第6話、研究所の扉と金木犀の記憶
『にゃ?』「こら、ダメですよ、邪魔したら」『にゃ』「どうしたんです?あなたが気になるなんて」『ゴロゴロ』
黒板の図を見ながら、私はエーテルと蒸気機関のようなギアの組み合わせに笑顔が抑えきれなかった。
エーテル技術は私のいた世界では考えられないものだったが、リリーの説明でその仕組みの一端が見えてきた。
-…そう、それは、私が初めてエーテル技術に触れた日だったといえる…-
翌日、私はリリーに導かれてクロックタウンの研究所へと足を踏み入れた。今日のリリーはパンツスタイルで、その青い瞳と同じ色のジャケット姿だった。
奥へ進むごとに金属の香りが濃くなり、どこか重厚な空気が漂っている。
「ここが研究所です。街にあるエーテルギアはここで試作と改良が重ねられています」
廊下から、真っ白な作業着を着た技師たちが忙しそうに装置の調整や修理に勤しんでいるのが見えた。
相変わらず、壁にはエーテルを通す管が張り巡らされ、時折、緑色の光が流れるように瞬いている。
「今日はエーテルの基礎ですが、お渡しした本はどこまで読みましたか?」
「全て読み切りました」「え?」
リリーを驚かすことに成功し、ちょっとだけ楽しくなりながら小さな部屋についた。部屋の中は黒板や小型のエーテルギアが並んでおり、実験に必要な器具が整然と置かれている。
「では最初に簡単な理論を説明します」とリリーは言うと、黒板にエーテルの流れと機械の仕組みを示す図を描き始めた。
エーテルがギアにどのように影響を与えるのか、そしてエーテルコンダクターがどのようにしてエーテルを機械に送り込むのかをわかりやすく説明してくれる。
「エーテルコンダクターの目的は安定供給、出力制御です。エーテルはバッテリーに蓄積され、この緑色の輝きは、エーテルが十分に蓄積されているサインです」
「なるほど、コンダクターが整流器、ギアが増幅と作用の機構か。本には蒸気機関と組み合わせたものもありましたが?」
リリーは微笑を浮かべて頷いた。「その通りです。エーテルがあることで、単なる蒸気機関よりもはるかに高い効率が得られます。しかし、蒸気機関と組み合わせると大型になるため、主に街の設備などに使われます」
リリーがコンダクターを操作すると、ギアが緑色の輝きを放ち、小さな歯車が規則正しく動き出した。
「では、実際に試してみましょう」
リリーの指示に従い、私は装置の各部品を慎重に組み合わせていく。
未知の技術だが、リリーが優しく指導してくれるおかげか、するすると形になってきた。
「橘さんは、とても器用ですね」
リリーが感心した様子で言うと、私は少し照れくさそうに答えた。「元の世界でも技術者だったんです」
「なるほど」とリリーは微笑みながら説明を続けた。
「エーテルは、周囲の自然や生き物から生まれる力です。私たちはその力を日々の生活に活用しています。そして異世界から来られた方々がエーテルの新しい発見をすることもあるんです」
そして、今組み立てたメリーゴーランドのエーテルコンダクターを手に取った。くるくる回る緑色の輝き。そこには、この街と人々が生み出した調和の象徴のようなものが感じられた。
「橘さん、次は橘さんオリジナルのギアを作ってみますか?」
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