第14話 男爵と娘たち 3
ヒルデの悲痛な声をしっかり聴いていた俺は、一旦宿の部屋に戻り、
『全速力で助けるぞ!シエナ、サポートを頼む』
『了解しました。
『鉱山?』
『そうです。我々が必要としている鉱床の一部になります。山の裏側はめったに人は来ない様子で、隠れるには適しているところです』
『現地調査の手間が省けるな。とはいえ今はアルテ嬢の救出が優先だ』
『救出作戦の前に得た情報を共有します。先ほど送ったファイルを確認してください』
そう言われてネイン経由で頭の中に送られてきたファイルを確認する。
『これは・・・政治がらみか』
『そのようです。隣国、ホーチ王国の工作とみて間違いありません。我々のいるエルヘイム王国の王都を陥落させるため、ホーチ王国の東端及び国境の各要所に兵を集結させております。
このゴルドー男爵領は、爵位は高くありませんが、国内の他の領より裕福であり、軍備も整っています。男爵の娘を人質にとることで、王都が陥落するまで男爵の兵を領内に足止めし、王都に加勢させない工作のようです。
特に男爵領兵が南下すると、王都との二正面作戦になるので、男爵を先に抑えた形のようです』
『それで年端も行かない娘を攫うとは。なかなか卑怯なことをする国じゃないか』
『ホーチ王国の国民性も影響しているようです。リサーチしたところ、民全部がとは言いませんが、特に貴族は選民意識が高く、自尊心も高い。「見栄っ張りで他人の迷惑を考えない」というのがエルヘイム王国内でのホーチ王国の評価です。
実際に同国の情報収集を始めましたが、民への圧政がひどく、王侯貴族ともに腐敗している状況を確認しました』
『隣国と仲良く話し合い、とはいかなさそうだな』
『おそらく難しいと判断します。ホーチ王国の王侯貴族を放置したままだと、将来の作戦に支障が出る可能性が非常に高いと想定されます』
『鉱床の開発に横やりを入れられても面倒だ。この機に何とかしておきたいな』
『了解しました。救出作成と並行して隣国への作戦を立案します』
誘拐事件が、国ぐるみの工作とはいきなりスケールが大きくなったな。
しかしとりあえずは、アルテ嬢の救出という方針に変わりはない。
本人も怖い思いをしているだろう。なるべく早く助けてあげたい。
俺が気合を入れなおし、宿から出ると、宿の前にゴルドー男爵が立っていた。
「頼むぞラーズ殿!無事に娘を助けてくれたらわしのできることは何でもする!だから本当に頼むぞ」
「任せてください!必ず無事に連れて帰りますよ。救出後、相談したいことがあります」
「無事に帰ってきたら何の相談でも乗るぞ」
そう言って俺は単身、ターゲットのいる鉱山へと向かった。
もう日は暮れており、鉱山のふもとの町にはいくらか明かりが見えるが、にぎわっているわけではなく、さびれた印象だ。
鉱山の裏側をサーチすると、見張りは7人、ふもとの小屋に3人、床に座らされている女性が一人いるとわかった。
(おそらくこの女の子がアルテ嬢だろう。なるべく騒がせずに全部倒したい)
様子を見て、チャンスを窺う。
小屋の中では、3人の男がアルテを監視していた。
しかしそのうちの一人が、
「こんな小さな女の子を監禁して何をする気だ!怪我までしてるじゃないか」
「うるせぇぞトム。お前は言われた通りこいつを見張ってりゃいいんだ」
そう言ってガラの悪い男がトムと呼ばれた男を睨む。
「言うことを聞けトム。いいかお前が言うことを聞かなきゃお前の嫁と娘は返ってこねぇぞ」
リーダーと思しき男がナイフをひけらかしながら言う。
そう言われたトムはグッと唇をかむ。
「私をどうするつもりなのですか?」
後ろ手に縛られて座らされているアルテがリーダー格の男に聞く。
「どうもしねぇよ。しばらくおとなしくここにいて、時期がくりゃあ隣の国へ移動だ」
「そのあとはどうなるの?」
「お前が知る必要はねぇよ、おいダズよく見とけよ」
そう言ってリーダー格の男は小屋の外で出て行った。
残されたダズと呼ばれたガラの悪い男とトムはしばらくアルテの様子を見る。
アルテは、水色の長髪をツインテールにしており、肌の色はヒルデと同じで白く、綺麗な肌をしていた。
ドレスはところどころやぶけ、殴られた顔は少し腫れている。
「それにしてもさすが貴族様だなぁ。まだガキだが可愛らしいよなぁ」
そう言ってアルテに手を伸ばす。
劣情を向けられたアルテは、恐怖におびえた顔をしながら
「いやっ!触らないで!」
アルテは逃げようとするが縛られているので逃げられない。
「こんな小さな子に手をだすな!それだけは見過ごせん!」
トムがアルテの前に出て庇う。
「テメー、トム邪魔すんじゃねぇ!」
そう言ってトムにナイフを突きつける!
