利他

触れたい。

 高二の夏。肌が汚いという理由で、親友が彼氏に振られた。裸の彼女を置き去りにして。

 彼女は重度のアトピーで、肌が汚いというのは、彼女が一番気にしていたことだった。

 ヤりたいという彼氏を何度もいなし、つながりたいけど、怖い。だけど打ち明けなきゃ、という彼女怯える顔を見てきた。でもあの時の顔には、もしかしたら、という希望が滲んでいたのに、あっさりと裏切られた。彼氏はクズだったのだ。

 打ち明けられないまま、断りきれず、流されて肌を見せた。彼氏の顔は酷く歪み、最低な言葉を発した。彼女が一番気にしていたこと。

「うわっ」

と言い放った言葉に、彼女はどれだけ絶望しただろう。彼女はどれだけ傷付いただろう。

「ごめん。ムリだわ」と言われてどう感じたのだろう。きっと、世界はシャッターを下ろしたように、一瞬で深淵へと暗転したのだろう。

 服を着るのもほどほどに、彼女は家から追い出されて、私に電話した。

 彼女は泣いていた。

 私は抱きしめようと、彼女の元へ走った。でも結局抱きしめられなかった。

 彼女は何とかしようと努力していたのに。かかりつけの病院にも相談した。やれることは全部やった。でもだめだったのだ。その努力は、彼氏には見えなかったし、四捨五入して捨てた。元カレになった彼氏は次の日、学年でも可愛いいと言われる女子と付き合った。

 でも、彼女よりはきっと可愛いくない。あの期待と不安に揺れる、乙女の顔をした彼女よりは可愛いくない。

 彼女は可愛かった。顔も中身も。本人曰く、顔の皮膚だけは肌質が違く、比較的綺麗だった。彼女も唯一綺麗な顔の肌だけはなんとかキープしようと必死だった。元カレはその顔だけを見ていたのだろう。

 私は人生で初めて人を殴った。一度に二人も。殴る肌の感触は気持ち悪くて、でも凄く清々しかったのを覚えている。よく晴れた夏の日、空が青くて、私は停学になった。二週間、毎日あの子は会いに来てくれた。「私の代わりに怒ってくれてありがと」その度彼女は泣いた。別に彼女のためじゃなかったけど、彼女が泣く度に、私はむず痒い気持ちになった。

 嬉しかった。

 あの時は必死に誤魔化したけど、私は涙を流す彼女を口をもごもごと動かし見ていた気がする。

 甘い霧のような気持ちを隠して、私たちは二十六歳になった。

 二十六の春、彼女は幸せを手にした。肌に触れてくれる人を見つけたのだ。幸せそうな笑顔に、私は幸せを感じた。それで、十分だと思えたのだ。

 秋、私はその幸せをぶち壊した。

 十月十七日。結婚式を目前にした秋のある日、ラブホに入るあの子の婚約者を、私はカフェの窓から見た。彼の隣には猫のように張り付く、ミルクティー色のストレートヘアの女がいた。

 世界は混濁。ぐるぐると視界が回り、あぁ地球はこう回っているのだなと思った。

 彼女を幸せにするという男は、彼女以外で幸せを感じていた。セックスはしたのか。そのセックスに愛はあるのか、それとも性欲の発散か、それはわからなかった。わからない。わからないわからないわからないわからない、から、私は迷った。

 それを、私は彼女に打ち明けた。彼女には幸せになって欲しかった。それが私の幸せになっていた。願いに、なっていた。

 迷って迷って迷って迷って、

 間違えた。

 世界はねじ曲がった。

 本当を知ることが、彼女の幸せか、言わないことが彼女の幸せか。私は迷ったのだ。

 同時に、私は言わないという重みに耐えられなかった。羨ましかったから。苦しかったから。

 結局のところ、本当はどうしても、彼女の肌に触れられる彼が、彼女以外の女の、肌に触れていたのが許せなかったんだろう。彼女が選んだ彼が、どんなに酷い男か、私は言いたくなってしまったんだと思う。

