第7話 城塞都市リーベルまでの道程


 シエナに見送られながら、降下を開始する。

 窓越しに手を振るが、シエナはこちらをじぃっと見つめ続けていた。

 何となく寂しい気分になったが、シエナもどこか寂しそうに見えた。

 いつでも通信はできるので、気持ちは切り替え、自分の任務を頭の中で確認する。


 まずは、鉱床の穏便な確保。それからこの惑星の人類及び生態系の調査。といったところか。その時々で必要な資材は降下ポットでシエナから送ってもらう。

 ある程度めどが立ったら、旗艦に戻るためのマスドライバーの建設を早めに行いたい。

 降下ポッドでは旗艦からの一方通行で、旗艦に資源を送ることができない。


 あとは食料の確保だ。持ってきた食料もあるが、大量に持ってこれたわけでもない。

 いざとなれば降下ポッドで送ってもらうことも可能だが、今のところポッドも有限だ。無駄使いはしたくない。

 しかし、体内のネインの活動のためにも常人と比べて多めの食事、もしくはレアメタルを摂取しなければならない。

 レアメタルは確保できる目途が立たない限りはできるだけ温存したい。

 そうこう考えている間にもう地表が近づいてきた。

「さて、到着だな」


 その後、大陸の中央付近、比較的大きな街の近くにある森の中に無事に降下した。

 ちなみに降下時はスラスターによりゆっくり地表に降りるので、そこまで大きな音は発生しない。

 必要な荷物を取り出し、降下ポッドが自動で地面に潜り込んでいく。

 現地人に見つかっても厄介なので、隠しておくための措置だ。


 更に、俺の頭上には降下ポッドに積んでいた護衛用のドローンが3体、ステルスモードで飛んでいる。

 飛行音はバブル技術の応用で聞こえないようになっている。


 一応シエナとの通信状況を確認しておく。

『シエナ、聞こえるか』

『はい、問題ありません』

 すぐさま返事が返ってきた。


『まず、北へ100キロメートルほどにある街を目指してください。

現地では【城塞都市リーベル】と呼ばれている街です』

『了解した』

 そういって荷物をもって走り出す。

 軍人にとって100キロメートル程度であれば休まずに走れる。ナノマシン【ネイン】のサポートもあるので到着まで数時間といったところか。



 城塞都市リーベルまで残り半分というところまで走ったところで、街道にでた。

 この街道は北、東、西に延びており、所謂三叉路になっていた。

 丘から見下ろす形になるが、何やらその三叉路を少し北へ進んだところで、馬車の列が並んでいた。


 馬車は全部で5台で、そのうち中央に陣取る馬車は他のものと違い、豪華な装飾が施されていた。

 まわりには、中世の騎士のような鎧を着た者が馬に乗って護衛しているように見える。


『シエナ。見えるか』

そう聞くとすかさずナノマシン【ネイン】経由で頭の中で返事が聞こえる。

『はい、どうやら現地で位の高い者の乗る馬車のようです。目的地はおそらく城塞都市リーベルですね』

『なるほど、貴族のようなものか。目的地は同じだが、見つかると面倒なので少し回り道して避けるか』

『それが良いと判断します』


『そうだ。あの馬車列を念のためスキャンしておいてくれ。何か有効な情報が得られるかもしれない』

 興味本位でそんなことを言ってみるが、シエナにすれば大した労力でもないため即答だ。

『了解致しました』

 シエナは俺の頭上に飛ばしてあるドローンを操作し、馬車列をスキャンする。


『中央の馬車には女性2名が乗っております。高位の者とその従者のようです。他の馬車はすべて護衛のようですね』

『護衛の付くような偉い人が城塞都市に何の用だろうな』

『現状ではわかりかねますが、ドローンをステルスモードで調査させれば目的を探ることは可能です』


『んー別にそこまではいらないかな』

ドローンも有限だ。なるべく手元に置いておきたいのでそう答える。

するとシエナは

『では調査は致しません。スキャンの結果、馬車の中にこの国の金貨と思しきものを発見しました』


 そう言って、ドローンが俺のもとに戻ってくると、下部のハッチが空いて金貨2枚が落ちてきた。

『今後貨幣が必要になる可能性が高いので、スキャンした金貨をデュプリケータ―で複製しました』

『おぉ。仕事が早いな』

『恐れ入ります』

『だが複製しすぎてこの国の経済が混乱しても困る。必要な時以外は作らなくていいよ』

『御心配には及びません。余力の資材が枯渇しておりますので、それ以上は作成できません』

『・・・色々急がないとな』


 俺は切羽詰まったこの状況に、一刻でも早い資源の確保を心に誓うのであった。


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