第16話 鉱床の確保
翌朝。
顔を洗って、館の食堂に向かい、男爵と娘二人とともに朝食をいただく。
(白いパンと野菜、スープにブルストか?さすがに安宿のものと違って、丁寧に作ら
れている感じがする。ナノマシン【ネイン】のためにも、もう少し食べたいが、がっつくのもみっともない)
それにしても、ヒルデとアルテが先ほどからちらちらとこちらを見てくる。
視線を合わせると二人とも恥ずかしそうに俯いてしまった。
軽めの朝食を終えると、そのまま本題に入る。
男爵は、コックやメイドを下がらせ、食堂には俺、男爵、ヒルデ、アルテの四人だけが残った。
「さっそくですが、なんでも褒美をやる、とのことでしたがそのことで」
「もちろんだ。娘たちを助けてくれればわしができることは何でもやるといった。二言はない」
そう言うと、俺はシエナとの打ち合わせ通りに話し始める。
「では昨日、アルテ嬢が・・・」
そう言いかけたとき、アルテがガタッと音を立てて立ち上がって、口に手を当てて顔を真っ赤にしている。
反対にヒルデは椅子から転げ落ち、こちらも顔を覆って・・・泣いてる?
「どうかしましたか?」
俺が問いかけると、男爵は
「構わない。続けてくれ」
ヒルデは、
「わたくし、異存はありませんわ。でも想い続けることは許してくださいまし」
そう言ってやっぱり泣いている。
(なんだこれ)
「何か誤解があるようですが、昨日アルテ嬢が囚われていた鉱山の採掘権を譲っていただきたい」
そう告げると、ヒルデはぱぁっと表情に光が戻り、アルテは明らかにガックリした様子で立ち尽くしている。
(面白い娘たちだなぁ)
そう思っていると、男爵だけは真面目な顔で、
「鉱山の採掘権?それは構わんが、一介の冒険者が一人でどうするつもりだ?」
「昨日、私には仲間がいるといいましたが、彼らに任せて発掘作業を行います。今よりもっと大規模に。その使い道については段階的に説明しようとは思いますが、今は少し待ってください」
「もともとあそこの鉱山は鉄を少し取っておるが、大した量ではない。まだまだ埋まっておるのはわかるが、そもそも需要がない。今から戦争になれば需要は増えるだろうがの」
「別に特需を狙うつもりはないんです。しかし我々は大量の資源を欲している」
「我々と言ったの。その仲間とやらに会わせてはくれんのか?」
「少し考えさせてください」
『会いたいって』
『現状でそうする必要性がありません。私以外は今のところ、アンドロイドとロボット、ドローンくらいしかいません。混乱させるだけと判断します。アンドロイドであればまだ許容範囲かもしれませんが、これについてはまた後ほど』
『ん?わかった。まぁそうだよな』
俺は男爵の方へ向き直り、
「仲間と会うのはもう少し待ってくれますか?」
「わかった。楽しみにしておこう」
「話の続きですが、我々以外にはあの鉱山に当分の間、近づかせないようにしてほしいのです」
「それは独占したいということか。娘を助けてもらったので聞いてやりたいが、薄給ながらもそこで働くものがおるのでな」
「あそこで働いている方々の給料は私が持ちます。代わりに鉱山周辺のパトロール任務について欲しいのです。何かあれば私に報告してもらえればそれでいいのです。なんなら三食もつけましょう」
本当はもう少し段階を踏んでいくつもりだったが、思いのほか早く鉱床が手に入りそうなので計画を前倒しする。
金銭については、採掘で得た鉱物を材料にしてデュプリケーターで製造する。
あとはガンガン鉱物を掘削して何とか旗艦へ送り込む道筋を立てたい。
「まてまて、そんな金があるのか?わしの方で持ってもいいんだぞ。そもそもあの門番に金を返すために冒険者になったのではないのか?」
「その通りですが、この鉱山の採掘権を得ることで色々とこちらも目途が付くのです。少し時間をもらえれば、この鉱山からかなりの利益がでると思います。その利益のうちいくらかは男爵にお返しいたします」
そう言うと男爵はため息をつき、こちらに向き直る。
「一割だ。わしの取り分は一割で良い。しかしそのかわりに教えてくれ。ラーズ殿は冒険者になる前は何をしていた?」
俺は一呼吸おいて答える。
「軍人をしておりました。いえ、現在も軍に所属はしております」
そう答える。嘘を言う必要は特にないと考えた。
「軍人だと?どこの国だ。もし本当だとしても何故資源を抑えようとしているこのタイミングで答える。工作員と疑われても仕方ないぞ」
