第9話 城塞都市リーベル到着

 ラーズは城塞都市リーベルに到着した。

 ちなみにこの一帯を治める国の名前は【エルヘイム王国】というらしい。


 城塞都市というだけあって、城壁のような壁が街を囲んでいる。

 街の入り口付近にくると、何組かが門のところで立ち止まり、門番のような者に見せている。


(街に入るのにIDがいるのか?)


 そう思って門番に近づくと、若い男の門番が

「身分証はあるか?ギルド証でもいいぞ」

 と聞いてきた。


 とりあえずナノマシン【ネイン】の翻訳機能は正常に働いているらしいので安心する。翻訳機能だけでは不安だったので、旗艦でカプセルに入った際に、一応この付近の言語をインストールしていたのも良かった。


 門番の男は見たところ20代半ばから後半の容姿をしている。

 ギルドっていうと冒険物の物語とかでよく出てくるあれか?などと考える。

 考えたところでそんなものは持っていないので素直に、

「身分証はないんだが、ないと入れないのか?」


 そう聞くと若い門番は、

「いや、身分証がなくても通行料を払えば通れるぞ。問題なんか起こさなければ町の外に出るときに半分は返ってくるぜ」

 そう言って片目をつむる。


「ちなみに俺はテッドってんだ。お前さんはこのへんで見ない顔だな?この街は初めてか?」

 聞いてもいないのに自己紹介をしてきた。

 しかし悪い奴ではなさそうだ。


「俺はラーズだ。このあたりは初めてでな。遠いところから流れてきたから、この辺のことを教えてくれると助かる」

 そう答えると、

「そうだな。まぁとりあえず通行料払いな」

 そう言われても、さっきデュプリケーターで作った金貨しかない。


 仕方なしにそれを1枚見せると、

「おいおいおい!こりゃあクレスト金貨じゃねぇか」

 テッドがそう言うとまわりがざわつき始める。


 テッドは、「しまった」という顔をして、

「いやいやなんでもねぇ見間違いだ」

 そう言ってざわついていた周りの人間を散らす。


 テッドがこちらに向き直ると、小声で

「こんなもんおいそれと出すんじゃねぇよ。狙われたいのか?」

 そう言うので、思ったより価値が高いのかと思案していると、

「ほっとけねぇな。俺ぁもう仕事上がるから、ちょっと待ってな」

 そう言って、詰所の中へ入ったと思ったらすぐに出てきた。


「じゃあ行こうか」

 そういって俺を街の中へ促す。

「通行料払ってないけどいいのか?」

「とりあえず俺が立て替えといた。あそこじゃ大騒ぎになるところだからな」

「俺はこれしか持ってないぞ」

 そう言ってもう一回金貨を出そうとするが止められる。


「だから出すんじゃねぇって。それの価値わかってなさそうだから教えてやる。それはクレスト金貨っていってな、普通の金貨の10倍の価値があるんだよ」

「ふーん」

 そう答えるが、そもそも普通の金貨の価値がよくわからない。


「お前さんもしかしなくても外国の人間だな。よくみるとその服もかなり質のよさそうだし、もしかしていいとこの跡取りかなんかか?」

「外国の人間っていうのはその通りだが金持ちじゃあないぞ」


 外国というかこの星の人間でもないんだが、まぁ嘘はついてない。

「だがそんなもん持ってるしなぁ」

「金貨ならさっき森で・・・拾ったんだ」


(ということにしておこう)


「そんなわけねぇだろ!」


 全く信じてない様子だ。でもまぁ追及するつもりもないらしい。

「この国の金の価値がわからないので教えてくれ、あとで1枚やるから」

「いらねぇ。普通に稼いで返してくれりゃあいい。銅貨5枚だからな」

 そう言ってテッドが金の価値を教えてくれる。


「まず、この国で流通してるのは錫貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨だ。といっても一般庶民は銀貨以上を見る機会はほとんどねぇけどな」


