第2話 状況確認と、これから
状況の確認をしよう。
俺は期末テストが終わってアイス片手に、駄べりながらハルと帰っていた。
そしてハルがコンビニに戻り、手持ち無沙汰になった俺はベンチに座って漫画を見ていた。
百合漫画いいわぁなんて言って。
で、熱中症になったかどうかは分からないがいきなりベンチに倒れて体が動かなくなった。
ここまではいい。
ここからは異常だ。
目が覚めると俺は草原にいた。
そして高い声に小さな手。
肩までスラリと伸びた長い髪の毛。
何時もの俺の体では無い。
その体は幼い幼い女児のものであった。
「いや!おかしいやろ!何が女児であった!かちゃっ!色々おかしいって!」
俺は水面に映る女児に向かってそう言う。
水面に映っているそいつは怒りと呆れが混ざったような顔をしながらも、とても可愛かった。
肩までするりと伸びた白い髪に、まるで夜空を映しているかのような澄んだ青い目、卵のようなツルリとした肌に、とても小さい鼻に口。
はっきり言おう。
「可愛すぎだろ……おれ。」
いや、自画自賛では無くマジで!本気と書いてマジと読むくらいには、マジで!これはロリコンじゃなくても襲いたくなるぞ。
……。
……い、いや、これは世のロリコンを馬鹿にしてる訳じゃないぞ?比喩だ。
それにしても可愛い!可愛いすぎる!まるで神様が右手で本気を出して参考資料をガン見しながら10回くらい下書きしてやっと描き終えた!みたいな顔をしてる。アニメ顔だ。
ちなみに服はTシャツ1枚で、靴は履いてなかった。そして……パ、パンツは女の子もののくまさんだった……。
恥ずかしくないぞ!
「これは……襲われるな。俺なら襲うわ。1人でこんな女児が歩いとったら。いや襲わんけど。」
……。
なんかハルみたいなこと言ってしまったな。
しかしハルならこんな状況でも喜びそうだ。
「やったぁ百合できるってな感じで」
いやでもそっか。できるな?
俺女児。可愛い。
プラス。
女の子好き。
イコール。
百合。
「ちょっとは嬉しいかもしれんな?いやだいぶ嬉しいかも……?」
俺はさっき読んだ漫画の内容を思い出す。女の子同士の甘くて、甘くて、甘さしかない恋愛の様子。そんなことを思い出すと頬が緩む。
これを俺が……?
いいな……それ。
決めた。
「……百合しよう!」
もうこの際、異常事態ってことは一旦置いといて女児になったんだから百合しよう!
そうだそうしよう。
もしかしたら前の世界の俺は死んだとか。
もう帰れないとか。
家族の事とか
ハルのこととか。
童貞捨てたかったとか。
彼女作れば良かったとか。
そう言うのは一旦全部忘れよう。
「あ〜あれだ。異世界転生ってやつなんやろ?神様?じゃあ楽しませてもらうけん!覚悟しとけよ!」
俺はそう言いながら天を見上げた。
まだ見ぬ神様に思いを馳せて。
雲ひとつない快晴の青天井。
素晴らしい日だ。
「俺は百合するぞぉぉお!!!」
さて、ひとまずは……。
……ここどこ?
~~~~~
「くそ!くそ!何でこんなとこに転生させると!神様!性格わるっ!ぜったい友達おらんけね!もう5時間以上歩いとるんやけど!もう夕焼けなんやけど!涙出てきそうなんやけど!」
5時間以上歩いてきたからか足はガクガク、それに靴も履いてないから足がとてつもなく痛い。恨んでやる、神様、恨んでやる!
でも一応成果はある。人が作ったであろう道があった。そう、道だ。つまりここは人が通る道、街が近いのだ!嬉しい!ありがとう神様!
