第21話 信頼できる
俺とテッドとネリーは男爵の館の前で合流した。
ネリーはそうでもないが、テッドは緊張してる様子だ。
館の扉を使用人があける。
「ようこそいらっしゃいました。男爵様がお待ちです」
そう言って屋敷内に案内される。
「館のわりには庭がかなり広いな」
廊下を歩く俺が呟くとネリーが答える。
「この館が立つ前は、ここに小さな城が建っていたんですよ。それが城塞都市の由来になっています」
「なるほど」
観光案内をされているようで変な気分だったが、やることがすべて終わったらゆっくり各地を見てまわりたい。
そういった意味では冒険者を選んだのは正解だったかもしれない。
まぁそんなときは来ないような気はしている。
そんなことを考えていると、男爵の部屋の前に到着した。
使用人が扉を開けて、部屋の中へ促される。
男爵はそんな俺たちを出迎え、
「よく来た。あまりゆっくりはできんが、色々話したいこともある」
「俺もです」
「ラーズ様、ようこそいらっしゃいましたわ」
「いらっしゃいませなのです!ラーズ様」
ヒルデとアルテも同席する様だ。きれいなカーテシーを披露する。
(これだけ見ればちゃんとした貴族の娘に見えるな)
「・・・ラーズ様。何か失礼なこと考えてはなくて?ですわ」
(ま、魔法か⁈)
『ヒルデに魔因子の反応はありません』
シエナに突っ込みをもらったところで、全員がソファに腰掛ける。
「さて、さっそくだが、今から国の一大事の話をするわけだが、この人選で良かったのかね?」
男爵がそう尋ねる。
ネリーについてはギルド職員なので、ギルドを代表してということであれば、なんとか理由にはなるだろう。
テッドは・・・確かにただの門番だ。
そこに男爵は疑問を覚えたのかもしれない。
テッドを見ると、カチコチに固まって冷や汗をかいている。
「テッドは、俺がこの街で一番信頼している人間です」
「ほう」
「俺には成すべきことがあります。ある方から受け継いだ使命とでも言いましょうか」
「ふむ」
「それを成すためには、より多くの人の協力が必要なのです。実際にゴルドー男爵には色々助けてもらっております」
「それは当たり前だ!わしの娘二人の命を救ってもらったのだ。それだけではなく、この街も病・・・いや毒から救ってくれたのだ。そんな人間の協力を拒むほど落ちぶれてはおらん」
それを聞いていたヒルデとアルテは、色々と思うところがあるのか、悲しそうな顔をして聞いている。
「それをさせてくれたのはテッドのおかげです」
「‼」
テッドはこちらを向いてびっくりした表情をしている。
「男爵もご存じでしょうが、俺がこの街に入れたのはテッドのおかげです」
「うむ」
「最初にこの街を訪れたとき、金も身分証もない俺を街に入れてくれたのはテッドです。あそこで街に入れなければ俺はすんなりあきらめて他の街に行っていたでしょう。そうすれば、今回の件に関わることもなかったでしょう」
「むぅ。それはそうかもしれんな」
男爵はそういってテッドをみる。
「いや、俺はただ面白そうだと思ってちょっと助けただけです。金もあとでちゃんと返してもらうつもりだったし」
「だがラーズ殿の言う通り、お主がラーズ殿を街に引き入れたおかげで、多くの命が救われたのも事実だ」
それを聞いたテッドは「きょ、恐縮です」といって下を向く。
「確かにテッドはこの場にふさわしい者だ。とんだ失礼をした」
そう言って男爵はテッドに向き直る。
「何か褒美を取らさねばならんな・・・よし、テッドはこれより門兵より昇格し、領主軍の百人隊長だ、頼んだぞ」
「ええ~俺がですかい?」
テッドは目を丸くして驚きこっちに視線を向ける。
俺は無言で頷く。
(良かったなテッド。給料あがるぞ)
「さて、そろそろ本題に入ろうか」
男爵はそう言ってテッドの話を強制終了させた。
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