第5話 田舎の猫 過去を知る
「これから話す事は貴女にとって辛いことかも知れないわ」
そう言ってから一拍おいて彼女は話し始めた。
「もう、気づいているかも知れないけれど、少し前まで貴女はこの世界とは別の世界にいたの」
そう、私の感じた違和感の正体はそれだった。この世界にはなかったはずの知識が私の中に確かに存在する。アンドロイドは勿論のこと、神という存在自体この世界では知られていない。私が住んでいたグリーンフィールドには神というものの存在を知る人はいなかった。教会も神社もなければ、学校で教わった記憶もない。つまり、神様という存在を私は知らないはずなのだ。
「貴女のいた世界は……もうないの。」
躊躇いながらそう言う彼女。
「どういうことですか?」
そう問い返す私。
「貴女のいた世界は高度な文明を築いていたわ。でも、それは人を幸せにする文明ではなかった……」
私に過去の記憶が甦る。国と国との諍い。格差社会。政治の腐敗。思い当たる節はいっぱいあった。
「科学万能論と言うのかしら……。中でも、その力を過信する人が増えたのが世界の破滅に加速をかけたの。」
尚も彼女は続けた。
「人は人の手に余る技術を欲して生み出し、制御できずに結果として星一つを消滅させてしまった……」
SFで良くあるヤツですね。それが現実で起きてしまったと。
「文明が滅びてもやり直すことはできるの。過去にそういう例はいくつもあるしね。でも、貴女の世界を管理していた神様は絶望していた。」
少し目を伏せてから彼女は続けた。
「人々が幸せな感情を持つことが出来れば、その世界には幸せが満ちていくの。そして、それは逆もしかり……」
つまり、不幸せに満ちた世界に神様も絶望しちゃったわけね。
「ましてや、神の名の下に行われる暴力を見過ごせるわけはないわ。貴女の世界の神様は星と共にその世界を消滅させることを選んだ。」
核戦争による時空消滅……そんなパワーワードが私の頭をよぎる。
「けれど、貴女の世界の神様は最期に希望の種を残したの。異世界転移の資格と能力を有する者を様々な世界に送り出した……」
「それが私……ですか?」
「そうね、貴女だけではないけれど……。そろそろ完全に思い出せたかしら、西野麗子さん?」
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