第11話 ネズミ討伐
「はい。これで登録完了です、Fランクからのスタートになります」
そう言って満面の笑みを俺に向ける。
テッドは態度の違いに不服そうだ。
「とりあえずFランクでも受けられる討伐系の依頼はないかな」
「・・・いきなり討伐の仕事は危険だと思います。あるにはありますが、パーティを組むとかじゃないとお勧めできません」
(真剣な顔でネリーが言う。心配してくれているようだ)
「無理はしない。テッドがいてくれるし大丈夫だよ」
(テッドは一応Dランクだから大丈夫だろう)
「えっ、俺も行くの?」
そう答えるとネリーが
「あんたラーズさんと一緒に行きなさい!これでこの前のことチャラにしてあげるわ。そのかわりケガさせたら許さないからね!」
そう言って依頼を受けさせてくれた。
バックパックは邪魔なのでネリーに預けておく。
討伐対象は、ウォーラットというネズミを大きくしたような魔物の討伐だ。
魔物については、この惑星に降下してからここリーベルに着くまでに何度か見かけた。
魔物と他の動物の違いは体内に【魔石】と呼ばれる器官があるかどうかの違いらしい。見た目は動物を禍々しくしたのから、人型に至るまで色々な種類がいるようだ。
とりあえずの脅威にはならないと判断して、いまだ戦闘はしていない。
ともかく、ウォーラット3匹の討伐依頼を受けてギルドを後にした。期限は1週間だ。
失敗するとペナルティがある依頼もあるらしいが、今回は失敗しても大丈夫な依頼のようだ。
「依頼まで手伝わせて悪かったな」
「いや、いいぜ。もともと一緒に行くつもりだったからな」
「えっ、でもさっきは」
「ああ言っときゃ、借りがチャラになるかと思ってな」
(意外と策士だな)
ちょっと感心しつつも、さっさと依頼を終わらせたいので街を出て森に向かう。
「おおーい、お前さん剣士で登録したが、剣は腰のそのちっこいやつか?」
そういうテッドを横目に、腰に巻き付けた皮ベルトからナノブレードを取り外す。
折りたたみ式なので剣には見えないだろうが、さやから出して稼働させると、折りたたまれた刃が自動でブレードに展開した。
「なんだそれ!」
ものすごい形相でテッドが聞いてきたので少し仰け反って答える。
「まぁ剣だよ。俺はブレードって呼んでいるけど」
明らかにこの惑星の水準からするとオーバーテクノロジーの一品だが、事前にシエナとの打ち合わせである程度のテクノロジーは見せてもよいと判断していた。
見せたところで再現は不可能だし、今後の効率を重視した形だ。
「アーティファクトじゃねぇのか?初めて見た」
感心するテッドに質問する。
「アーティファクトって?」
「いやまさにお前の持っているような武具のことだよ。いや武具以外にもあるって聞いたことあるけど詳しくは知らねぇ」
(同じような武具がこの惑星に存在するというのか)
「お前さんのその剣、なんか鈍く光ってないか。もしかして魔法剣ってやつか⁉」
(魔法?そんなものまであるのか。そんな非科学的な・・・)
『シエナ』
『はい。この惑星に降り立ってから、いえ旗艦シエナ・ノーザンディアが不自然なワープアウトをした時から、正体不明の因子を確認しています。何かしらの作用素であることは間違いありませんが、我々の知識では今のところ説明できないものです』
『この中世のような世界で我々の知識が及ばない因子だと。いったいなんだ。光因子のようなものか?』
『類似点はいくつかありますが、別のものと判断します。現状では不思議な何か、としか答えようがありません』
(ワープアウトした時からというと、この惑星自体が何か不確定要素を含んでいると判断すべきか。しかし魔法・・・いよいよファンタジーだな)
「おーいラーズよ。大丈夫か」
テッドの声で我に戻る。
「いや、魔法というものに詳しくなくて」
「あぁ魔法か。あれは使える者しかわからないんじゃねぇか。そもそも魔法を使える奴が珍しいからな」
(みんなが使えるわけじゃないのか)
「テッドは使えないのか?」
「使えるわけねぇ。使えてたらDランクで止まってねぇよ」
「そうか」
そう言ってナノブレードに目をやる。
ナノブレードは名前の通り、刃にナノマシンを纏わせている刃だ。
ナノマシン【ネイン】を通じて指示をだせば、切った相手の傷口に侵入し、毒となる物質を生成することもできるし、燃やすこともできる。
ある程度の距離ならナノマシンを飛ばして、離れた相手を斬ることもできる。
ナノマシンを著しく損耗すると効果はダウンするが、さやに収めることでナノマシンを補充できる。
さやには、小型のナノマシンプラントが取り付けられており、メンテナンスしておけば性能を維持できる。
ナノブレードの発展型だと、ブレード自体にナノマシンプラントが埋め込まれており、例えばナノマシンが含まれた血液が付着することで威力を増幅できるものも存在する。刃こぼれ等も自動で修復する。
しかしそれは高価で量産に向いていないため、軍用支給品ではない。
しかし、そういう意味ではナノブレードも魔法剣と似たようなものなのかもしれない。
少なくとも、この惑星の科学力では見分けはつかないだろう。
「うん、そうだなこれは魔法剣かもしれない」
「かもしれないってなんだよ。お前さんの剣だろ」
そうこうしていると、森のへりに気配を感じ、ブレードを構える。
『討伐対象のウォーラットの群れです。計10匹と判明』シエナが報告する。
「なんだどうした?」
「ウォーラットだ、群れみたいだな」
「なっ、群れはだめだ、あいつらにかまれると傷口が腐っちまう」
テッドがいうものの既に群れはこちらに気付いて向かってくる。
とびかかって襲ってくるが、ただの直線的な攻撃に気が抜ける。
「この程度か」
そういって、ブレードを一閃。俺が2、3歩進む間にウォーラットの群れはすべてが真っ二つに斬られ絶命した。
「う・・・お」
テッドが声にならない声を上げる。
「何が起きた?お前さんがやったのか?剣筋すら見えなかったぞ」
まぁ体内にネインを宿している銀河帝国の軍人ならば難しい動きではないが、何の強化もしていない普通の人間からすれば脅威的な動きかもしれない
「お前さんすごい奴だったんだな!俺の目に狂いはなかった」
そういって討伐したウォーラットの群れを見る。
「この魔物を持って帰ればいいのか」
「いや、魔石と皮だけ剥いで持って帰ればいい。魔石はギルドで買い取ってくれるし、皮は商業ギルドやらでも売れるからな」
「なるほど、あっそうだ」
「どうした?」
「この街の近くにある鉱山って誰が管理してるんだ?」
「そりゃお前さん男爵だよ。この街の領主、ゴルドー男爵だ」
「そうか」
「なんだ、鉱夫でもやりたいのか?お前さんほど腕があるのにもったいないぞ?」
「いや、ちょっと興味があっただけだ」
そう言うと、テッドは「ふーん」と言ってウォーラットの皮を剥ぎ始めた。
ラーズは初回の依頼を終え、リーベルへの帰路へ就くのであった。
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