第8話 田舎の猫 旅を続ける
「め、滅茶苦茶疲れたぁ……」
街道を歩きながら、私は呟いた。
キャティのスキルについての説明は延々と止まる事を知らず、気がつくと夕方に差し掛かってたのよ。
「そのまま泊まってけば?」というキャティのお誘いを断固拒否し、元いた街道脇に戻った私は、シーオーシャンへの道をひたすら進むことにしたの。だって、私の転生特典の一つに『迷子』ってのがあるんだよ。
キャティ曰く「スタートからゴールまで障害もなしに突き進む人生なんてつまらないでしょ? 豊かな生活を送るには寄り道も必要よね」なんだそう。
「いや、それスキルじゃなくて呪いの類いだろ?」って言いたいのを我慢した私を褒めて欲しい。確かに、私の持つスキルには、この『迷子』スキルをチャラにしちゃうようなスキルがあるから、呪いとまでは言えないんだけど……。そのスキルのおかけで元いた場所に戻れた訳だしね。
そう、私のスキルの一つにバックドアというのがある。これは、記憶にある所なら瞬時に戻れるという優れものだ。これを使えば、迷子になっても元の場所にすぐ戻れるという訳。まぁ、無くなってしまった場所には勿論戻れないんだけどね。 でもさ、いくら元の場所に戻れても、先に進むのに時間がかかるんだよね。迷ってるとさ……
次はちょっと説明が難しいけど、フロントドアというスキルについて。はっきりとその場所の位置やイメージが分かれば、そこへ跳ぶ事が出来るというもの。例えばマップとか写真とか『人の記憶』とか……
「二つ合わせて『どこでもド……』」
最後まで言う前に、思わずキャティの口を塞いだ私の気持ちを察して欲しい……。そりゃさ、もう無くなってしまった世界の著作権を守っても仕方ないとは私も思うけどさ。やっぱさ、なんかダメじゃん? この辺は元の世界の国民性が私の中に根付いてるんだと思う。
ドアシリーズの最後がインドア。これが恐ろしいくらいのトンデモスキルなのよ。まず何でも入るアイテムボックスを想像して欲しい。
「素直に言えばいいのに。四次元ポケ『ダメよっ!』って……」
通常私たちが思い描くアイテムボックスは生き物は入らないよね?でも、入っちゃうんだな、これが。
いわゆる一つのインナースペースと言った方がいいかもしんない。しかも用途によって区切ったりも出来ちゃう。時間経過なしのアイテムボックスと、時間経過が爆速のアイテムボックスが同居できるんだよ。時間経過が速い方を使えば、植物はあっという間に育つし、発酵なんかも瞬時に行える。人を入れたらどうなるか? 考えたくもないわね……
そして、これが最もトンデモないんだけど、私自身インドアに入れるの。つまり、住居いらずなんだよね、ここに生活拠点を作っちゃえば。ちなみに、タイムマシンにはなってないからね、さすがに。
「引きこもりには優しいスキルよね」
キャティの言葉にちょっと傷ついたのは内緒だ。家と職場の往復だけで、休みの日は家の中に引きこもっていた私には耳が痛い。近所のスーパーに行くのも面倒くさくて、ネットスーパーのお得意様だった私。幸せとは言い難い生活だったと改めて思ったんだよね。
そんな訳で、もうすぐ夜の帳が下りようかという時間になっても、私は街道を歩き続けていた。
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