹敵するかもしれない」


(閃剣?)


「それに、毒のことといい、提供してくれた水のことといい、強力な仲間がいることも理解している」

 男爵は、紅茶を一杯すすって一息つく。


「だが具体的にどうやって、実行するつもりだ?」


 そう聞かれた俺はシエナとの相談したとおりに答える。

「俺と仲間でホーチ王国の王都を襲撃し、まず王族と上級貴族を捕らえます。その後、エルヘイム王家に判断を仰ごうかと思います」


「できるのか?本当にそんなことが」

「できます。男爵が鉱山を任せてくれたおかげで、色々と目途がつきました。まだ時間がかかりますが、私の母艦の修理ができれば、お見せしますよ」

「なんと、以前言っていたラーズ殿が乗ってきた船、いや軍艦か」

「そのとおりです」

「しかし海は遠いぞ。いくら大砲が強力でも、敵の城には届かんと思うが」

「いえ、『今回は』ホーチ王国の制圧に艦は使用しません」


(わしはいったい何者と話しておるのだ。冒険者になりたての若者・・・相当、いやかなり腕の立つのはもうわしでもわかる。しかし・・・)


「ラーズ殿は、軍ではどのような、いやまず、どこの国の者なのだ?」

「・・・ラクテ銀河帝国という国です」

「ラクテぎんがていこく?聞いたこともない国だが、帝国と称するところをみると、かなり力のある国なのか?」


(しかし本当に聞いたこともない。海を渡ったはるか遠くにある国なのだろうか。そんな遠くから軍艦でやってきたと・・・そうなると国力はこの大陸のどの国でも対抗できんほどなのではないか?)

 

 ゴルドー男爵は、とんでもないことに関わっている予感を覚えつつも、実際に今戦場になるかもしれないのは、この国と隣国なのだ。話を聞かないわけにはいかない。


「力は、そうですね。周辺では敵なしの国だと思います。ただ『ひとつ』を除いては」


(そんな強大な国にも敵となる国があるのか)


 そう考えるも、ラーズが話を続ける。

「俺の国のことはとりあえずまたとしましょう。今はホーチ王国のことです」

「そうだな、仮にホーチ王国を制圧したとして、その土地はエルヘイム王国に併合させるつもりか?」


「いえ、あの国には資源があります。ですので、我が国にて占領します」

「なんだと?いや・・・わしが決められることではないが、それができるのなら、エルヘイム王と交渉しなければな」

「ホーチ王国の王族貴族は、エルヘイム王が処断しなければ、こちらで処理をさせてもらいます。まずはそのようにエルヘイム王と交渉するつもりですが決裂すればある程度強硬することになります」


(ラーズ殿の口調は既に決定事項のように聞こえる。

国の行く末をそのように口にできるのは、それだけ地位が高いということか)


「あのぅ。ちょっといいでしょうか?」

 そう言ってネリーが手をあげる。

「うむ。冒険者ギルドとして気になるところもあるだろう」

「今のお話、どこまで本部に伝えればいいのでしょうか・・・」

 ネリーがおずおずと質問する。

「とりあえずホーチ王国が陥落するまでは、内緒にしておいてほしい。陥落したタイミングで情報は流してくれていい」


(ひぃぃ。とんでもないことになっちゃったよ~。私これラーズさんとギルドとの板挟み~?)


 ネリーはあわあわしている。

 それを横目にラーズは続ける。

「それから、ホーチ王国軍がエルヘイム王都に侵攻を開始しました」

「なんだと!」

「エルヘイム各地に毒を仕込み、弱ったタイミングで侵攻する作戦だったようです。おそらく毎年の被害も、毒の効果の実験だったと思います」


「なんと悪辣な!」

「ネリー。その情報はギルドに流してくれていい。それと、できれば王都の民衆の非難を頼みたい」

「でも、ギルドは戦争不介入ですよ」

「では、依頼として民衆の保護を頼む。依頼料は成功報酬で後ほど支払う」

「わかりました!」


「なぜだ?なぜラーズ殿がそこまでするのだ」

「できれば民は多く助けたいのです。後々の・・・人類の敵と遭遇した時のために」


 そう、この惑星ディアナ以外に人類が存在する惑星があるとは限らない。

 現状で確認できない限り、この惑星ディアナにしか人類はいないものと仮定するべきだ。

 そうなれば、いつになるかわからないが、アデルと対峙したとき、万が一この惑星が根絶やしにされれば、それで終わりだ。

 本国と連絡がとれない以上、この惑星を発展させ、人類圏を広げていくしかないのだ。


「人類の敵・・・ラーズ殿の国はそれと戦っておるのだな?」

「そのとおりです。詳しい話は、落ち着いてから」

「うむ。そうしよう」

「俺は、王都に進行中のホーチ王国軍の追撃にでます。今からだと、おそらく間に合いませんが、なんとか被害を軽減をさせます」


(侵攻のこと、事前に情報を得ておったのか。それでも毒のことでこの地にとどまっておったのだな)