「やけど、やばいぞ?これ。日が暮れてきとるし、もう歩きたくない。足痛すぎる!いや冗談抜きで。」
それでも足は止めない。こんな場所で立ち止まって夜になったらもう終わりだからだ。
だってまず、俺はここが何処なのかも分からない。地球なのか、それに準ずる異世界なのか。
そしてこれが重要だ。今までリスぐらいの小動物なら見たが、でかいヤツが現れたら死ねる。軽く死ねる。もし異世界なら魔物とかもいるかもしれない。死ねる。
「てかもう異世界だろ!色々とありえんし!てか物語的にそうだね!」
また、ハルみたいなことを言ってしまっている。まぁこうしてふざけてないと気が持たないんだ。だって5時間以上も歩いたことあるか?裸足で?ナイナイ。どこかの国の誰かはあるかも知れないが、ひとまず俺は無い。
「……物語ならご都合主義あるやろ!仕事しろ!ステータスもねぇし、召喚してきた女の子もいねぇ!超人的な力を使える訳でもないって!もう無理ゲーやろ!ましてや女児の体で5時間以上歩かせるか?普通!撮れ高無いやろ!くっそー!ご都合主義カモーンヌ!」
俺は道のど真ん中に手をついて座り込む、叫びすぎて疲れた。ほんとにご都合主義があるなら馬車でも何でも通ってくれ。
しかし、そうだな。少し休憩をしよう、今の俺はクレーバーじゃない。それに何事も冷静を欠いたらうまくいかないもんだ。
俺はそう思い道の脇に逸れて腰を下ろした。
数瞬後。
ガタゴト
俺はその音を聞いて目伏せていた顔をあげる。それはとても人工的な音で、まるで馬車がこちらに向かってきているような、そんな音だった。
(ガチか!ガチか!ガチか!マジのご都合主義展開!)
目を向けた先には馬車。遠くに見える馬車は二頭立てのようで茶色の馬に引かれている。お世辞にもきれいだとは言えない馬車だが、荷車ならこんなものか、と思考を止める。
そしてすぐに俺は、痛い足を引きずって走る。
先程は見えなかったが馬の背にある御者台に人がいるようで、遠くからだから、はっきりと見えないが、女性のようであった。多分。
「あの!乗せてもらえませんか?いや!街の場所だけでも教えてください!迷子なんです!」
高い鈴の音のような声をできるだけ張り上げ、遠くにいる馬車に届くように言う。
この世界でのファーストコンタクトだ、慎重に行かなければ。でも、なりふりも構ってられない。絶対に乗せてもらおう。
すると、馬車は少しスピードを上げて近づいてくる。もうあと1分後には立ち会ってしまう。
少し緊張してきた。
歩きすぎて、乱れた髪を少し整える。服も汚れていないか見るが、意味がないことに気づき、顔をまたあげる。
もう目の前にいた。
(いや、早すぎるやろ!ちょっとは心の準備をさせてや!ど、どうしよう……)
俺が言い淀んでいると、御者台にいる女性が目を見開き話しかけてくる。
「ま、まさかホントに女の子がいるとは……お、お嬢ちゃん?どうしてこんなところにいるの?質素な服にボロボロの手足……ま、まぁ深くは聞かないわ。とにかく乗りなさい。」
そしてその女性は御者台から降り、俺に手を差し伸べる。俺はその手をとって、感謝を述べながら荷台に乗せてもらった。
荷台の中には香辛料があるようで、ツンと鼻を刺すいい香りがする。人が座れるところはあまりないが、狭くてとても心地が良い。
俺が口を開こうとすると、その前に女性が言葉を紡いだ。
「どうして……ってやっぱりいいわ。まずは名前ね。お嬢ちゃんはなんて名前なの?私はアノンって言うのよ、いい名前でしょ。」
女性に名前を聞かれ、俺はなんて言うのか少し迷ったが、唇をひと舐めし、口を開く。
「お、俺はソラって言います。い、いい名前ですか?」
……ミスった。完全にミスった!
何がいい名前ですか?だ!
緊張しすぎてアノンさんが言ったことをまるパクリしてしまった。
アノンさんは目をぱちくりと開き、少し笑いながら言う。
「ふふっ!いい名前ね!よろしくソラ!」
「よ、よろしくお願いします。アノンさん!」
……まぁファーストコンタクト成功だ。
女児?女児!女児。 読破 @yugu-doku
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