第17話 田舎の猫 呪術師に遭う
男のアパートから出た私は町の中を歩いた。この町の規模はグリーンフィールドよりやや大きく、建物の数から見ると住んでいる人も多そうな感じ。すれ違った人種も様々だけど、やっぱり人族が多いみたいね。朝靄にくすんだ、朝が早い為まだ人もそう多くない町並みを歩きながら、私は朝食が食べられる場所を探すことにした。
前の世界の知識に『美味い店はメインの通りより裏通りにある』というのがある。まぁ人気店は勿論美味しいのだが、人が多く詰めかけるので忙しくて行き届かないところがあるし、地代も高いので食材もそれなりのコストの物に抑えがちだ。
もちろん沢山材料を使うのでその分材料費は割安にできるし、料理する機会も当然多いから経験値が上がるしで良い点も多々あるんだけどね。私は単に隠れた名店を探すのが好きなのだ。その為私はメインストリートを右に曲がり、裏通りに続く小道に入った。
町のメインストリートを外れ裏通りに入ると、猫人という存在が珍しいからかあちらこちらから興味本位の視線が突き刺さった。「見世物じゃないぞ」と中指立ててやろうかと思ったけどさ、流石に初めての場所でそれは大人げないよなと思い我慢したよ。
でもね、その中に明らかに敵意のある視線を感じたんだ。さりげなくその視線の元を辿ると、赤髪の少女がいたんだよね。年の頃は10代半ばって感じだろうか? その娘は壁にもたれかかってダルそうにしながら、それでも眦は鋭く私を睨んでいた。
こんな時無自覚系主人公なら「私何かやっちゃいました?」って感じなんだろうけど、残念ながら私はそんなタマじゃないのよ。私はその娘に近づくとおもむろに言ってやったの。右手の中指を立てながらね。
「あ、やんのか?」
我ながら「治安悪っ」と思ったけど、こういう場所では舐められたら終わりなんだよね。精一杯強者のオーラを振りまきながら、娘の返事を待つ私。私に向けられていたいくつもの興味本位な視線が消え、心なしか周囲の気温が下がったような気がした。
娘は相変わらずダルそうにしながら体を起こすと座り直した。
「アンタ……どういうつもり?」
娘の声はやや擦れていたが、年相応のソプラノボイス。いわゆるアニメ声だ。本人は精一杯凄んでいるつもりだろうけど、私に通用するわけがない。
「それはこっちの台詞なのよ。のっけからガンつけてきたのはそっちじゃない?」
まぁね、私もそれなりに場数踏んでるからね。グリーンフィールドを出ようと思ったのは、そういった過去を清算する意味もあったりするんだよな……
すると娘は「ふぅん……」と呟き、おもむろに立ち上がった。手にはいつの間にか棒きれが握られている。「これは平和的解決は無理そうね」と思いながら私も姿勢を低くする。いつでも飛び出せるように。
一瞬即発という雰囲気の中、私は娘の足が震えているのに気づいた。
「貴女……もしかして……」
私に向けられた敵意。ダルそうな様子。擦れた声。震える足。それらの事から私は一つの推論を導き出す。そして私は娘を『鑑定』した。
「何すんだ、てめぇ!」
やっぱりだ。この娘は私が『鑑定』したことに気づいている。
「貴女、呪術師ね?」
呪術師……シャーマン。決して元の世界にあった国ではない。『それはジャーマン』というツッコミがキャティから入る……。またリンクさせやがったな、あの『ダ女神』……。『ダ女神言うなっ!』という頭の中の叫びは無視して私は続ける。
「呪いをかけていたのは貴女だよね?」
そう、恐らく先ほどまで一緒だった男の母親に呪いをかけたのは彼女だ。呪いはかけた本人もかけられた者と同じように体調を損なう。人を呪わば穴二つなのである。そして男の母親の呪いを解いた今、彼女一人がその呪いの影響を受けている。
呪いを解くときに『呪い返し』は起きないようにしておいた。もし発動してたら彼女は既に生きてはいない。『呪い返し』はかけた呪いの何倍も強力な呪いを、かけた者に返すものだからだ。でも、それまでの呪いの影響力はそのままだ。それくらい人を呪うというのはリスキーな行為なんだけど……
「うるせぇな。それがどうしたって言うんだ。オマエが邪魔しなければっ……」
そう叫ぶと、いきなり彼女はぶっ倒れた。
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