 それは、私の幸せじゃなかった。

 彼女は、自殺した。

 飲み会で遅くなると言った彼を、浮気だと見切りをつけて、同棲していた婚約者の家の風呂場で手首を切って死んでいた。見つけたのは、婚約者。

 私には、留守電が残っていた。

 つややかな春の陽だまりみたいな、少し冷たい風のような、どこか引っかかるような声が、音質の悪いスピーカから流ていた。

『もしもし? 愛理ちゃん? 元気かな?』

 アナウンスのなる電車内で、かき消されそうなほど小さかった。外はイチョウの黄色で染められていて、そよそよと揺れているのが想像できた。

『……今までありがとう。愛理ちゃんがずっと私の一番だった。ありがとう。私、結婚するの。でもやめる。あれ? ……あはは。ごめん、愛理ちゃんも知ってるよね、愛理ちゃんが教えてくれたんだもん』

 電車が止まって、扉が開くと云うアナウンス通り、開いた。

『さよなら。いつか、会えるよね』

 何故次の話をしたのか。次をなくしたのは貴方はなのに。

 走った。走った。ダーッと、一直線に走った。

 パンプスの踵は側溝にはまって、靴どころじゃなかったから、そのままにして裸足で走った。タイツは小石を踏んで穴が空いてボロボロになった。

 マンションに着くと、部屋の鍵は空いていて、過呼吸になって転がっている婚約者を見つけた。

 何かあったことが、悪い妄想出はなく、現実のものだと云う警告がなっていた。

 風呂場。二人の生活の残り香に、全てが開きっぱなしになっている異質感が漂っていた。

 入った瞬間、むわっとした熱気が匂いと共に顔に張り付いた。彼女のお気に入りだったワンピースは真っ赤に染まっていた。黄色から赤に世界は反転した。

 そこからの記憶はない。私は警察と救急車を呼んだらしく、警察署で色々と話をして、安置所に行った。

 彼女の死に顔は綺麗だった。そして、初めて彼女の肌に触れた。ざらついていて、冷たかった。

 彼女の婚約者からは、あまりに冷静に対応する私を、冷徹だ! と罵られて、お前が言うか、と殴った。

 三度目だった。今度は停学になることもなく、普通に会社に行った。

 私が、すべてをぶち壊したのだ。

 彼女は、今度はあの言葉を言われる前に、別れたのだ。彼女自身が目算をして見切りをつけたのだと思う。彼女が一番気にしていた言葉、それを言わせなかった。

 結果、次を無くしたのは私で、次が亡くなったのは貴方で。原因は彼にあった。

 否、本当は私に。

「愛理ちゃんの肌は綺麗だよね」

 私の肌を撫でる恋人に、私は何も言わなかった。

 恋人は、くたびれた私の、喪服を脱がした。

 こういう男なのは、前々から知っているし、私はそんなことを気にしていない。こいつとの出会いは大学二年生の冬、クリスマス前に恋人探し勤しんでいる知り合いに、あの子が連れて行かれそうになって、なんとか一緒に乗り込んだ合コンで出会った。こいつがあの子を狙っていたから、私が押して、代わりに恋人になった。

 だから、どうだっていい。こいつが何をしようと、私にどんな事しようと、構わない。興味なんてこれっぽっちもないから。

 しばらくしてから、私は「そう?」と聞き返した。だが、恋人は行為に夢中で聞いていなかった。

 甲本愛理、二十六歳。OL、非処女。愛がわからないまま大人になって、先日親友が自殺した。

 全てを終わりにしたい。


 暗がりで、黄朽葉色に染まるイチョウ並木を千鳥足で歩いた。恋人と一方的で合法なセックスをしたあと、私は恋人の家にあったウィスキーをラッパ飲みしたのだ。願わくばアルコール中毒でコロッと死んでみたかった。しかし、私はどうやら豪酒のようで、死ぬことはなかった。

