第4話
「家を守るっていうのは、色々あるけどさ。まず、家事育児に手を抜かないとか借金せずにやりくりするっていうのが、古いんだけど基本だと思うんだよね。亭主が浮気でって言うより先に、亭主が浮気したくなくなるような居心地のいい家を提供するとか、自分が、よそのことは放っておいて自分の中身を充実させるとか、そっちだと思うんだよ」
葉子はゆっくりと語り出した。
「古いって言われたらそれまでだけど、何百年も何千年も、言い伝えられてきた事にはある程度の真価があると思う。ありもしない浮気を妄想ででっち上げて、浮気だ浮気だあの主婦は浮気してる、私の旦那に手を出した!! って騒ぐ事が、家を守る事じゃないんじゃないのと、サクラ女には言ってやりたい」
言いたい事は相当あるらしい葉子。
「私も出来てるかどうかはわからないけれど、そもそも、ストーカーにつきまとわれるような隙を作ったのは、同人サイトやっていた私だしね? それで、旦那につまらない思いをさせちゃったけど、同人サイトやって、自分のオリジナルで小説家デビューは、子どもの頃からの夢だからかなえたかったんだよね」
そこで少し間があった。
「だから、ストーカー問題が解決したら、そこに集中するつもりだったんだけどな……あの代理嫁、子育てそっちのけでこっち来ると思わなかったわ」
葉子は、ため息をついているようだった。
「それに、著作権問題なんだっけ?」
女性の一人が恐る恐ると言ったように言った。
「ああ、それ、この間聞いたわ。どうなった?」
男性が続いた。
「うん。うちの小説サイトから、一次創作のキャラを盗んでいって、プロットも本文もまるごとそっくりのを、サクラちゃんが書いちゃって、しかもそれ自分のサイトで発表してね」
葉子は経緯を思い出したらしく、少し、文字を打つ手を緩めたようだった。
考えているようだ。
「サクラちゃんwが私の同人サイトの二次創作を書いているのに、”私の方がうまいから、著作権は私にある”と言ってきかなくて、それどころか、出版社に私の原稿の翻案を勝手に持っていって、デビューしようとしたんだわ」
「うんうん」
「それで、流石にそこはこっちから抗議したら、”私は正妻だ、愛人に対して権利がある、お前のものは私のもの、私のものも私のもの”というジャイアンそっくりの意見がメールで返信されたんだよ。まるっきり悪気がない。私の小説が、そもそも、ストーカーのマモルさんの事ばっかり書いているんだから!! ってありもしない妄想を根拠に言うこと言うこと」
葉子の文字を書き込む手は段々速まってくる。
その様子から言って、相当なメールの内容だったろうし、それは本当に疲れているだろうとこちらも予想した。
「葉子の書いている作品に出てくる、イケメン男性は全部、マモルくんで、だからそのキャラは全て正妻サクラちゃんw である私のもの、だから葉子の原稿は全部自分の!! 葉子は著作権を全てサクラちゃんw によこせ、そしてお前は小説書くのをやめて、webから出てけ! だったっけ?」
他の色々話を聞いている女性がそう尋ねた。
「そう。普通じゃないでしょ」
葉子はまたぐったりした顔文字を使った。
「サラダが生まれた頃からずっと、もう五年以上も同じ事言われて、同じ事でもめているんだよ。こっちは、マモルさんのことカッコイイなと思っていた時期はあるけど、既婚者だから普通に考えていたっつの! それがどうしても理解出来ないらしい可哀相なおつむのサクラちゃんでなー」
葉子は更に愚痴を言う自分を止められないらしい。
「出版界の方に持って行かれたのは辛かったけど、サラダの事を考えて、表沙汰にするのはやめようと思っていたんだよ。だけど、サラダが小学生にもなって、そういう行動を取るのやめられないっていうんだったら、サラダに何より悪影響なのは母親のサクラちゃんだろ。だから、はっきりと立件するわ。明日には、弁護士用意する」
葉子はきっぱりそう言った。
「気をつけろよー」
男性陣が、茶化すでもなくそう言った。
「続報あるなら、教えて?」
女性陣がそう言った。
「葉子、何かあったら、力になるから、いつでもスマホに連絡ちょうだい」
私もそう言った。
葉子は嬉しそうに礼を言って、チャットルームから出て行った。
ストーカーの加害者治療は難しい。
特に、サクラとかいうバカ女の場合は、自分が代理嫁という立場だっただけに、葉子への攻撃する力が普通じゃないだろうし、固定観念も普通じゃないことがよくわかる。
だが、葉子の書く小説が全部、マモルへの愛だというのは、甚だしい思い上がりで、葉子は、マモルというストーカーが結婚した時から、
「あw そう。ラッキー! これからは自由に小説書かせてもらうわー!!」
とそれしかなかったのだ。だって、彼女は既婚者だから、彼の事を断ったんだもの。
それがどうしても理解出来ないサクラは、多分、元々性格がエキセントリックで暇なヲチャだという事がでかいのだろうが……。
どうしても、男の方がきな臭い。男であるマモルが、このチャットルームにいる男達のように、女を煽って争わせて、男の価値を高めるゲームをしていたんじゃないだろうか。そういうのって、男にとっては気分いいだろうしな。
だけど問題は、その煽りにのって、葉子に攻撃するヒマのあるサクラなんだよ。
葉子は本当に、自分の小説を自由に書く事について、そして発表するサイトについて、悩んでいるし、子どもの頃からの小説家になりたいという夢は、本当にかなえたいことなんだと思う。
「小説に出てくるキャラのモデルが誰だとか彼だとかっていう問題って、源氏物語の頃~あるよね」
チャットルームで女性がそう言った。
「もしも、完全に架空だったらどうする気なんだろう。それに、葉子が書く小説って、本当に完全に架空なんだけど……」
純愛ストーカー男がウォッチ女に捕まった後、自業自得 秋濃美月 @kirakiradaihuku
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