第11話 女子テニス部編3

 遠藤くんが、ドロップショットで先輩を前に釣りだす。

 そして、そのままボレーの構えになった先輩の頭上をトップスピンロブが襲う。


 小さくガッツポーズする遠藤くん。

 あたしもオンザラインだと確信した、綺麗な弾道のショットに拍手を送りそうになったくらい。


 でも、審判のコールは――

「アウト」


 遠藤くんが審判の方を見て、怪訝そうな表情を浮かべているのが分かる。

 たぶん、あたしも意味が分からなくて、キョトンとしてしたと思う。


 先輩をチラと見ると、安堵の表情をしているのが見えた。

 普段は見せない表情だから、分かってしまう。

 あれは、入っていた。と確信していた表情。

 審判がアウトにしてくれて助かったって表情。


 何もなかったかのように、試合は続けられると思ったし、先輩もそれで終わりだと思ったのだろうけど、遠藤くんは、さっきと全く同じ攻め方で、同じ位置にボールを落としては、アウトとコールされた場所に再び、トップスピンロブを打ち込む。


 けれど、『アウト』の判定。

 執拗に同じ事を繰り返すけど、コールは全て『アウト』。

 これは、審判と遠藤くんと先輩の意地の張り合いに見えた。


 自分のショットに自信がある遠藤くん。

 審判がアウトと言えばアウトなんだと徹する先輩。

 アウトと判定した以上、アウトとコールし続けないといけない審判。

 

 その意地の張り合いも、直ぐに終わった。

 遠藤くんが審判まで歩み寄って、何かを話しかけ、そして――。

 そのままベンチまで歩き、ラケットを直して試合が終わった。


 遠藤くんが棄権を申し出たのは明白。

 あたしは……悔しくて仕方がなかった。

 あの時の勝ち誇ったような表情をみせた先輩に対する怒りすわ湧いていた。


 スコアは1セット目の3-2から3ー3へとなっていたところ。

 もし、あのショットがインだと判定されていたら、4-2となって先輩にとってはかなり厳しい展開だったはず。

 逆に、遠藤くんはサービスゲームを無難にキープできたら、そのまま勝っていた試合だと思う。


 あたしは呆然としたまま、コートから立ち去っていく遠藤くんの後姿を見ていた。

 肩も落とさず、歩く姿は堂々としていて、まるで勝者のように見えた。

 そんな遠藤くんを背中からギュって抱き締めたい衝動にも駆られた。


 追いかけたかったけど、何を言っていいのかも分からないし、こんな白熱していた試合が、いとも簡単に呆気なく終わった事に思考が追い付かなかった。

 

 とにかく、もやもやした試合だった。

 後味の悪さだけが残った試合だった。


 

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