 ――――こんなに飲んだのは、初めてだ……

 自分がこんなにお酒が飲めること自体、初めてしった。今まではあの子を守ることに必死で、酔ってる暇なんてなかったら……。

 熱くてぽーっとする。

 明日も仕事があるのに、と頭では分かっているのに、ふらふらと街を歩いている。

 潤んだ瞳で街並みを眺める。あの子がいないなんて、信じられない。

 イチョウを踏んで歩くと上から影が降った。見上げると、ガラの悪そうな二人組の男がいた。

「おねーさん、一緒にご飯行かない?」

 黒の混じった汚い金髪の男が、鼻の下を伸ばしている。サッと酔いが覚める。風のつめたさを感じた。

 男を押しのけて進む。こういうのは相手にしないほうがいい。どうでもいい男と付き合っているけど、どうでもいい男と3Pしてもいいわけじゃない。

 片方なくなったパンプスは、その日のうちにゴミ袋に入れた。今日は下駄箱の奥に入っていたピンヒールを出して履いている。

 コッコッコッコッ、と云う脈拍にも似たヒールの音が響く。

「おねーさん、」

 また声をかけられる。さっきの男だろうか。付いて来た雰囲気はなかったが。

 イライラして声を張る。

「……ちょっと、しつこ――――」

 ――――い、

 甘栗色の髪がふわふわと揺れている。目にかかるくらいの前髪から、不適な猫目が覗いている。夜の暗闇に影がかかって、瞳は深い黒のはずなのに、光っていた。街灯が映った目が光を反射して、火花が散っているかのかのように視えた。

 可愛い。

 声をかけていたであろう、女の子は今時の韓流アイドル見たいな見た目だった。

「一緒にお茶しない?」

 光る瞳で、私の驚く顔を面白がっている。

 な、なに言ってるの。口に出そうとして、魅入られる。

「お酒でもいいよー」

「も、もう十ニ時よ……?」

「……そうだけど?」

 これっぽっちも意味がわからないと云う顔をする。

「補導されるわよ!」

 少女は赤いリボンが映える、冬物の黒いセーラー服を着ている。どう考えても未成年だ。

「私、補導されないもーん」

 ペロリと舌を出す。その仕草が可愛い。

 だが、言ってることの意味が分からない。何をもってそんなことを言えるのか。

 この時間に制服を着た女の子は目立つ。さっきから、居酒屋から出てきた様子のおっさんやガラの悪い男、仕事帰りであろうサラリーマンも二人の事を見ている。

 私は焦って少女の手を掴んで走り出した。

「ちょっ、どこいく――――」

「いいから走れ!」

 親友が死んだ。セックスをした。女子高校生らしき女子にナンパされた。

 日常とそんでもないことが交互に起こっている。

 バギッ。

「あっ」

 視界が傾く。ピンヒールで走ったから、踵が折れたのだ。体制を崩して転ぶ。

「……いたたた」

 だ、ダサすぎる。

 軽く世界に絶望していると、地面に着いた両手の右手の方を掴まれて立たされた。

「走るんでしょ!」

 靴を脱ぎ捨てて走らされる。手を引いていたのに、今は手を引かれている。なんで走っているのか、分からなくなる。

 イチョウ並木から外れ、繁華街を走った。

 なんで走っているんだろう。

「はぁっ、はぁっ、はぁっあっ」

 嗚呼、あの子は死んでしまったんだ。唐突にその事を思い出して、ぽっかりと穴が空いた感覚に襲われる。

 ――――……そっか、私、あの子が死んでしまった世界から逃げてるんだ。

 ならば、走らねば。

 走って、走って、走って、涙が溢れた。

「っう、うっ、うわあああぁぁん」

 辛い、苦しい、息が続かない。鼻水が出て、涙が出て、ゲロが出そう。

「うわぁぁぁぁーっ!」

 私が全力で泣いていると、ケタケタ笑いながら、少女が叫んだ。

「あはは! さいこー」

 バカにしてんのか! 怒ろうと思っても苦しくて声が出ない。ただひたすらに泣いた。

 私は、本当は、酔っ払って死んでしまって、走馬灯をみているのかもしれない。もしかしたら、あの子は死んでいなくて、セックスもしてなくて、ナンパもされてなくて、これは私がただただ走っているだけの夢かもしれない。

