第46話 星祭りへは誰といく?

 怒りを鎮めたお父様は納得したわけではなかった。それでも、東の空が茜色に染まり始めた頃、ネヴィンへの処分の形を受け入れた。


 ひとまず一件落着したところで、マルヴィナ先生が朝食を運んできた。キースは退席しようとしたけど、せっかくだからと引き留められ、魔術師の人も含めて共に朝食をとることになった。

 魔術師の人はレイと名乗った。ジェラルディン国出身の魔術師で、古くからお父様と交流があるそうだ。


「一時はどうなるかと思いましたよ。ラウエル様、アスティン家へ殴り込みに行く勢いだったんですから」

「そ、そうなの!? それはダメよ、お父様!」

「……レイ、もう分かった。茶化すのはやめてくれ」


 ベーコンにフォークを突き立てたところで手を止めたお父様はため息をつく。その向かいでにこにこと笑うレイさんは口元をナプキンで拭った。


「いえいえ、相変わらず家族思いでいらっしゃること嬉しく思いますよ。これで主人にも安心して報告が出来ます」

「……世話になったな。ラドクリフ卿に、よろしく伝えてくれ」

「国にお帰りの際はお呼びください。私がお送りします」

「それは助かる」


 パンを小さく千切って口に運びながら二人の会話を聴きながら、幼い頃の記憶を探ってみた。彼を見たことがあっただろうか。それらしい魔術師が幾人か浮かぶけど、決定的な人物は思い当たらない。

 ただ、どうやらレイは転移を行う術式を組むことが出来る高等魔術師であり、それで父がここを訪れるために助力したのだということは理解できた。


「お父様、レイさんに連れてきてもらったのね」

「さすがに私用で竜を駆るわけにはいかないからな」

「だからって、レイさんを煩わせちゃダメよ」


 私の言葉に曖昧にうむと頷くお父様の表情には、誉れ高き竜騎士の威厳がこれっぽっち見えなかった。


「レイさん、父がご迷惑をかけました」

「いいえ。ラウエル様にはいつもお世話になっていますので、お安い御用です」

「……ミシェル、親父さんはお前のことを心配してきたんだろ。そんなに叱ってやるなよ」

「そうだけど、迷惑をかけるのは良くないわ!」

「そんなの、迷惑の内じゃないだろう。それより星祭りは今夜で最後だろ? 親父さんを案内してやったらどうだ」

「迷惑でしょ、って……お父様と星祭りに?」

「この前買ったカンテラも今夜の為なんだろう?」

「そ、そうだけど……」


 突然の提案は思ってもみないことだった。確かに、カンテラを買ったのは星祭りがきっかけだけど。

 どうしていいか分からず、突然の提案をしてきたキースをちらっと上目遣いで見る。


 本音はキースと行きたいのに。でも、そんなこと口が裂けても言えないわ。そんな雰囲気じゃないし、ここで言い出したらお父様を驚かせてしまうだろうし。驚くだけじゃなくて、あれこれ質問攻めにも合うかもしれないわ。


 どうしたら良いのか。

 膝の上のナプキンを掴んでもじもじしていると、マルヴィナ先生が「キース君も一緒に行ってはどうかしら」と提案した。

 突然何を言い出すんだと言わんばかりにキースの顔が引きつる。と同時に、私は瞳を見開いて先生を振り返った。きっと、すごく嬉しそうな顔をしていたに違いない。

 

「それは良い! 娘を助けてもらった礼もしたいと思っていたところだ」

「いや、仲間として当然のことをしたわけで、礼をされるようなことは」

「キース、ラウエル様のせっかくの申し出を断るなんてこと、しませんよね?」


 にこりと口元だけで笑うレイさんの双眸は、有無を言える立場ですかと言うようだった。もしかして、キースとも面識があるのかしら。

 顔を引きつらせたキースは口角を引きつらせて「お供します」と告げたのだった。



 朝食を終え、ロン師は所用があると言っては屋敷を出ていった。レイさんもそのタイミングで去っていった。

 お父様とキースを応接室に待たせ、私は急いで自室に戻り、真新しいレース織の白いローブと白いワンピースをクローゼットから引っ張り出して用意を始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る