第4話 吸血鬼族ゼラニム

「うわ。料理めっちゃ美味しい! あの人(田中部長)が作ったの?」


「あぁそうさ。彼は家事全般、特に料理に特化した神託を持っているから

味もカロリー計算も完璧なはずさ。ほら、君と私とで量も若干違うだろ?」


 確かに団長の言う通りで、僕の量は団長よりも少なかった。


「でも、僕の飲み物は牛乳で、おまけにチーズも野菜にかかってる。

団長のは普通のソースなのに」


「そうだな。だって、ランス君は今10歳だろ?成長期なんだから、

たくさん寝て特にカルシウムを摂取しまくればどんどん背も大きくなるはずさ」


「えぇ!? 身長と禿げは遺伝だって、僕の父さん言ってたよ!」


「そうか? 身長に関しては生活環境の方が大事だと思うのだが..」


「ふーん。じゃあいっぱい食べていつか団長より大きくなるよ!!


「ふふっ。そうだね。期待してるよ..」


「はい!」


 僕は、いつか絶対に団長の身長を追い抜いてやるんだと決意した。

そのために、まずはどんどん食べなくてはとフォークで野菜を口に入れた。



 お昼を物凄い勢いで食べ終えた団長は、

僕に簡単なスケジュールを教えてくれた。

というのも、騎士団の屯所内とはいえ僕ら隊員は実質寮生活をしているような

ものだし、魔族が人間の領土を侵害するでもない限りは任務もない。


 つまり騎士という職業は世間の人がイメージするほど、多忙でもないようだ。

それに魔族の攻撃で負傷しても労災は手厚いし、福利厚生もしっかりしている。


「とはいえ、任務がない間何もしないという事はない。

しっかりと肉体強化、剣の鍛錬に努める事。ランス君にはいずれ

剣検(けんけん)1級に受かるくらいの実力をつけてもらわないとね!」


 剣検とは、

公益財団法人剣術検定協会の運営する二ヶ月に一度実施される試験の名称だ。


 文字通り剣術の腕を審査員の前で披露し、型を忠実に再現出来たなら合格。

ちなみに僕は学校の一斉申し込みで既に受験経験はあり、現在は5級まで取得ー


 難易度は1級から10級まであり、10級が一番簡単、1級が最難関と言われる。

それに3級からは二次試験で実戦による模擬戦闘も含まれ、特に1級は

全国から集まった選りすぐりの猛者しかおらず、

ぬるい覚悟で挑むと再起不能(物理的)にさせられ剣の道をたたれるものも多いとか..


「君とて今日から立派な騎士の一員だ。順当にやれば受かるだろ?」


「うん。僕の神託があれば動き一回見るだけだしね!」


「その意気だ! じゃあ早速来月のを申し込みと、行きたいんだけど..。

残念ながら1級は10歳以上と年齢制限があってね..。偽装しても良いんだけど、、

剣検に関しては、すこーしリスクが高いんだ。だから君には今日、彼女と戦って貰いたい!」


「え?」


 戦う。その言葉が、僕の胸をざわつかせた。


 団長が紹介する人という事は、僕の対戦相手はここの隊員なのかな?


「ゼラニム。入ってきて良いよ」


「..? 団長、誰もいませーーー」


 僕がそう言って団長の座る側を向き、視線を再び前に走らせた時だった。


 音もなく、一切の気配も感じさせず、僕の真向かいにいたのは顔含め全身が

白装束に覆われた人物で、首からは十字架のアクセサリーがぶら下がっていた。


「こんにちは! ランスって言います。今日から国立中央騎士団所属です!」


「......」


 僕は敢えて語気を上げて自己紹介したのに、思い切りシカトされて傷ついた。


「私から紹介するよ。彼女の名はゼラニムーー

過去の戦いで全身に重度の火傷を負ってしまい、以降は冷却スーツを常時

着用する事を余儀なくされてな。喉を焼かれ声も出ないから許してやってくれ..」


「そう、なんですか..」


 僕の目の前に座る人が、少し気の毒に見えた時だった。


「団長。そんな設定もらなくても良いですよ」


「は??」


 火傷でしゃべれないはずの彼女が、途端に話出した。

訳が分かんないから、僕は口をアングリ開けて団長の顔を見た。


「....。珍しいな..。というより、お前が自ら話すの、初めてじゃないか?」


「えっへへそうかも..。

でも良いんです。えっと、ランス君かな? 初めまして!」


「はい! 初めまして!」


「ふぅ..。じゃあ、単刀直入に言うね!

私は全身火傷なんかじゃない。

本当は吸血鬼族(ヴァンパイア)と人間のハーフで

日中は太陽の光を浴びるわけにはいかないから、

こうして防護服を身に纏っている。

それに首の十字架は、私の吸血鬼族の本能を抑え込むためのものーー」


「え....」


「彼女の言ってる事は全て事実だよ。ただこちらとしての秘匿義務があってな..。

私が裏のルートを使って仲間として向かい入れたんだ..。

でも本当に良いのか? 

どうして今更、それを私と副団長以外に言う気になった??」


「あぁ..えっと....」


「彼はまだ子供です!

子供なら、私の中に半分流れるこの血も、純粋に受け入れてくれるかなって..」


「そうか..。なら良いんだが....。じゃあ、ランス君。早速本題だ。

彼女はもう紹介した通りで、主に迷宮(ダンジョン)の攻略を任せている。

そして君は今から、彼女と木剣で戦って貰う。10本勝負でどうだろう?」


「やりたいやりたい!」


「えっへへ..。私も対戦してみたいなぁ..。

ランス君だっけ、、今何歳?」


「10歳です!」


「へぇ..。10歳で騎士かー」 


「凄いんだね....。早くぶっ潰してやりたいわ(ボソっ)」


「今何か言いましたか!?」


「ううん! なんでもないよ。じゃあ早速表に出ようか!!」







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