第10話 女の子は恋の噂に敏感

「そうだ、仲良いって言えば、ミシェル」

「ん? なぁに?」

「この間、六花の雫で一緒にいた彼!」

「……キースのこと?」

「そうそう! 模擬戦で優勝したチームに入っていた剣士よね!」

「うん、そうだけど。それがどうしたの?」


 質問の意味が分からず首を傾げると、興味津々な顔を向ける女の子数人が、貴族令嬢とは思えないような黄色い声を上げた。

 

「やっぱりそうなんだね!」

「そうって?」

「もう、隠さなくって良いのよ!」

「隠すって?」

「だから! いつからお付き合いしているの?」

「お付き合い?」


 彼女たちの言っている意味が全く分からなかった。

 興味津々な眼差しに困り果て、アリシアを振り返れば、彼女は意味深に笑っている。それは、ついさっき私に六花の雫のことを聞いてきた時と同じ顔だ。

 もう、何で皆揃って、そんな目をキラキラさせて私を見てるのよ!?

 

「すっごい、噂になってるわよ」

「噂って?」

「あんなと、色々と派手なあなたが一緒にいたら、嫌でも噂になるわよ!」

「……イケメンって?」

「イケメンていうのは、男性を形容する言葉で」

「言葉の意味を聞いてるんじゃないよ! 色男って意味でしょ? キースのどこがそうなのよ」

「どこがって……あなたこそ、何言ってるの? あんな整った顔と肉体美を持った男、そういないわよ! 彼をイケメンと言わずにどうするのよ!」

「えー、どこがよ」


 イケメンって、王太子様とか公爵家の御嫡子様とか、そういった白馬に乗ったイメージのキラキラした人たちのことでしょ?

 キースは確かに整った顔はしてる。ハーフエルフだからだろうけど、金糸のような髪もエメラルドのような瞳も綺麗で──もしかしたら、ちゃんとした礼装を身につけて、黙って立っていれば王子様に見えなくないかも。


 だけど、あいつってば、お酒と煙草が大好きで、喧嘩も好き。冒険に出ればすぐ無茶ばっかりして、ハラハラさせるのよね。お姫様を守るって感じじゃなくて、何て言うか、戦闘狂って言うのかしら。

 うん、イケメンなんて認めない!


「しかも、颯爽さっそうと貴女を抱えて立ち去るなんて、絵になる以外の何物でもないでしょ! もう、校内ではその話でもちきりなんだからね!」

「なっ……やめてよ! 思い出したくないんだから!」


 アリシアの言っていることが、あの演習場での一件だとすぐ分かった。

 顔から火が出てるんじゃないかって思うくらい、頬が熱くなる。


「今日だって、何人もの後輩から、彼はミシェル先輩の何なんですかって聞かれて困ったのよ」


 そう言うアリシアだが、全く困ったという表情じゃない。むしろ私も知りたいわと言いだしそうだ。さらに、他の級友たちも「私も聞かれたわよ!」と言い出す。

 彼女がずいずいと詰め寄ってきた。


「恋仲なんじゃないかって噂になってるわよ、知らなかったの?」

「こっ、恋って……なんなのそれ」

「ただハーフエルフだし、あなた達が一緒にいる時はも一緒だから、一部での噂に過ぎないけど」

「噂だから!」

「本当に?」

「もう、なんで疑うのよ!」

「火のない所に煙は立たぬ、て言うじゃない」

「勝手に火をつけないでよ!」

「あら、上手いこと返したわね」

 

 くすくすと笑うアリシアの後ろでは、級友たちも笑いをこらえていた。皆そろって、楽しんでるでしょう!

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初恋の魔法は危険を招く~お飾り侯爵令嬢にはなりません!~ 日埜和なこ @hinowasanchi

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