第10話 ギルド登録
「色々考えをまとめようと思ったけど寝てしまったな」
翌朝、目を覚ましたラーズはひとり言をつぶやく。
この安宿には当然風呂やシャワーなどない。
受付から水をもらってきて身体を拭く。
ナノマシン【ネイン】によって身体は清潔に保たれているが、何となくこうすることでスッキリする。
清拭を終えると朝食をとりに宿の受付横にある食堂に行く。
一応宿代の中に朝食代は含まれているらしく、ちょっと楽しみにしていた。
席に座ると宿の従業員の女性がワンプレートと水を持ってくる。
プレートの中身は、黒パン一つと蒸かした芋のようなものだけだった。
(うーん固い、あと少ない)
声に出すわけにもいかないので心の中で呟く。
黒パンというものを初めて食べたが、固さに気を取られて味はよくわからなかった。
黒パンにかじりつきながら、
(これ焼いてから結構経ってるよな。焼きたてなら柔らかいのだろうか)
等と、質素ながらもそれなりに朝食を楽しんだ。
ただ毎日食べたいとは思わない。
宿で質素な朝食をとったあと、ギルド前の広場につくと、既にテッドの姿があった。
「おう、来たな」
「待たせたようで悪かったな」
「別にいいぜ。今日は門番も休みで暇だからな」
そう言ってギルド前まで移動する。
「ここが冒険者ギルドだ。ギルド初心者に教えてやるよ」
テッドが冒険者ギルドについて色々と教えてくれる。
冒険者ギルドは国をまたいだ組織で、どこのギルドで登録しても問題ないらしい。
このエルヘイムで登録して、隣国や、海を越えた国でも依頼も受けられるということだ。
しかし依頼自体は実際に現地のギルドで受注する必要がある。
ギルドランクはFからはじまって一番上はAランクだという。
人外の強さを持つ者はSランクと称されることもあるらしいが、Bランク以上は関係ないので気にしなくてもいいらしい。
しかし、この国にはSランクが一人だけいるらしい。『閃剣のテレサ』という二つ名で呼ばれるが、本職は王宮の騎士だということだ。
この騎士は冒険者登録もしていて、たまに王国内の盗賊狩りをしているらしい。
閃剣のテレサをおそれて王国内の盗賊は他国へ逃げてしまい、国内の治安は比較的良いとのことだ。
「まあ出会うことも無いと思うが、かなりの美人さんだし、見る機会があればラッキーだな」
「なんか縁起物みたいだな」
「まぁ最初はFランクでコツコツ採集でもする感じだな。正直面白くはねぇ」
初心者をいきなり危険な目に会わせないための措置だろうな。
ちなみにテッドはDランクらしい。
他のギルドのこともついでに聞く。
「俺も他のギルドのことは詳しくねぇが、商人ギルドってのは他の街のギルドとは連携してないらしい。なんでギルドによって大きさもまちまちだとさ。商業ギルド同士、ライバルみたいな関係みたいだな。魔法ギルドは隣町で連携してるところもあれば、町ごとの独立してるところもあるみたいだ、俺の知ってるのはそんなもんだよ」
(ふーむ。冒険者ギルドが一番組織的らしいな。まぁとりあえず登録しておこう)
「じゃあとりあえず冒険者ギルドに登録するよ」
「おう、じゃあこっちだ」
そう言ってテッドに続いてギルドに入る。
例に違わず歴戦の猛者的な雰囲気を出している男たちがこちらを品定めするような目で睨んでくる。
とりあえず無視してカウンターへ向かう。ギルドは酒場も併設されているらしい。
朝っぱらから酔っぱらってる連中もいる。
「ご用件はなんでしょう」
そんな中ニコニコしながらカウンターの受付嬢が話しかけてくる。
テッドが前にいるのに無視して直接俺に言っているようだ。
「なんで俺を無視するんだよ。ネリー」
ネリーとよばれた受付嬢は
「あなた前の依頼で私に貸しがあるのを忘れたの?」
テッドに厳しい目を向ける。
「いやあれは謝ったじゃねぇか。まだ怒ってんのか」
「当たり前でしょ!他のパーティーにも迷惑かけたんだからね」
そう言ってプイッと横を向いてしまう。
後でテッドに聞くと、受けた野草採集の依頼を忘れて昼から酒を飲んでつぶれてたらしい。納期に間に合わなかったため、他のパーティがたまたま余らせていた野草をネリーが譲り受けてテッドを助けたとのことだ。
冒険者が依頼を失敗すると、受付した受付嬢のギルド上層部からの評価も下がるらしい。
(まぁそれはテッドが悪いな)
そう思っていると、ネリーは
「あなたこのあたりでは見ない顔ですね。冒険者登録はまだですか?」
そう質問してきたので、
「そうなんだ。登録してとりあえずお金を稼ぎたい。テッドに少しばかり借りていてね」
そう言うと、
「えっ。こんなだらしないのに借りたんですか?私が立て替えてあげるので、こんなのとは付き合わない方がいいですよ」
(結構ボロクソ言われてるな)
「そこまで言うことねーだろ。ひでーなぁもう」
そう言ってちょっとすねたような態度をとる。
(かわいくないぞ)
そう思いつつも、
「テッドには世話になってるんだ。気持ちはありがたいけど自分で稼ぐよ」
そう言ってネリーに笑いかけると、ネリーはなぜか少し頬を赤らめながら
「そっ、そうですか。それではとりあえず冒険者登録してしまいましょうか」
と言って羊皮紙を取り出し、何やら書き始める。
「ではここにご自分の名前と職業を書いてください」
(あ、この惑星の字は書けないな)
そう思ってシエナに助けを求める。
『今この国の文字については解析中です。現段階でもダウンロードすればおそらく問題なく書けると思いますが、艦長は遠方から来た設定なので、この国の言葉がわからないといってその門番の男に書かせればいいかと』
(なるほど)
「遠いところから来たのでこの国の文字がよくわからないんだ。テッド代わりに書いてくれないか」
「いいぜ?ネリー俺が書いても問題ないだろ?」
「問題ありません。丁寧に書いてよね」
テッドに対してあからさまに態度が悪いので少し面白くなってきた。
「ラーズは職業はなんだ」
「ラーズさんっていうのね」
「ああ軍じ・・・じゃなかった剣士だ」
「へいへい。剣士・・・と」
そういって二、三質問があったが登録は無事完了した。
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