「わかっております。できればあまり嘘は言いたくいない性分でして」
見渡すと娘二人は男爵と俺を交互に見てオロオロしている。
「国については・・・詳しくはまだ話せません。話したとしても信じてもらえないと思います。もう少し時間をください。それと、俺はもう国には帰れません。乗ってきた船が大破したうえ、国がどこにあるのかがわからなくなってしまったのです」
自分でもなかなか荒唐無稽なことを話している自覚はある。だが真実だ。
俺の様子を見て男爵が言う。
「ラーズ殿。よそではこの話はするなよ。ヒルデにアルテ、お前たちもこの話は口外無用だからな」
「わかりましたわ」
「わかりましたのです」
(どうやら何とか納得してくれたみたいだな。信用してくれたかはわからないが、及第点だろう。しかし早いうちに成果を出さないとな)
『男爵の様子からして、疑っているわけではないが、直接確認したい。というところでしょうか』
『そうだろうな』
一つの山場を越えて、とりあえず俺は安宿に戻った。
安宿の部屋でシエナと作戦会議に入る。
『とりあえず、鉱山は確保できたな』
『資機材を鉱山付近に降下させます。目立たないように夜間に実行します』
『わかった』
『それから、鉱山の地下には大規模な鉱床がありますがそれについても順次掘削していきます。さらにこの城塞都市リーベルから南東へ約1500㎞の地点に、拠点とすべき無人の島を発見しました。その島の地下にも鉱床があることが判明しました』
『おぉ、それは朗報だな』
『その島の地下から北西方向へ、不自然とも思える空洞が伸びておりました。調査したところその空洞はこのリーベル付近までつながっておりました。かなり深く掘る必要がありますが、その間を貫通させれば、リーベル鉱山の地下とその島を行き来させることができると判明しました』
『かなりの距離だな。資材は大丈夫なのか?』
『2地点ともに鉱床が大規模なので可能です。2地点間の鉱床を鉄道でつなげれば、お互いに産出できない資源を補い合うことができます。レアメタルについても相当量確保できる見込みです。まず、地下鉄道建設後は無人島にマスドライバーを建設し、その後、時間はある程度かかりますが宇宙エレベーターを建設致します』
『宇宙エレベーターはさすがに目立たないか?』
『目立ちますが、いずれ必要な施設です。早い方がリスクは減ります。なお無人島の周囲は他の島ひとつなく、特殊な海流もあわさって人類が到達しにくい場所です。すぐに騒ぎになることはないと想定しております。必要なら、周辺の光の屈折を利用して認識阻害効果を発生させることもできます』
『なるほど。それなら大丈夫だな。早速取り掛かってくれ』
『了解しました』
なんだか一気に問題が解決した。
だが目下はエルヘイムとホーチの戦争だな。
『戦争の件だが、とりあえずリーベルは何があっても守るとして、エルヘイム王都はどうだろうか』
『現状、王都エルヘイム周辺の土地に鉱床はなく、あまり価値があるとは思えません。かわりにホーチ王国内には地下油田が分布されているのを発見しました。ホーチ王国では油田に気が付いている様子はありませんが、発見したところで今のところ活用できるとは思えません。我々で接収し、有効活用した方がよいと判断します』
『うーん他の国に攻め込むのか。まぁホーチ王国もろくな国じゃないみたいだし、民も圧政で苦しんでいる。解放するとしても問題はそのあとだな。誰がホーチ王族の代わりに統治するのがいいか』
未開惑星における帝国を介さない政治的介入は帝国軍法違反にあたり銃殺刑であるが、この惑星での作戦は元帥命令の延長だ。
それにこの宙域がアデルの生息圏であれば、未開惑星の保護が優先されるはず。
なんとか許してほしい。
『統治については、我々の把握しているこの惑星の適任者といえばゴルドー男爵しかいません。統治能力的には、問題はないと判断します』
『そう簡単にはいかないと思うけど』
『同意見です。ですので、これについては別に進言したい案がありますが、また後日に』
シエナの意見に頷き、俺は内容をまとめる。
『とりあえず油田の件は保留だ。国同士の戦争にはできる限り介入したくない。リーベルは守るが、王都は自分で防衛してもらおう。とりあえず王都へは男爵から密書を届けているらしいし、大丈夫だろう』
この時の判断を俺はのちに後悔することになる。
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