第10話 女子テニス部編2

『遠藤くん、頑張って』

 心の中でそう思いながら、あたしのコート側に立つサーバーの先輩にニューボールを渡していた。


 先輩の表情は、どこか焦っているようにも、苛立っているようにも見えた。

 試合前は完全に見下していた相手だったと思うから。


 先輩のその表情は

『こんな奴に』

 なんて思ってそうな、傲慢さが見え隠れしていた。


 先輩からしたら、そう思うのも無理はないと思うけど、素直に賞賛すればイメージも違うんだろうけどね。


 結構、その先輩には憧れていたんだけどな……。

 あたしが先輩に幻滅したと同時に、遠藤くんを内心で応援してしまう理由に充分だった。


 コートチェンジして遠藤君があたし側のコートに居る時は、あたしは遠藤君をマジマジと観察するように見ていたと思う。


 あたしより少しだけ高い身長に、筋肉もあるわけではなさそうな、ほっそりとした身体。


 俯くと長い前髪に隠れがちなその瞳は、飄々としているようで、どこか負けん気のある気が強そうにも見える。


 女子もあたしとしては、筋肉があってパワーがある男子より、参考になりそうな華奢な男子が、あの先輩と互角に戦えている事に感動すら覚えてしまうし、その華麗と表現してもいい弾道のショットに魅了されていくのが分かる。


 先輩の威力のあるライジングショットやサーブ&ボレーのスタイルに惹かれて、あたしはそれをマネをして、そういうプレースタイルになったのだけど、今は完全に『遠藤くん』ううん『翔くん』のプレースタイルに見入ってしまっている。


 そんな時に事件が起こった。

 起こってしまった――。

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