第51話 せっかくのカンテラは部屋に置いてきた?

 飲んで食べて大騒ぎをして、店の外に出た頃には陽が傾き始めていた。

 夜の訪れにはまだ遠いが、燦燦と照り付ける日差しが緩んだことで、ギルド広場には白装束姿がだいぶ増えている。


 人々の手には様々な形のカンテラが握られている。そして、楽団の奏でる円舞曲に合わせて男女が手を取り合い踊っていた。女性のスカートがあちらこちらで翻り、まるで白い花が咲きほころぶようだ。

 その様子を横目に見ていると、アニーがあれっと言った。


「そういえば、カンテラは?」

「部屋にあるよ」

「どうして持ってこなかったのよ」

「……なんか、恥ずかしくなった」

「なんでよ。この日のために買ったんでしょ?」


 どうしてと大げさに驚くアニーは、たぶん私の気持ちを分かっているんだろう。少し口角を上げている。

 横を通り過ぎた女の子が持っていたカンテラが揺れた。それは薔薇の蕾を模したカンテラ。


「アニーは?」

「あたしは、そういう柄じゃないからね。でも……去年は見られなかったし、久々の星の灯は楽しみなんだよね」

「そういえば、去年も外に出ていたな」


 前を歩いていたラルフは肩越しにこちらを見て「今年の課題は大丈夫か?」と尋ねてきた。

 昨年は、星祭りの十日前、課題のために遺跡調査へいくことになったのよね。お祭りを楽しみにしてたのにって泣きついたら、皆そろって「来年があるだろ」って笑って付き合ってくれた。急いで戻ってきたけど、祭りには間に合わなかったのだ。

 だからこうして一緒に星の灯を見られるのは嬉しい。


「今年は大丈夫だよ。というか……去年はご迷惑をおかけました」

「謝ることじゃないだろう」

「そうよ。ついでに見つけたお宝は換金できたし、美味しい依頼だったわ」

「そういや、あれ以来探索は行ってねぇな。久々に行くか?」


 キースがそう言いだし、ふと丁度ほしいサンプルがあったことを思い出す。


「それなら、東のラモナ湖周辺に行きたい!」

「まだ未到箇所も多い遺跡群だったな」

「これからギルドに行くか。マーヴィンにも声かけるか?」

「今日は忙しくて会えないよね」

「ラモナ湖でマーヴィンなしは、ちぃっとばかしきついな」


 私たちの話にアニーも食いついてくると思っていた。でも、会話に入ってくる気配がない。どうしたのかと振り返った時、彼女は私の手を引っ張ると「今からカンテラ取りに行くよ!」と声を上げた。


 突然の言葉に、すっかりギルドに向かうつもりだった私たちは足を止める。


「え、でも、ギルドに行こうって」

「ラモナ湖周辺なら、明日だって依頼はあるわよ! 星の灯は今日なの。それに」


 悪戯を思いついた子どものように笑ったアニーは、私の手を引いて歩きだす。それに釣られて私が足を踏み出すと、キースとラルフが呆れたように顔を見合わせた。


「四人で星の灯を見たってマーヴィンに話したら、きっと悔しがるわよ!」

「アニー、マーヴィンをあまり揶揄からかってやるな」

「だって面白いじゃない!」

「お前さ、そんなんだから嫁の貰い手が見つかんねぇんだよ」

「嫁にもらって欲しいなんて思ってないわよ!」


 困り顔のラルフと呆れ顔のキースを「お生憎様!」と笑い飛ばしたアニーはロンマロリー邸に向かうべく、わき道に入った。

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