第2話 詰み

『昨夜、突如として謎の動物が発生しました。目撃者は複数おり───』


ある日、世界はゲームとなった。

動物は魔獣へと、人間はプレイヤーへと進化した。

新手の災害か、はたまた神の気まぐれか。


あるものは生きていけないと絶望し、あるものは会社に浮かなくて済む、と狂喜乱舞した。

そして、ある男は──


「な、な、ななな、何じゃこりゃああぁぁぁぁぁぁぁ↑

うおおおおおおおおこれもしかしなくてもゲームの世界に来たってことだよな!?そしてどう見たってそこら辺を歩いている化け物の見た目がマイフェイバリットゲーミング『マジカルアーツ=オンライン』!来たか!俺の天下が!ついに!俺の時代がァ!キタァ!これで食事とか気にしないでずっとゲームできるぜ!あれこれ口にするとすごいテンション上がってきた!何か叫ばずにはいられねぇ!ここまで育ててくれてありがとうお父さんお母さん!こんな世界にしてくれてありがとう神様!さようなら退屈な日々!そして初めまして新世界!Fooooooooooooo!Yeah!ヒャッハー!ぐわはははははははグェゲホゴホ」




何度も夢見た光景が実現し、何時間も跳ね回った。




×××××××



「やっぱこの体、いつものアバターじゃなくて俺の生の体だよな。てことは身体能力は絶望的、そしてここは部屋の中。外を見れば魔獣がいることに目を瞑ればいつもの風景。これ、ゲーム世界に入ったんじゃなくて世界がゲームになったのか。てことは他にもいるわけだな。NPCは居るのか?スペルは使えるのか?アーツは?コンボは?エフェクトは出るのか?魔獣を殺した時、死体は残るのか?ドロップするのか?メニューはあるのか?リスポーン機能は?セーブは?」


尽きぬ疑問。それを解消するには外に出る他ないのだが・・・・・・・・


「俺、外苦手なんだよね」


それは無理な話だった。そもそもプロゲーマーとして稼ぎ始めてからメディア露出も極力断るほどに現実でのコミュニケーションが苦手なのだ。


「せめてゲーム内なら救いはあったものを・・・・・・」


端的に言えば、詰み。外に出られぬものに、救いはなかった。


「社会は無慈悲だぜ」


そんな声が虚しく響いたのが、やけに印象的だった。




±±±



「とは言え、外に出ないと何も始まらない!」


数十分ほど頭を抱えて、ようやく鯨馬は外に出る決心をつけた。


「いざ、ゆかん!」


「あ、よかった〜。他に人いた。ゾンビパンデミックLv100みたいな事態かと思ったけど、生存者いた。よかった〜。」


「ぴぃっ!?」


「どうしました?大丈夫ですか?」


「え、あー、そっすね、大丈夫っす、はい」


途端に挙動不審になる鯨馬。しかし、声が出ただけマシだと思う他ない。おそらく今の心拍数は140を超えているだろう。それよりも・・・・・・


「魔獣が、襲ってこない?」


「そうなんですよぉ、だからここまで歩いてきました〜。」


やはり襲ってはこないらしい。



《はーい、時間切れー。只今よりロックを解除しまーす。》


無機質な声が脳に響く。

続いて──


【魔獣の敵対が解放されました。スペルの使用が解禁されました。プレイヤーにスペルを与えます。】


【スペルを獲得しました。これによりアーツが使用可能です。アーツを選択してください】


続いて機械音声のようでありながらはっきりと聞き取ることができる声が聞こえてきた。

目の前にはウィンドウが表示されている。


『アーツを選択してください


•マジカルライン

•ブレイクスペル

•アークノヴァ

•アストラルギア』


どれも『マジカルアーツ=オンライン』にあったものだ。

そして、鯨馬は何を選ぶかもう決めている。


「俺が選ぶのは、アークノヴァだ。」


最初に名前がかっこいいからという理由で選び、しかし自分に一番あっているアーツ。

内訳としては突撃、粉砕、勝利!と言った具合の脳筋スタイルだ。鯨馬はそこに細かい工夫を加えることで世界で戦ってきた。


「あの、」


「へぁ??ああ、はい、何でしょうか。できれば手短に・・・・やっぱ何でもないっす」


「詳しいみたいですけど、これって何ですか?」


鯨馬にとって後輩育成とはなれたことだ。


「まず、これは『マジカルアーツ=オンライン』っていうゲームの流派で──」


マジカルラインとは最も選ぶ人が多い流派で、四肢に魔法を付与して戦うスタイルだ。

そしてブレイクスペルは文字通り相手のスペルを壊して戦うというもの。

アークノヴァは脳筋、アストラルギアは1~5までのレベルを調整して戦う方法。


「じゃあ、、、」


彼女は、ブレイクスペルを選んだ。








「そう言えば、名前なんて言うんですか?あ、私は如月日向きさらぎひなたって言います!」


「俺は、その、不労鯨馬・・・」


「これから、よろしくお願いします!」

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