第17話 病と毒
その日の夜、鉱山でさっそく降下ポッドの回収を行い、ロボットやドローンを鉱山内部に設置、稼働させた。
あとは放っておけばシエナが指示して採掘、掘削、地下鉄の建設へと移行していくだろう。
翌朝、宿に男爵の使いが慌ててやってきて、なるべく外に出ないようにと伝えてきた。
はやり病が発生したというのだ。
リーベルでは定期的にこういった病が発生し、毎年数十人の死者が出ているらしい。
『伝染病か?とりあえず原因を突き止めないとな』
そう言って部屋を出ようとするがシエナから通信が入る。
『艦長、リーベル周辺に配置したドローンのログを回収精査したところ、何者かがこの街の井戸数ヶ所に毒を混入させていることが判明しました』
『毒だと?誰がそんなことを』
『おそらく、ホーチ王国の関係者と思われます。既に街の外へ脱出しております』
(井戸に毒を入れるなど、ただの虐殺で、テロ行為だ。
軍や兵隊を狙うわけではなく、民間人を狙う…許せる行為ではない)
『とりあえず成分を分析して解毒薬を作る』
『了解しました。男爵の言っていた毎年のようにあるはやり病の被害と言うのは、状況を考えると、おそらくこの毒によるものです。毎年定期的に毒を混入している可能性が高いと判断します』
(病に見せかけるとは。街の人間は疑いもなく井戸水を飲む。もしテッドやネリー、男爵や娘たちが飲んでしまったら・・・)
そう考えると、いてもたってもいられず、男爵の館に走り、井戸の水を飲まないように街中に指示してほしいと頼み込んだ。
男爵は、
「毒⁈・・・毎年のように起こったはやり病が毒だっただと⁈では・・・リーザは・・・」
そう言ってこぶしを握り締める。
「手の打ちようはあります。毒の成分を分析できれば、すぐにでも解毒剤が作れると思います。しかし人手が足りません!」
そう言うと、
「作れるのか⁈・・・よし、必要なものはすべて用意する。被害を最小限にするためにわしの名前を使え!」
そう言って、手形を預けてくれた。
男爵から正式に「井戸の水を飲むな」という触れをだしてくれるらしいが、既に水を飲んでしまった者も多い。
触れが浸透するまでも被害は増え続けるだろう。
男爵に報告したのち、俺はすぐに井戸の水の収集に向かい、成分分析に回す。
『艦長、ホーチ王国東端に集結していた軍がエルヘイム王都へ向かって進軍を始めました』
『そういうことかっ。クソッタレ!』
(戦争のために民間人を犠牲にする。過去の戦争ではよくあった光景だ。だが実際に知り合いが巻き込まれるかもしれないとなると、こんなに胸クソが悪いとは)
ホーチ王国はおそらく、エルヘイム王国の脅威となる領の主要な町に毒を巻いているのだろう。
『まだ情報の収集体勢が脆弱ですが、エルヘイム王国内の各領でも同じような毒の症状を訴える者が続出しています。相当数の工作員がエルヘイム王国内に潜伏しているようです。王都でも同様の被害を確認しました』
『リーベルで毒の治療を完了したらエルヘイム王都へ向かう。シエナは並行して準備を頼む』
『了解しました』
先ほど井戸水に含まれる毒の成分を解析したが、地上で解毒剤を精製するのは無理と判明し、シエナに旗艦内で十分な量を作らせることにした。
数時間後、ある程度の量の解毒剤を精製できたと、シエナから連絡が入った。
出来上がった分から順次、薬を降下ポッドに入れて、飲料水とともに降下させる。
問題は降下地点だが、街に近すぎると大騒ぎになる。
しかし遠すぎると手遅れになる人が増えてしまう。
こうしている間にも被害は拡大している。
(どうするか・・・人命優先だ!)
一応男爵には鉱山方面は封鎖してもらい、鉱山と街の間、街に近い平原にポッドを降ろすことにした。
今のところ、毒の症状が出ているのは200人程度らしい。
リーベルの人口は約2万人。
まだまだ被害が増える可能性は高い。
それにどの井戸に毒を入れられたのかが掴み切れていない。
井戸が地下でつながっている可能性も高いので、井戸は全面封鎖しなければならない。
旗艦の備蓄である精製水をポッドから街まで運ぶのにもある程度人手がいる。
やむを得ない。
俺はまず門番であるテッドのもとへ向かう。
今日は当番の日らしく、きちんと門番をやっていた。
「テッド、手伝ってくれ」
「いいけど一応仕事中なのよね」
「男爵の許可はとってある。急ぎである程度の人手がいるんだ」
「許可があるならオッケーだ。だがちょっとは説明しろい」
「今また病が流行ってるだろ?あれは病でなく毒の可能性が高い」
「はぁ⁈なんだと。どこの誰がそんなことを・・・」
「細かい説明はあとで必ずする。今は急を要する」
「俺の知り合いも昔ので死んでるんだぞ。小さい子どももだ。クソ」
テッドは唇をかみしめて
「兵長に話をつけてくる!何人必要だ?」
「とりあえずは2,30人で足りるはずだ。それより手押し車を何台か借りれないか?」
「それなら商業ギルドだ。先に冒険者ギルドに行ってネリーに仲介してもらえ」
「わかった」
俺は冒険者ギルドまで走った。
「ネリーいるか?」
「はい。ラーズさんどうしました?」
「急ぎで手押し車を商業ギルドから借りたい。一緒に来てくれないか?」
「えっ!でも」
俺はかいつまんで事情を説明する。
「まさか井戸に毒・・・男爵のお触れはそういうことだったんですね」
ネリーの顔は真っ青になっている。
「薬ときれいな水は確保した。あとは運ぶだけだ」
「わかりました。ギルド支部長に説明してきます。・・・いえやはり説明は後にします。急ぎましょう!」
「助かる!」
そう言って二人で冒険者ギルドを飛び出し、商業ギルドへ向かう。
商業ギルドでは若い男がギルド内を指揮していた。
線の細い、人のよさそうな糸目の男性だ。
流行り病で、もろもろ必要なものが多いらしく結構な忙しさみたいだが、ネリーがお構いなしにその男に話しかける。
「シャル!手伝って!」
ネリーに気が付いていなかったのか、シャルと呼ばれた男はビクッとしてこちらに向き直る。
「どうしたんですかネリー。そんなにあわてて」
聞くと、このシャルという男はリーベル商業ギルドの跡取りらしい。
ネリーが事情を説明する。
「毒・・・ですか」
周りに聞こえないように声をおとしているものの、かなり驚いている様子だ。
「わかりました。男爵様も知っていることなら、お手伝いします」
そういうと荷車を数台用意してくれた。
これだけあればとりあえずは大丈夫そうだ。
「ここは他の者に任せて、私も何人かを連れて向かいます」
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