(なるほど種類としてはそこまで多くないな)


「そんで、錫貨2枚で黒パンが1つ買える」


(黒パンというとまぁ硬いパンだろうな)


「錫貨10枚で銅貨1枚と交換可能。あとは単純に10倍だ。銅貨10枚で銀貨1枚。銀貨10枚で金貨1枚。白金貨はよくわからねぇけど金貨100枚以上の価値みたいだな」

「ならそんなに大騒ぎするほどでもないんじゃないか?」


 白金貨の方が価値があるなら、さっきの金貨で大騒ぎするほどでもないと思ったのだが、

「クレスト金貨はな、金銭的な価値よりも、その出所が問題でな。数が少なくて王族や高位の貴族しかもたないって話だ。俺はたまたまここに来た貴族様が持ってたのを昔見たことがあって知ってたんだが」


(なるほど珍しい金貨ということか。プレミア硬貨みたいなものか?)


「なのでそれを持ってると、貴族と勘違いされて、攫われるかもしれねぇ」

「そんな危ないもの使えないんじゃないのか?」

「まぁ当然そう思うだろうが、王都内の貴族の取引には普通に使われるらしい。そんなところは警備も厳重だし大丈夫なんだろうが、一般庶民が暮らすところで使っちゃだめだな」

「ふーむそういうことか、わかった」


 そう言ってからテッドに聞いてみる。

「なんで俺みたいなややこしそうなやつに親切にするんだ」

「いやー門番ってのは退屈でな。面白そうなやつがきたからと思ったら案の定だったな」

「言っとくがが本当に金はないぞ」

「みたいだな。ギルドにでも登録して稼げばいいんじゃねぇか。というかよそ者が手っ取り早く稼ぐのはそれしかないな」


「ギルドって?」

「おいマジかよ?お前さんどこから来たんだ。まぁいい。所謂冒険者ギルドってやつさ。他にも商業ギルドやら鍛冶ギルドやら色々あるが、一見さんは難しいわな」

「冒険者ギルドでは稼げるのか?」

「腕次第だな?お前さん腕はいいのか?」

「んーまぁ人並みには」

「おっ、自信ありそうだな。じゃあ明日にでも登録しにいくか?今日はもう遅いしな」

「ん?そこまで付き合ってくれるのか?」

「いいってことよ。お前さんこの辺りは右も左もわからなさそうだし、わかる様になったらかかった金を倍返ししてくれればいいぜ」

「そういうことか。でもまぁありがたい」

「明日腕に自信があるとこ見せてくれー」


 そう言って、翌朝冒険者ギルド前の広場で集まる約束をし、テッドは酒場のある通りへ手をヒラヒラさせながら消えていった。

 別れ際、今日の宿代も貸してくれた。本当に面倒見のいいやつだ。


 とりあえず大通りから少し外れた安そうな宿に泊まることにした。

 見た目通り質素な宿だったが、とりあえずベッドがあるので良しとする。

 そこで、シエナと通信を開始する。


『あの金貨使えないってさ』

『あの時点では仕方ありませんでした。情報はアップデートしました』

『さっきの金貨の話からすると、ここに来る途中で見た馬車列の人たちはやっぱり貴族みたいだな』

『間違いないでしょう。目的については追跡していないのでわかりませんが、何かの特使であった可能性が高いと判断します』

『まぁ気になるっちゃなるけど、気にしても仕方ないっちゃ仕方ない』

『資源さえ豊富にあれば、この惑星中の情報を把握するのは造作もありません。早期資源の確保をお願いします』

『わかりましたよ。明日テッドに鉱床のことを聞いてみるさ』

『お願いします』

 そう言ってベッドに寝転ぶ。硬い。

 そのまま通信を切る。


(シエナも焦ってる感じがするな。AIだから感情は出さないけど、あのせかし

 ぶりをみるとかなり資材もジリ貧だな。明日は気合入れていかないと)


 疲れていたのかそのまますぐに眠りについた。

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