「わかった。ラーズ殿の国のことはまだよくわからんが、ラーズ殿は信用できる。わしにどう動いてほしい?」

「ありがとうございます。まずリーベルを防衛できるだけの兵を残して、それ以外は兵を王都に向かわせてください」

「うむ。わかった」

「それから、おそらく王都の被害は免れないでしょう。多少足が遅くなってもいいので、支援物資などをお願いします。解毒剤も積んでいってください」

「うむ。ではさっそく準備にかかろう。テッドはこのことを兵長らに伝え、街の防御を固めろ」


「は、はい。了解しました!」

「じゃあネリーはホーチ王国の侵攻のことと、各地にまかれた毒のことをギルドに伝えてくれないか」

「はい。わかりました!」

 そう言って、テッドとネリーが部屋から出て行った。


「ラーズ様。わたくしたちも何かできることはございませんか」

 姉妹が両手を胸の前に組んでそう聞いてくる。

「ではヒルデ嬢とアルテ嬢は、避難民対策の準備を。おそらく王都やその周辺の村などからかなりの数が流れてくると思います。解毒剤も必要になるので備蓄分を手配してください。それと各領地への解毒剤の手配もお願いします」

「わかりましたわっ!」

「任せてください、なのです!」

 そう言ってふたりもパタパタと部屋を出て行った。


「・・・しかし、そういった情報はどうやって手に入れておるのだ?持っている情報の範囲が広すぎんか?」

 二人になったとたん男爵が聞いてきた。


「仲間、というか我々の武器である科学技術というものです。それもまた落ち着けばお話しましょう」

「わかった。それから、この一件が終われば、祝賀会を開くぞ!ラーズ殿は冒険者登録して日が浅いが、功績は抜群だ。ギルドランクの昇級が決まっておる。本当は今日その話をするつもりだったが、まさかこんなことになるとはな」

「そうだったんですね。それは知りませんでした」


「ネリーもその話をするつもりだったと思うんだがの。祝賀会は毒の件のお礼も兼ねる。派手にやるぞい」

「楽しみにしています」


 俺は部屋を出て、さっそくホーチ王国軍の追撃の準備にとりかかった。



 一時間後。


(よし。準備はできたな)


 ナノブレードや帝国正式アーマー、帝国式パルスライフルを装備し、バッテリーなど諸々をドローンに格納させリーベルを出発した。

 大型ドローンであれば乗って王都に向かえただろうが、今のところ小型ドローンしかない。

 順次旗艦からロールアウト予定だが、航空戦力の増強を優先した結果、まだ間に合っていない。

 途中までは男爵に借りた馬に乗って早掛けし、馬が力尽きたら全速力で走るしかない。

 乗馬についてもディアナ降下前にカプセルで予習していた。

 最初の数分こそ慣れない感じはあったが、それ以降は予習通り乗れていると思う。

 平時なら遠乗りでもしたいところだが、今はそうはいかない。


 エルヘイム王都はリーベルから南東に位置している。

 しばらく馬で南へ駆けていくと、以前貴族の馬車の一団を目撃した丘に差し掛かる。

 ここは三叉路になっており、これを東に進むとエルヘイム王都だ。


 だがここから王都まではまだ数百㎞ある。

 そろそろ馬も疲れてきた様子だ。

 馬を休ませるようにゆっくり歩かせる。


『この先で交戦している一団を確認しました』

『ホーチ王国兵だな』

『はい。騎士一人に多数のホーチ王国兵とみられる一団が群がっているようです』

『一人にか。どうせ通る道だ。助けるぞ』

『騎士は、以前この付近で確認した馬車の一団の護衛騎士と一致しました』

『あのときのか』

そう言って馬を降りた俺は東の森へ向けて、駆けていくのだった。

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