第27話 ゴロツキには魔法弾をお見舞いしていいよね!?

 質の悪い男たちにぶつかってしまったものだ。

 アリシアはなんとな冷静さを取り戻したようで、深いため息をつくと、ショルダーバッグに手をかけた。


「お詫びとして、お酒を奢らせてもらうわ」


 こんな言いがかりに何でと思ったけど、アリシアはさっさと銀貨を樽に置く。癪でも、この場から去ることが最優先だと考えたのかもしれない。

 だけど、鼻で笑った男はアリシアの手首を掴んで、自分の側へと強引に引き寄せた。

 

 薄い布地に隠された豊かなふくらみがたゆんっと揺れると、男たちの目じりが下がり、鼻下がいやらしく伸びている。


「そんなんじゃ足りねぇな」

「そうだ! 俺らの気分を台無しにしたんだからな」

「女なら、酌ぐらいはできるだろう?」


 下卑た笑いを前に、アリシアの顔がさっと青ざめた。

 こんなのおかしい!


「ちょっと! その汚い手を放しなさいよ!」

「あ? なんだ」

「アリシアに触らないで、て言ってるの!」

「ガキがうるせぇな」

「どっちがガキよ。言いがかりもいいとこだわ!」


 巨体に怯むことなく睨みつけると、苛立ちを見せた男は舌打ちをして、乱暴にアリシアを投げ飛ばした。


「アリシア!」


 とっさに受け身をとったみたいだけど、体を空樽へ強かに打ち付けたアリシアは、小さく呻いて体を丸めた。軽い脳震盪を起こしているのかもしれない。不安がよぎったけど、その片手が上がって意識があることを見てほっとする。

 大丈夫だから、この場は穏便に済ませて立ち去ろう。そう言いたかったのかもしれない。だけど、咳き込むアリシアを見て、私の怒りは増すばかりだ。


 騒動を聞きつけて店内からでてきたのは、店長だろうか。身なりのいい男性が「お客様、騒ぎは困ります」と声をかけたけど、大柄な男にひと睨みをされるとすごすごと引き下がってしまった。

 周囲の人々もひそひそと言い合うが、一人として私たちの援護に出ようとする者はいない。


「アリシアに、何するのよ!」

「うるせぇガキだな」


 人をバカにする顔を睨み付け、奥歯を噛み締めた。

 許さないんだから。

 怒りが魔力を引き出して、私の身体から陽炎が立ち上がるのが分かった。


「アリシアはちゃんと謝ったのに……」

「誠意が足りねぇなぁ」

「そう。それなら、私の誠意を見せてあげるわ……赤き血潮の裁きをその身をもって知りなさい!」


 指で宙に文字を刻むと、周囲に紅い輝きが浮かび上がる。それを見た男たちの顔が青ざめ、一人が「まさか、魔術師か!?」と口走った。

 今さら気付いても遅いんだから!


 突き上げた手を振り下ろそうとした。その時だった。


「店に迷惑かけちゃ、ダメでしょ」


 私の手首を武骨な手が後ろから掴んだ。飄々とした口ぶりと声に、私は言葉を失った。

 どうしてこんなところにいるのよ。

 声の主を振り返り、その顔を仰ぎ見る。


「……キース」

「街中で魔法はやめときなよ。お前の魔法弾、強烈なんだから」


 向けられた笑顔に怒りの感情が持っていかれた。それを表すように赤い光りすっと消える。まるで息を吹きかけられた蝋燭の火のようだった。


 偉い偉いと褒めるように、キースは私の頭をぽふぽふと叩く。


「それに、こういうゴロツキの相手は、俺の役目っしょ!」


 にいっと不敵に笑ったキースは、ダンっと地面を踏み鳴らすと、目の前の大柄な男の鳩尾に拳を叩き込んだ。

 

 男の口から堪えきれない低い呻きが発せられる。

 不意打ちを食らったためか、それともその図体は見せかけだったのか。男は体をくの字に曲げると激しくえずいた。それを見て、キースは目を細めて笑う。


「なぁに、兄さん達。女の子には手を上げるけど、男の子の相手は出来ないって言うのかな?」


 踏みつけるような蹴りが容赦なく男の脛に叩き込まれると、その太い足は抵抗することなくかくんっと折れ、男はその場に片膝をついた。


「俺が遊んでやるよ」

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