第18話 田舎の猫 呪いを解く

 倒れた娘を抱き抱え物陰に連れ込むと、私は彼女の服を徐(おもむろ)に引っぺがした。


 「やっぱりか……」

 服を脱がすと彼女の躰は黒いアザで覆われていた。そして下腹部、いわゆる人体でいうと丹田の部分に刺青があった。自らの躰を依り代にして呪いの儀式を行った証拠だ。


 呪術とは『神仏その他不可思議なものの威力を借りて、災いや病気などを起こしたり、また除いたりする術』である。


 『おまじない』という言葉を聞いたことがない? まじないも「呪い」と書くのよね。つまりやり方は同じなんだけど、人に不幸をもたらすものが『のろい』であり、人に幸せをもたらすものが『まじない』と言えるのよ。


 こういった知識はキャティがくれた『アカシックレコード』のスキルによるもの。『アカシックレコード』はアーカーシャ記録とかアカシアの記録とも呼ばれている。


 宇宙誕生以来のすべての存在について、あらゆる情報がたくわえられているというデータベースにアクセスすることができるのがこの能力なんだよね。


 元の世界でも、ある占星術師がこのスキルを持っていて「○○年に人類は滅亡する」って予言をしたみたいだけど、外れちゃったらしいわ。最終的には世界ごと滅びちゃった訳だから強ち間違ってはいなかったんだけど……


 『アカシックレコード』はあくまでも過去から蓄積された知識を得るためのスキルであって、私にも未来は見通せない。未来は存るものではなく創るものだからね。


 さて、シャーマンの娘に話を戻そう。この娘は恐らく自身の躰を呪い、手足の部分だけ男の母親と入れ替えたのだ。男の母親は手足が痛むと言っていたからね。本来なら呪いを降ろした躰全体を、呪いたい相手と入れ替えるのが普通なんだけど、何らかの理由で出来なかったのか或いはしなかったのか……。まぁその辺りの理由は彼女に聞いてみないと分からないわね。


 私は彼女の刺青に手を当てると『クリア』と呟いた。その途端刺青はスッと溶けるように消え、同時に娘の躰を蝕んでいた黒ずみのようなアザも消滅した。念の為もう一度『鑑定』してみる。


 「良かった、消えてる」

 彼女に纏わり付いていた呪いの残滓はきれいさっぱり消えていた。呪いから来る痛みも消えたのだろう。彼女は先程より安らかな顔で眠っていた。


 そのまま30分程経っただろうか。漸く娘に目覚めそうな兆候がみえた。瞼が微かに震えフッと吐息が零れた。

 「誰……?」

 瞼を開くと同時に私の姿を認識した娘は呟いた。 

 「ようやく目覚めたのね。」

 娘はハッとした表情を浮かべ、自分の躰を確かめるように見た。服に隠された部分を覗き込むようにして確かめると、視線を私に戻しながら言った。


 「……見た?」

 私は何を? という意味の視線を返す。すると娘は「えっち……」と小さな声で呟いた。

 その時私の心の中で『ずきゅんっ!』という銃声が鳴り響いた……

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