第3.5話 小話 俺がお坊ちゃんを嫌いな理由

「美味い!なんだこれめっちゃ美味いじゃねぇか!この学校も捨てたもんじゃないな!」

「それはとっても良かったです。」

「さっきは転校とか何とか喚いてたくせにさ…」

俺たちは屋上のベンチに座ってアボカドおにぎりを貪っていた。

アボカドおにぎり、これはとんでもない食べ物だ。刻んだシソと梅を混ぜ込んだおにぎりの中にアボカドが乱切りになって入っていて、さらに全体に高級な匂いを放つ醤油がかけられてある。


クソ、さっきはあんなに嫌だったこの学校も、こいつを食べる為だけに残ってやってもいいと思えてきやがる。そんくらいに美味い。

「もう…ご飯粒ついてるよ」

そう言うと水月は、女を狂わせそうな困ったような微笑で、俺の頬に付いた米を取るとそのまま自分の口に入れた。

俺は水月をはたいた。

「痛っ、え、なんで僕今叩かれたの!?」

イケメンでむかつくから以外に理由が必要だろうか。

「あ、そういえばお金を払ってなかったな、いくらだった?」

「いえいえいいですよ。全然安いですし、それに転校祝いってことで奢らせて下さい。」

「いいや、自分の分は自分で払うさ。俺は奢りをねだる女は大嫌いだが、女に貢がれるのもそれはそれで嫌なんだ。で、いくらだ?」

出来ればこいつに借りを作りたくないというのが本音だが。

「まぁそこまで言うなら、じゃあ1000円下さい」

あ、いや3人分払う訳じゃないんだけど。

「なに言ってるんですか?1個で1000円です。」

せ、1000?ペリカ?

「どこの地下帝国ですか、日本円でです」

「あの量で1000円?ウッソだろお前。たしかに美味かったけどそこまでの価値は…」

雨井はほら、とレシートを渡してくる。

アボカドおにぎり×3 3300円

「ぼったくりだろ」

「え?これそんなに高いですか?」

「まぁ、普通は高いと思うよ」

これだからお嬢様は嫌いだ。

「僕も払わなきゃ、ちょっと待ってね」

水月は財布を出し、1000円札を取り出す。

その時に俺は見た。ざっと10枚はある1万円札たちを。

俺はお坊ちゃんも嫌いになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る