 それが万が一にもありえないことは分かっているけど、そう信じてしまいそうだった。

 掴まれている手を握り返す。

 あの子にも、こういうふうに触れたかった。親友じゃなかった。世界一、好きな人だった。あの赤く染まった、見るからにザラザラした肌に触れたかった。

 触れたかったのは、こんなすべすべした肌じゃなかったんだ。

「うぅ〜〜〜〜っ」

 繁華街を全力ダッシュしながら、あの子の肌を思って泣いた。

「おねーさーん!」

 少女は振り返る。目を話さない。その目は光り輝いている。

「死にたいー?」

 世界がスローモーションになる。私は間髪入れず答えた。

「っ死にたい!」

 あの子に、会いたい。

「じゃー、一緒に死のっかー」

 風が拭いた。ふわふわの髪の中から、目だけが一際光っている。

 髪を振り乱して、頷いた。

 この子は初対面から人と死のうと言われているのに、笑って見せた。

 どうしてだろう。

 赤白黄色、光る街並みを横目にタクシーを捕まえて乗り込んだ。もうとっくに終電はない。戻れはしないのだ。

「おねーさん、これで拭いて」

 ハンカチを手渡される。それを素直に受け取った。秋の夜に差し出されたハンカチは、冷たくて、止まらない涙にはちょうどよかった。

 シートベルトなんてせず、ハンカチにうずくまって泣く。止めようと思ったのに、どうしても止めらなかった。

 死ぬ未来なんで、ずっと先だと思っていのが、すぐそこにある。それは、嬉しくもあり、寂しい気もした。

「運転手さん、海まで」

「……海までですか?」

「うん」

 運転手が何かを察しとる。泣きじゃくる喪服の女と女子高生、あまりにも不穏だろう。

「……いいんですか?」

 少女はずっと笑っている。それは、凄く嬉しそうに見えた。

「いいの。私たちはこれから、」

幸せになるの。

 凛とした声が耳に残る。

 ――――これを。幸せと呼ぶのか。死ぬことが、幸せと。

 涙が止まる。見上げると、相変わらず猫目の少女が勝ち気に笑っているだけだった。

 これから心中するとは思えない。

 そうか、幸せになるのか。――――そうだよ、あの子に会いに行くんだもん。

「…………海まで、お願いします」

 運転手とルームミラー越しに目が合った。しばらく目線を落とした後に、運転手は、分かりました、と言った。

 車が動く。

 グーグルマップで調べると海まで車で一時間十分と出た。

 車窓に顔が映る。街の光がライトセーバーのように流れていった。手は、繋がれたまま。

「……手、いつ離すの?」

「ん?」

「んー。ずっと?」

 何気ないように振り向く。まともな会話はこれが初めてだった。

「ずっとって…………」

 ――――死ぬまで?

 運転手が聞き耳を立てているのが分かって、最後まで言うのははばかれた。知られたくない、と思った。

「……そう。ずっと」

 誰に言うわけでもなく、少女は言う。

 車のエンジン音が、二人の沈黙を埋めた。

「…………貴方の肌は、綺麗ね」

 掴んでいた手を僅かに撫でる。さらりとした感触。十代の肌だ。

「綺麗じゃ、ないよ」

 手を離される。がさごそと、布の擦れる音がして、見る。目をひん剥いた。

「な、何してるの!?」

 少女はセーラー服を脱いでいる。

「ちょ、ちょっと何して――――」

 白くて、つややかに、淡く光を反射的する肩が露わになり、運転手を気にしながら隠そうとして、動きを止めた。

 露わになった素肌にあったのは、紫と緑の痣だった。

「……………………」

「ねっ、」

 確かめるようにこちらを見る。

 可愛い容姿と赤色のレースのブラジャーに、似合わない痣だった。背中にも、腹にも、あちこちにある。そして、次は彼女の黒いタイツが気になった。寒くなってくるこの季節には何気ないタイツだが、今は引っかかった。

