第6話 惑星降下
「国家があるということはある程度の文明があるということだな」
「そう判断します。また人類と近い種と表現しましたが、見た目で言えば人類と変わりありません。詳しくは遺伝情報を解析してみないと詳細は不明ですが」
(人類と変わりない?)
「そこで艦長にはこの惑星に降下していただきたいと思います」
「うん、そうだな・・・はっ?降下?」
「そうです。遺伝子情報の収集にしろ、資源の収集にしろ、惑星内での作戦は必要です。資源が豊富にあれば、旗艦内で機材を作成し、軌道上から惑星の資源の収集も可能だったかもしれませんが、現状壊滅的な資源不足です。人手も不足していますがまずは資源の確保です。
特に鉄や銅、ボーキサイト等のベースメタルすら圧倒的に不足しております。
アリア・ドゥーネ宙域に留まれる状況であれば、僚艦などからの資材の確保はできたでしょう。
しかし、現状未知の宙域で活動範囲は極端に限られており、まわりにはこの惑星以外に資源を確保できる場所がないのです」
(AIがこんなにしゃべるのは珍しい。それだけ非常事態ということか)
「わかった。降下しよう」
「ありがとうございます。しかしいったん降下すると、簡易的なマスドライバーや、惑星からの脱出艇を現地で製造するまでは旗艦には戻ってこれません」
「ぐ、そうなるよな」
「ですので十分に用意できてから降下作戦に入りましょう。艦の修復については、ある程度まで行えば一旦凍結します。資材を惑星から旗艦に搬入できる目途が立てば再開します」
(これはできる限り早く資源を確保しないとな)
「差し当ってまずは艦長には教育カプセルに入ってもらいます」
教育カプセルとは、教育を受ける本人がカプセルに入ることで、短期間で専門知識や技術を脳に直接叩き込む装置である。
必要な知識によって要する時間は変わってくるが、今回は剣術やマーシャルアーツなど、戦いとなった際に生き残るために重要なものを学ぶ。
あまり連続使用すると脳に負担がかかりすぎるので、一回の使用で最長でも3か月程度にとどめることが良いとされている。
帝国の近代格闘技は軍人としてある程度習得しており、未開文明相手であればさほど遅れは取らないとの判断から、今回のカプセルの使用は2週間とした。
それに今は一刻も早く資源の確保に当たらなければならない。
「アデル艦隊が近く現れる可能性は排除できません」
シエナがいうとおり、いつアデルが現れるかわからないのだ。
もしかしたら現れないかもしれないが、こういった予測は楽観的な方が外れる、という想定で動くのが鉄則だ。
先に帝国軍の救助があるかもしれないと考えたが、意味不明なワープアウトをして、少なくとも帝国が未到達の宙域だ。
細かい座標がわかればもしかすると救助があるかもしれないが、そもそもそれを伝達する手段がない。
さらにゲートを発生させるための「ゲートストーン」がワープアウト時と思われるあの時の衝撃以降行方不明だ。
厳重に保管されているので、艦の心臓部が無事であるなら、どこかに転がって無くなった、ということは考えられない。
カイゼル元帥や同僚たちが一斉に消えたあのタイミングで一緒に消えたと考えるのが正しいだろう。
あの現象についても後々解明したいところだが、今はまずできることからだ。
「それではおやすみなさい」
シエナに見守られながら、カプセルでの眠りについた。
2週間後。
「寝ていれば一瞬だったな」
カプセルの影響か若干の頭痛がある。
「おはようございます。ラーズ艦長」
(艦長と呼ばれるのはまだ慣れないな。少し前まで大尉だったし、手柄を上げて昇任したわけでもないから何とも言えない気分だ)
等と考えながら、【ネイン】経由でシエナから脳内に送られた情報を確認する。
「この地図は?」
「降下予定ポイントの周辺の簡易地図です。この付近に比較的大きめの街がありますが、その近くに大規模な鉱床を発見しました」
「おお、朗報だな」
「はい、かなり埋蔵量の多い鉱山で、鉄以外にも複数の鉱物が採れるようです。付近の町でも鉄は加工しているようですが、それほど需要は高くなく、こちらで接収できれば艦の再建他もろもろの状況が改善します」
「なるべく穏便に済ませたいところだな」
「それは艦長にお任せしますが、武力で制圧するのが一番早いとだけ申し添えておきます」
(航宙軍の軍人である俺は当然、一般人がしないような特殊な訓練も受けている。
所属が通信総務局であっても、軍人である以上、時に武力は必要だし、特にアデルと戦闘になった際に単独で一体は殲滅できるだけの技量が求められる。
その試験をクリアしている俺からすれば、このあたりの文明圏にある町のひとつやふたつは単独で制圧は可能だろう。
もちろん少数しかないがドローンなどに援護させれば手っ取り早いかもしれない。
だが・・・)
「武力制圧はしない。あくまで最終手段としてとっておこう。相手の出方次第というところか」
相手が、話も聞かない、いきなり襲い掛かってくるような野蛮人であるなら、制圧してもいいかもしれない。
(だが、ごく普通の善良な人間だった場合は?その場合は平和的に交渉するべきだろう。それに武力制圧すると後々やっかいなことになる可能性が高い。そのあたりはシエナもわかってそうだが、もしかして町の人間をすべて殲滅するつもりじゃないだろうな)
「了解しました。それでは降下の最終確認を致しましょう」
ポッド内には現地で必要なものを詰め込んだ。いざという時の航宙軍用装備もある。
現地で活動する際に怪しまれないように、現地の服装に寄せた旅人風の服も用意した。
活動範囲は、旗艦シエナ・ノーザンディアの通信の届く範囲までだ。
惑星の裏側までは通信衛星がない状態では通信できない。
衛星がなくとも、ネインが星中に分布されていれば通信はそれ伝いに可能だが今は無理だ。
例えばネインを体内に持った生体ユニットやアンドロイドをこの惑星上に存在する各国に一体づつでも置けば、それ伝いに通信は可能となるが、それはまたおいおい考えることにした。
ちなみにネインには意思疎通機能があり、通信圏外でも自分のネインと対話することが可能で、事前にダウンロードしておいた情報はいつでも引き出すことができるが、通信圏内にいてシエナと直接通信できる状態であれば、あまりこの機能は使わないだろう。
降下ポッドに乗り込み、見送りのシエナと顔を合わせる。
「じゃあ行ってくるよ」
「了解しました」
「こういうときは「行ってらっしゃい」っていうんだよ」
「わかりました。「行ってらっしゃい」」
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