第25話、幸せの花束
「うーん。あなたならどうします?」『にゃー』「うーん?おねだりされてもこれ以上は太りますよ」『ゴロゴロ』「はいはい」
リリーとカフェで話したあの日、心の中で決意が固まった。今まで何かと助けてくれたリリーに、心からの感謝を形にしたいと。
あの日、意を決して「何か欲しいものはないか?」と尋ねてみた。だが、彼女の答えは予想外のものだった。
「橘さん、お気持ちありがとうございます。でも、私は大丈夫です。それより、あなたが学校で学びを深めるのに必要なものに使ってください」
一瞬、戸惑った。これほど彼女は私を支えてくれたのに、彼女は自分に対してよりも、私がこの世界で学ぶことに目を向けているのだ。
その気遣いに、ふと前世の妻のことが浮かんできた。あの人も、私に対してそうだった。
私が高価な贈り物をしようとしても、いつも「あなたのために使って」と微笑んでくれた。時に歯痒かったが、彼女の優しさと愛をずっと感じていた。
リリーに対しても、同じように感謝と尊敬の気持ちがあると気づいた。この異世界で、彼女のような人と出会えたのは、本当に幸運だった。
『ワン!』「あーはい、ん?ぬいぐるみ、破れてますね?あ、これかも」『くう〜?』「手作りにしましょう」『ワン!!』「はい、ありがとう。これは直して貰いましょう」『ワン!』
私の成長を喜んでくれる彼女への感謝ならエーテルギアだろう。
「贈り物…」
ふと、智大大蔵で出会った友人リョウがくれたマーガレットのクッキーを思い出し、マーガレットの花をモチーフにしようと思った。
自分でデザインし、リリーへの感謝を込める。研究所の試作室でひとり、小さなエーテルギアを組み上げていった。
エーテルを流すと小さな色とりどりの光が溢れ、まるで壁一面に花畑が広がるような、リリーの笑顔を考えて、設計し、組み立てる時間は、幸せだった。
カフェでの話から数日後、準備が整い、区役所に赴いて学校への入学手続きを済ませた。リリーのサポートを受けながら、私も少しずつこの世界での新たな生活へと歩みを進めている。
「これで手続きも終わりです」「ありがとう」
リリーがいなければ、私は何も始められなかっただろう。だからこそ、感謝の気持ちは募るばかりだった。
リリーからの全面サポートが終わるその日、私は彼女に例のエーテルギアを手渡した。
「ありがとう、リリー」
「まあ!ありがとうございます」
小さなマーガレットを象った置き物を彼女に手渡した。リリーは嬉しそうに起動した。
「わあ!」
色とりどりの光が優しく灯り、周囲に花畑のような光が広がり、私は嬉しくて笑い出してしまった。
リリーは少し驚いた様子で私を見つめ、それからゆっくりと微笑んだ。
「橘さん、これは……とても素敵ですね。とても綺麗で、言葉になりません」
その微笑みは、どんなに疲れた時も私を支えてくれた笑顔だった。リリーの笑顔にまた、私もまた、深い充実感を覚えた。彼女のサポートへの感謝と、この世界で自分が学んでいきたいという決意が、ようやく彼女に届いた気がする。
こうして、彼女への贈り物を通して私は新たな一歩を踏み出すことができた。それは幸せなことだった。
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