第5話 バイオプラント シエナ起動
目を覚ますと、白い天井が目に入った。
いつもと光景が違うな、などと寝ぼけていると
『お目覚めですか。艦長』
と声を掛けられ、勢いよく上半身だけ起こす。
(夢じゃなかったか)
そう思って何時間寝ていたかシエナに尋ねたところ、
『きっちり6時間でお目覚めでした』
と教えてくれる。
体内のナノマシン【ネイン】に頼めば時間通りに起こしてくれるが、今回は設定していない。
(体内時計は正確だな)
等と考えた後、やるべきことがたくさんあることを思い出した。
まとまった睡眠をとったことで体調はばっちり回復した。
「バイオプラントへ向かう」
そういうと
『お願いします』
とシエナが言う。
(なんか妙にAIらしくないな)
そう思いながら歩いてバイオプラントへ向かっていると、あちこちでドローンや小型のロボットが破壊された艦の修理を行っていた。
相変わらず人の姿はない。
バイオプラントの厳重な扉はしっかり閉まっていて、佐官以上でなければ原則立ち入り禁止である。
シエナが扉を開錠し、中に進む。
被害はないと言っていたが、天井の一部が吹き飛んで宇宙空間が見えている。
ちなみに艦の周りにはバブルと言われる技術で、空気の幕が覆っており、艦から離れすぎなければ宇宙服がなくても窒息することはない。
とはいえ、航宙軍に支給されている装備は宇宙服としても使えるので、バブルがなくとも問題ないが、現在艦の周りには問題なく展開できているため、ヘルメットなども必要ない。
バブルに異常があると、それは
『では艦長。奥にお進みください』
(艦長か・・・リエル艦長・・・)
敵からの攻撃であれば仇をとると誓うところであるが、敵味方関係なく殲滅していったあの光はいったいなんだったのか。攻撃なのか、恒星ジェットのような自然現象なのかもわからない状況では誓うことすらできなかった。
バイオプラントの中心部分に来ると、いくつかの装置は先の衝撃で破壊されているものもあった。
だが他の装置の稼働に問題はなく、今後の活動に役立つだろう。
生体ユニットが収まっているカプセルに目をやると『READY』と表示され、中のユニットが淡く光っているように見えた。
その生体ユニットはプラチナ色の長髪をした美しい女性の姿をしており、ただ眠っているように見えた。
『その生体ユニットは私専用の端末として調整してあります。有事の際、ボディがあったほうが何かと都合がいい場合があります。今回もそのケースです』
(なるほど、AIは身体がなくともメインフレーム、もしくはそれを統括するマザーフレームがあれば本来の役割に問題はないが、細かい調整、作業等は生体端末があった方が便利ということか。何より俺一人しかいないこの状況で、AIとはいえ、身体は人間とかわりない生体ユニットがいてくれるのは正直嬉しい)
『艦長権限により、AIによる生体ユニットの稼働申請を承認してください』
「具体的にどうすればいいんだ?」
『カプセルの基盤に艦長のIDをかざして、承認の意思を示してください』
「わかった」
言われたとおりにIDをかざし、承認するとカプセルに『シエナドライブ起動』と表示され、AIとリンクしたのち、カプセルの扉が開く。
培養液と一緒に生体ユニットが床に倒れこんだので、抱き起すとその生体ユニットはゆっくりと目を開け、こちらをまじまじと見つめる。
「おはようございます。艦長」
そういう生体ユニット、改めシエナは無表情ではあるが少し微笑んでいるようにも見えた。
サファイア色の美しい瞳に見とれていると、彼女が裸であることにいまさら気が付き、あわてて、タオルケットをとりに走る。
実際に動き出すと人間そのものだから、目のやり場に困ってしまった。
シエナがリンクするまでは、ただのユニットとしてみていたから気にしなかったが、今は違う気がした。
「AIの私にそのような気遣いは不要です」
「そっちが不要でもこっちは気にするの」
そういうと不思議そうな顔をしてこちらを見つめていた。
シエナに服を身繕い、艦長室へ移動する。
「なるほど、先ほどの行動は人間が感じる羞恥という概念ですね。理解しました」
「おい改めて確認するのはやめてくれ」
まるで女性にからかわれているような感覚になるが、遊んでいる場合ではないと気を引き締める。
それから、
「バイオプラントの奥に厳重そうな扉があったがあれはなんだ」
「あそこは、最重要機密区画になっており、艦の人間と言えども立ち入りは禁止されております」
「艦長にも秘密なのか」
「艦長権限により、立ち入りは可能ですが、今はそれよりも目下の課題の整理と艦の修復が優先と判断します」
(うーん気にはなるが、今それを確認すれば更なる厄介ごとが舞い込んできそうな気がするからシエナの言葉に従うことにしよう)
「まぁ落ち着いてからでいいか」
「はい」
(はぐらかされたような気もするな・・・)
「では艦長、今後の方針ですが、まずは艦の修復を最優先、としたいところですが資材が足りません。ここから付近の宙域で資材採集に適した衛星などは発見できていないため、目下の惑星から搬出する必要があると判断します」
「なるほど」
「現在は、在庫資材で部品を製造捻出しておりますが、このままでは艦の復旧が50パーセント程度進んだところで底をつきます」
「具体的に、この惑星からどうやって資材を搬出するんだ」
「それについてですが・・・その前にこの惑星について報告があります」
「聞こう」
「この惑星は、おそらく知的生命体が存在します」
「なんだって⁈」
(わけのわからない状況でたどり着いた先が惑星の軌道上で、さらに知的生命体が存在?ここは人類未踏の宙域だったのでは?)
「資材不足のため、あまり情報収集は進んでおりませんが、おそらく人類とかなり近い種が生息しているというデータがとれました」
(人類と近い種。類人猿みたいな感じか。それとももっと進化しているのか。なんにせよ情報収集が必須だが・・・)
「未成熟ながら、その人類と近い種は国家を形成しているようです。また国家間の戦争、貿易なども行っているようですね。それから未知の生物との生存競争を行っている様子も確認できました」
(未知の生物がなんなのかということは一旦、置いておこう)
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