第6話 狂気の風生会 その2
「友達を助けにきたよ!柊介!」
そこまでは良かった。そこまでは。
しかし、「私を差し置いてかっこいい人助けをした罪を償え!」と呑川結衣に巴投されて、無様に華奢な体が宙を舞って壁に激突した葵は俺の隣で正座している。
「なにやってんの?」
「うぅ…僕だって情けないよ…」
本音を言えばこういう友達が助けに来てくれるという展開は大好きなので来てくれただけでも嬉しいのだが、それを言葉にするのはなんとなく野暮な気がした。
「ちょっとエドナ、テロ組織に捕まってきて。そこを私がかっこよく助けたい」
「姉様、お供しますぜ!」
「全く世話の焼かせるリーダーですよ、やれやれ。がおー」
「なんで私が生贄にされる前提で話が進んでるのよ!?」
これまでのやり取りを見ていると、エドナは結構振り回される側らしい。ここは奴に一矢報いてやろう。
「おいエドナ、遊んでないで罰とやらをさっさと言え」
エドナは物凄く不満気な顔をした。ざまぁ。
「水月くん、残念だけどあなたも罰を受けて貰うわ。なにせ、神聖なる風生会会議室に凶器を持って乱入してきたんだから。とはいえ、消化器を持って突撃してくるとは、意外と根性あるのね?女々しいのに。」
「ぐっ…」
葵に八つ当たりすんなよ。
「罰…そうね…あ、これならもしかして…」
口に指を当て少し考えたあと、エドナは言った。
「…じゃあ、…接吻して」
「ほいほい、って、は、はぁ?」
何言ってんだこの痴女。エロナ。
「私にじゃないわ。エロナやめて。そ、その…水月くんとよ…。」
「もっと意味がわからん」
モジモジしながら言うエドナに困り果てる俺たち2人を、他の3人も心なしかソワソワしているようにも見える。
「ちょっと待って、罰ってそういう感じなの?僕が柊介とキスをする意味は何?」
「…私の作る映画にそういうシーンがあるの。」
映画?話が見えない。もっと理路整然に言ってくれ。
「えっとね、私は政治的に正しい映画を作る映画監督を目指してて、その、男の子同士でキスするシーンをどうしても撮りたくて…撮影に協力して欲しいの!罰っていうのは半分建前で…そ、その目やめて…」
「ちなみに断る。俺は男同士でキスしとうないからな。その辺のそっち系趣味者を捕まえてお人形遊びしてな。お嬢ちゃん」
「さっきから私にだけ当たり強い…」
涙目になっているエドナ。
「僕もちょっと男同士でキスは…」
葵も困っているだろ。いいから解放しろ。
「お願いなの!私はポリコレ満載でも面白い映画を作って、誰もが主人公になれる映画を作りたいの!今はポリコレばかり気にして面白くない作品ばっかになってて、でもそれじゃ世界中の子供たちの夢見る世界にはならないの!私はちゃんとポリコレを採り入れて、その上でポリコレ反対派にも面白いと思えるような作品で、誰もが主人公、誰もがヒロインになれること、ちゃんと証明したいの!」
叫ぶように主張するエドナは、なるほど。クラスの連中があんなに熱中するわけだ。たしかに一生懸命で健気で信念を貫き通そうとする姿勢はいじらしくて、かっこいい。しかし、しかしな、俺たちは…。
「柊介。」
ん?どうした?
「受けよう。」
おい、影響受けてんじゃない!お前が感化されてどうする!
「エドナさんの言ってることは心の奥の深いたころに響いたよ。たしかに僕も女々しいって散々言われて、かっこいい主人公にはなれないってどこかで諦めてた気持ちがあったんだ。…僕たちが頑張ればほんとにいい映画が作れるんだよね?」
待て、そうはならない。お前も結構熱しやすいんだな、よく考えろ。俺たちが恋愛する映画をどこにかは分からないが映すんだぞ?そんな恥さらしな真似俺はせんぞ。
「うん!約束するわ!」
満面の笑みでツインテールをぶんぶんするエドナ。いや、俺は嫌なんだが。
「じゃあ、罪はうやむやにしといてあげる!結衣、2人を解放してあげて!」
「わかった。開け、心の扉!」
「お、おい俺はやるとは言って…」
「僕たちにできることを頑張ろう、柊介」
「免れてよかったですね。まぁ問題はあの子がなんて言うかですが…どうでしょうかね」
「まあエドナ先輩がまた説得してくれまっせ。私たちを説得したあの時みてぇに。」
おい、なんかやる雰囲気になってるじゃねぇか。俺はやるとは言ってないぞ?おい!聞けって!
エドナは声高に叫ぶ。
「解散!」
待て待て待て!
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