第12話 まるで家族のような仲間たち
帰り道、アリシアと別れて一人になると、自然とネヴィンのことを思い出した。
彼──ネヴィン・アスティンとは同郷になる。ドラゴンウィングにあるアスティン伯爵家の三男だ。
祖国ドラゴンアイが所属するのは連合国家ジェラルディンだ。その中でも特に友好的関係を築いている国がドラゴンウィングになる。その昔は多くの竜騎士を抱えていた国の一つだが、今は一騎すら存在しない。逆に、マザー家は竜騎士団を抱える侯爵家だ。そのおかげもあって、多くの諸侯と良好な関係を築いている。
お父様は厳格な人だけど、むやみに敵を作るような人ではない。アスティン家とも良好だったはずだ。
ネヴィンの冷ややかな瞳を思い出し、再び背筋が震えた。
目抜き通りに足を踏み入れ、ため息をつく。
いつもなら雑踏や音楽に好奇心がくすぐられ、漂ってくる美味しい香りにお腹が鳴るというのに、今日は何一つ心を動かしてはくれない。そんな中、人混みに見知った人影を見つけた。
足が止まり、夕暮れに染まった石畳の先、一点を見つめた。
「……キース」
無意識に名を呟くと、彼が振り返った。そうして、彼と一緒にいた仲間達も次々に振り返る。
こんな偶然、あるのかな。
じわじわと目の奥が熱くなった。
「よ、ミシェルじゃないか。真面目に勉強してきたか?」
「おや、丁度良いところに。これから皆で食事に行こうかと話を……ミシェルちゃん?」
「やだ、どうしたの、ミシェル。泣いてるの?」
「キース、また何かしたのか?」
「聞き捨てなりませんね。キース、説明なさい!」
「お、俺? 何もしてねぇ……よな? おい、ミシェル」
困った顔をするキースを問い詰める司祭のマーヴィンに、横で心配そうな顔をする探索者のアニーと大柄な剣士ラルフ。顔馴染みの仲間がそろっていたことに、胸がいっぱいになる。
視界がぼやけ、頬を涙が伝っていく。それを手の甲でいくら拭っても止まらなくて、鼻を啜ると、キースがマーヴィンの手を払って歩み寄ってきた。
「よし、肉食いに行くぞ!」
不意に、ぐいっと力いっぱい手を引かれる。前のめりになり、そのままキースの胸に飛び込んだ。
「キース! またそうやって乱暴に手を引くものじゃないですよ!」
「肉なら竜のしっぽ亭だな」
「そうね、この時間ならまだ混んでないんじゃない?」
マーヴィンの怒る声を気にもせず、アニーはその背を押した。横のラルフも表情一つ変えずに歩きだす。
「アニー、私はキースに話が!」
「はいはい、心配してもどうしようもないことってあるのよ、マーヴィン」
「ほら、さっさと行くぞ」
三人がわちゃわちゃと騒ぎながら行く後ろ姿を見て、キースは少し頬をかく。すると、私を見た彼は、行くかと言って足を踏み出した。さっなかみたいに強く引っ張らず、今度は私の歩調に合わせるようにゆっくりと。
大きな手に包まれた指先が、じんわりと温まっていく。
不思議なことに、冷えていた指先が温まっていくと、胸の奥までほんわかと温かくなっていく。
「元気ない時は、肉だ。それでも足りないなら、また、ケーキ食いに行こうぜ」
「……うん。キースの
「おうっ!……え、また俺の奢りなの?」
「ふふっ、冗談よ。今度は私の番!」
擦った瞼が、もしかしたら少し赤くなっているかもしれない。
何だか恥ずかしくなって、私はキースの手を放すと、前を歩く三人に走り寄った。マーヴィンの背中に飛びつくと、三人は驚いたように振り返る。
「涙は落ち着きましたね」
「もう、泣いた時は手で擦っちゃダメよ!」
「ちゃんと冷やすんだぞ」
「えへへっ。皆、ありがとう!」
マーヴィンの大きな手が私の頭を撫で、アニーが力いっぱい抱きしめてくれる。ラルフは少しだけ笑って私を見ていた。まるでお兄ちゃんとお姉ちゃんに、甘やかされてるような気分になる。
数歩離れたところにいるキースを見て、彼を呼んだ。
「キース! 行こう!」
「……おう」
少し目を細めたキースの表情は、逆光で良く見えなかった。
歩み寄った彼の大きな手が、少し乱暴に頭を撫で回す。それを見たマーヴィンが「優しくなさい!」と怒り出す。
本当の家族といるみたいで落ち着く。さっきまでの胸のもやもやが薄らいでいくようだった。
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