 きっと、足にもあるのだ。

 私は黙った。黙って、繁華街を抜けて住宅地に入った風景を眺めた。

「綺麗よ」

「えっ、」

「綺麗。私よりずっと」

「………………」

 そっぽを向いて、ぼつりと、「そう」と答えた。

 一時間は、長くも、ゆっくりとも流れていった。

 途中、私はタクシーの中で眠った。泣いて疲れたのだと思う。

 車のブレーキ音と、あの子の声で起きた。

「おねーさん、着いたよ」

「んん……」

「おねーさん」

 身体を起こし、窓の外をを見ると、そこは真っ暗だった。ただ、海が月の光を受けて、きらきらとした道を作っていた。

 タクシー代を適当に払ってから、タクシーが去るのを待って、それから海へ歩いた。

 裸足で砂浜を踏みながら、どうしてこの子は私と一緒に死のうとしてるんだろうと考えた。

 ざざーん、と波が砕ける。

 初めて会って、一緒に死ぬ。彼女が提案してきたから、なんとなく受け入れていたけど、よく考えるとおかしい。本当にいいのか、と云う罪悪感が足から這い上がってくる。

「ほんとに、」

 声を張り上げると、少女は振り向いた。

「ほんとにいいの?」

「何がー?」

 気楽な様子で、ちゃぷちゃぷと水と戯れている。

「私たち、死ぬんだよ!」

 私は、受け止められない現実から逃げる。――――でも貴方は?

 一体、どうして死ぬというんだ。

「いいの、」

 その顔から、一瞬あの子を観た。

「貴方が死ぬというから、私も死ぬの」

 全然、似ていないのに。言っていることも、考えている事も真逆のはずなのに。

 死ぬ人というのは、こんな顔をするのか。

「行こう」

「……うん」

 秋の水は冷たい。これなら、冬の水はもっと冷たいんだろう。ザブザブと進んでいく。

「はぁっ、はぁっ……」

 ふわふわの髪が揺れる。

「……ねぇっ、貴方の名前は?」

「…………」

 月明かりの中、少女が振り向く。

「ヒカリ」

 不適で、勝ち気な笑顔。

 ――――ヒカリ。

 そうか、彼女が光か。

 

 ――――あの日、手を引いていたもらった。温かで、滑らかな肌に。私は、あり得ないぐらいの幸せを感じたんだ。父親に殴られ、引っ張られるワタシを、庇ってくれた。結局、何も変わらなかったけど、あの日、私の代わりに父親を殴ってくれて嬉しかった。

 波の音が直ぐ側で聴こえる。

「…………ヒカリ、私たち、死ぬと思う?」

「思う。こんなに寒いんだもん」

「そうだよね」

「うん……」

「本当にいいの? 折角生きているのに、」

「いいって言ってるじゃん」

「………………」

「ワタシはずっと貴方を探してた。貴方のために生きたいと思ってた」

「…………」

「一緒に、幸せになろう?」

「うん……」

 これが、正しい幸せなのか分からない。それでも、今、この瞬間、私は幸せを感じた。

「抱きしめて」

「……いいよ」

「幸せになるんだ」

「……なるんだよ」

「あったかい」

「そうだね」

「まだかな」

「もうちょっと」

「まだ触れていたい」

「そうだね」

 これから、親友に会いに行く。次は、案外すぐに来た。彼女はこうなることが分かっていたのだろうか。

 ――――まぁ、どうでもいっか…………。

 甲本愛理、二十六歳。OL、葬式のあと恋人とセックスして、女子高生と心中する。親友の相原灯に会いに。

 その肌に、触れたいから。

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利他 @Kaworu0913

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