トムがガードするが、腕にナイフが刺さる。
「ぐっ」
トムはそれでもアルテを庇おうとする。
ダズは勢いをつけてトムを蹴り飛ばす。
トムは置いてあった木箱の角に頭をぶつけて気を失う。
「ふーやっと邪魔者がいなくなったぜ」
そう言ってアルテの方を見て、ニチャと笑う。
ダズはアルテに近づき、ドレスを強引に引っ張る。
「嫌だやめてぇ!助けてお父さま!お姉さま!」
その直後、ドガッ!という大きな音とともにドアが派手に蹴り飛ばされた。
「何だ?」
アルテに覆いかぶさっていたダズが振り向くと同時に、飛び込んできたラーズの蹴りがダズの横顔に炸裂する。
ダズは吹っ飛んで壁に叩きつけられ失神した。
「大丈夫か?君がアルテ嬢だね」
心配そうなラーズの顔を見てアルテは
「助けに来てくれたの?」
と上目使いで聞いてくる。
俺は、
「そうだよ、君のお父さんのゴルドー男爵とヒルデ嬢に頼まれたんだ」
アルテの縄をほどきながら答える。
アルテはそれを聞いて、ラーズの胸に飛び込んできた。
「怖かったよー。うわぁーーん!」
そう言って泣き始める。
無理もない。年端も行かない女の子がこんなところで監禁されて、しかも暴力まで振るわれたのだ。
殴られたであろう頬も少し腫れている。
さっきまでずっと我慢していたのだろう。しばらく泣き続けた。
ようやく少し落ち着いてきみたみたいなので、俺は立ち上がり、アルテに毛布を掛けてやる。
「多分周りにたくさん敵がいるのです。気を付けてください」
泣き止んだアルテが言う。
俺は外に出てから小屋の中のアルテに、
「全部制圧したからもう安全だよ」
と告げる。
アルテは小屋の外に出て周りをキョロキョロ。
「もしかしておひとりですべてやっつけたのですか?」
ドローンの支援もあったが、説明できないので、
「あぁ~そうだね。今日は一人かなぁ」
そう答えると、アルテは目をキラキラさせながら
「あなたのお名前は?」
とすごい勢いで俺の手をつかみ聞いてきた。
「ラーズ・ロンフォールと申します。アルテ嬢」
そう言うと
「ロンフォール卿・・・いえラーズ様!私と結婚してください」
「はい?」
見た目と違ってなかなか勢いのある子だと思っていると、
「はっ!ラーズ様そういえば」
そう言って小屋を指さす。
「私を庇ってくれていたおじさんがいるのです。助けてあげてください」
そういって俺の袖を引っ張る。
さっき飛び込んだ時に倒れてたヤツだな。
トムとか言ったか。
外の敵を倒しながら、虫型ドローンで小屋の中をモニターしていたので大体の事情はわかっている。
トムの様子を確認する。
ナイフで刺された傷はとりあえず止血した。頭の傷を確認するが、多少出血はしているが軽い脳震盪を起こしている程度で軽傷と判断した。
「止血もしたし、今は気を失っているけど、大丈夫だよ」
そう言うとアルテはホッとした表情をした。
「もうすぐ男爵たちも到着すると思うよ」
そう言うとアルテは、ぱぁっと笑顔になり、
「本当ですか?」
と嬉しそうだった。
(そうだよ。子どもはこういう笑顔が一番!)
「このトムと言う男も男爵が来たら手当てしてもらおう」
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