第3話
☆彡
それから雑談状態で、話は色々進んだ。
結構、年齢のいっているチャットグループなので、自然と興味の対象はサラダと呼ばれる小学生の女の子についてになる。
「サラダ生まれた時からさ、ストーカーのサクラちゃん、私に”子どもが寝ない!”ってぶち切れてきたのよね」
葉子がそう言うと、男達がまた噴いている。
そのへん、男達が邪推しているのは、マモルくんw を代理嫁に取られたと葉子が悲しんでいるだろう、嫉妬に狂っているだろう、と想定している代理嫁の心理がオカシイのだ。
男にとって、女は永遠に、優秀なオスを奪い合って戦う人種でなければいけないのである。
そのあたりのことを突くと、また面倒くさいので何も言わない。逆にそんな男どもをウォッチングw
「寝ないも何もそんなのお前らの勝手だろうと。こっちは、夜の十二時過ぎでも、小説書く時は書くんだから。更新するときはするんだから。そんなのこっちの勝手だろと。それで、私が、深夜の0時に小説更新して何の問題があるわけ? そのときに、”子どもが寝ない!!”ってどうして欲しかったんだ、アレは」
「自分が、オギャーの赤ちゃんの時に、自分の母親が何やっていたか知ったら、どう思うんだろうね、サラダちゃんはさー」
結婚願望が薄く、現在も独身の女性の一人がそう言った。
「なんか、サラダの子育て、相当きっつかったようなんだよなー」
葉子は当時の事を思い出して、自分が愚痴りぎみになっている。
葉子には妹がいる。
その妹が、現在シングルマザーで働いているのだが、シングルマザーにはなるにはなるだけの理由があって、彼女の旦那が、妹に、産ませっぱなしで家事育児まるで協力せず、しかも本人に薬剤師の正社員でいることを望んだというミラクルだめんずであったと言う事実。
離婚の時は葉子も協力して一口かんでいたため、小さい女の子の子育てがどれだけ大変かは知っているらしい。その大変な大変な、子育ての最中に。
「何で私のサイト読んでる暇あったんだ、あのクソサクラには……んな暇あったら、赤ちゃんの面倒見てろよ」
そこはかなり手厳しく毒づいた。
葉子は妹愛と姪っ子愛が半端ねえのだ。
「自慢したかったんだろ。代理花嫁の私が子どもを産んで差し上げました! あんたの出番なし、悔しいでしょ!! って」
男達が口々にそういう。
「ストーカー夫婦にそんなこと言われても……こっちは、小説書いている時のコメントやDMに、そんなの混ぜられたら、ハァ? しか言う事ないんだけど……」
それは実際そうだろう。そのあたり、葉子に何度か「公認心理師様!」とガス抜きにつきあわされた私としては、そうとしか言えない。
そのとき葉子は、てっきり、長年苦しんだストーカー問題集が解決されたと思い込み、自分がアマチュア同人からプロ作家になるためにカガヤカシキヒショーをしようと、必死こいて小説書くのに夢中だったのである。
そういうときに、ストーカーの代理嫁に「子どもが寝ないんです!」と持ち込まれたって、
「は? あんた何?」
しか出てこないだろうが、ストーカー代理嫁は意外にも、げすい男性陣の想定するのと同レベルの悲しいおつむだった可能性が高い。
「本当さ、最初の1~2年は耐えたけど、何なんだあの、人の小説に対する異常な粘着は。しかも自分が異常な粘着しているっていう自覚がないんだよね」
「だから異常な粘着なんでしょ。自分が異常だと気づいていたら、皆、普通は行動に移さないよ」
女性の一人が慰めなのか何なのかわからないことをいう。
しかし葉子は、そこはわかっているらしく、
「異常者ウぜw」
とだけ打って、それ以上はなにも言わなかった。
それがかえって、当時から、代理嫁から本当に尋常じゃない攻撃を受けていた事を思わせて、私は一緒にいて腹の底が重くなってくる。
葉子の受けた攻撃とその傷をある程度、知っているだけに、彼女には自分に合ったカウンセリングが必要だろうと感じる事さえある。まあこういうのって相性問題だから、私の力じゃどうにもならないんだけどな。
「葉子の小説に粘着している間は、子どもどうしているのよ。葉子って、量のある小説書く方でしょ、それを読んでイチイチ、”自分の旦那と不倫してる! 不倫したいんだ!”って妄想しながら細かい粘着ツッコミ入れて、DM入れてくるって、どういう無神経さとヒマさなんだよ」
「わかんねw 小さい子どものいる母親が、そんなこと出来るヒマがあるっていうのが、妹の生活知っているだけに、わかんない。妹は働きながらの子育てだから、一概に比べて言い訳じゃないけど……普通に考えれば、ヒマがあるのは専業主婦だからだろうし、まあそこは……」
「我々が、専業主婦はバカである、と言われても仕方ないってこと?」
男どもがそう言った。
途端に女性陣からブーイング。
「私も在宅で働いてるけど、主婦とそんなに変わらない生活しているよ。主婦の知り合いも何人かいるけれど、大抵はみんなもっと真面目。watchにはまるようなの、普通いないって」
葉子がそう言った。
「産んだら育てるって意識が高い人多いよ。それに、今時、専業じゃなくて働いている主婦だって大勢いるし。何でwatchなんてつまらないことに血道あげて、可愛い盛りの子ども放っておいて、しかもそれで”彼の子どもを産んだ私の勝ち”をアピールしてんのか、そのへんの脳内構造がわかるんだけどわからない」
葉子はそうも言った。
「ま、主婦をバカにするのはやめてよねってことよね。watch女をバカにするのは自由だけど」
私も続いてそう書いた。
「子育てが辛いからwatchに走るっていうのもあるかもよ」
別の女性がそう書き込んだ。
「子育てが辛いのはそりゃそうだろうけど、何でそこであえてwatchなんだ?」
世間体を気にするタイプの男性がそう書き返した。すると、女性は黙ってしまった。
「いずれ、子育てより優先して、24時間監視態勢でうちのサイトwatchして、不倫だ不倫だ騒いだり、自分の旦那を狙っていると吹聴して、キャラいじめされるのはたまったもんじゃないんだよね。しかも、やっぱり、根回ししているらしいし」
「根回しかよ!!」
私はついつい身を乗り出して書き込んだ。
「うん。最近、snsの行く先々で妙な反応が多いなと思って、ちょっと探ってみたら、サクラのバカ女が、私が自分の旦那と不倫しているってあっちこっちに吹聴したらしい。根回しって。それで、私が旦那とラブラブな事を知っている友達の一人がありえねw って教えてくれた」
「……」
「この調子で、web上で私が不倫しているとか不倫願望とか、言いふらされたらたまったものじゃないし、watchだし。向こうのサラダにいい影響があるわけない。だから、立件することに決めたわ」
「そっか……」
「私にも、年の近い姪っ子いるしね。妹が同じ事していたらと思ったら、たまらない。自分が惚れた男と結婚したと思ってるなら、男との暮らしと自分の子どもの世話に明け暮れてろよ。それが家を守るってことだろ。マモルさんは本当に何やってんだ。代理とは言え、自分の嫁も御せない程度かと思ったら一気に萎えたわ」
言いたい放題に見えるが、葉子の胸中はどういうことなのか、私にも計り知れない。それこそ、疲れているだろうなと、思った。本当に疲れているだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます