第30話 【祈りのカンテラあります】

 ギルド広場を抜けた先、少し奥まったところにカンテラを扱う店はあった。

 アリシアの言っていた店と同じかは分からない。でも、店の扉にかけられた看板には【祈りのカンテラあります】と書かれていた。

 

 店内が女の子達で賑わっているのは外から見ても分かった。

 キースは少し居心地の悪そうな顔をしながらもついてきてくれて、私たちは店内に入ると、驚きの声を発した。


「凄い、綺麗!」

「カンテラってこんな種類あんだな」


 壁や天井に吊るされるカンテラの美しさに、感嘆の声が溢れ出る。


 大きな室内用のカンテラは細かなガラス細工で飾られ、虹色の光を放っている。大きなものから小さなものまで、天井や壁でキラキラと輝いている。他にも、机やベッドで使うスタンド付きの物に、杖に下げて使う持ち運び用──用途に合わせた多様なカンテラが店内を彩っていた。


 しばらく物珍しくみていたキースが、不思議そうに首を傾げる。


「若い子の間で、カンテラが流行ってんの?」


 客に男性の姿がないことに気付いたのだろう。それと、十代の女の子が多いことにも。

 彼女たちは店の中央に並ぶ、花や星、葉の形を模した小さなカンテラを買い求めに来ているようだった。そう、それらはお祭りに必要な祈りのカンテラだ。


「これが流行ってんのか。小さくねぇか?」


 キースが手に取ったのは、薔薇の蕾を模したものだった。会計に並ぶ子たちの多くが手にしているもので、つまり、それが恋の成就を願えるカンテラになるんだけど。


 説明するなんて出来るわけないじゃない。


 私が恋のカンテラを買いに来たなんて知ったら、きっと、ゲラゲラ笑われるに決まってる。そんな柄じゃないだろうって。自分でだってそう思ってるもの。

  

 気恥ずかしさから、それを手にすることを躊躇し、他のものへと手を伸ばした時だった。


「なぁ。これ、お前がこの前付けてた飾りに似てるな」

「飾り?」

「ほら、舞踏会の時のやつ。あっちこちに付けてたろ」


 髪とか耳とか。そう言ってキースは私の手に、カンテラを握らせた。

 あの日、私のアクセサリーまで見てくれていたことに驚き、素直に嬉しくなる。だって、あの日は何も言ってくれなかったし。


「これ買う子も多いみたいだな」

「……多分、一番人気なんだと思う」

「おっ、これって花の真ん中に魔晶石入れるのか? 面白いな。他のも気になるな」


 軽く薦めてくれたキースの言動に他意はない。そうだと分かっていても、胸がざわめいた。

 興味津々に他のカンテラを見るキースの横顔を見て、私は手の中のカンテラを握りしめた。


「俺もなんか買うかな。お、これ良くない?」


 葉っぱのレリーフが施されたカンテラを指差したキースは、それを持ち上げると動きを止めた。彼の視線が注がれているのは、横に立ててあった小さな立て看板だ。そこには『星祭り用祈りのカンテラ』と書かれている。


「ああ、そう言うことね」

「……キースは、何かお願い事あるの?」

「んー、どうだろうな」


 苦笑を浮かべ、キースはカンテラを元の場所に戻した。


「やっぱ、俺はいいや」

「え?」

「神頼みとか、性に合わないっつーかね」

「……変、かな?」

「ん? 何が」

「私がこういうの買うの」


 カンテラを握りしめていると、ぽふんっと頭に大きな手が乗せられた。


「別に良いんじゃないの?」

「……そう、かな」

「まぁ、ケーキ以外を買ってるお前って、ちょっと斬新だけどな!」


 それって、私が食い意地張ってるように聞こえるんだけど。

 文句の一つでも言ってやろうかと思いながら、キースを見上げると、彼はいつものようににやりと笑った。


 何だか、ここで口喧嘩するのももったいなく思えて、出かかった文句を飲み込んだ。

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