第3話 本性を現したな

「ではまず売店にいきましょう」

そう言われ雨井に連れられてきた小綺麗な一棟。

ガラス越しに中の様子が伺えるが、まあまあの人数で賑わっている。それでも中が広い分、あまり人気がないようにも見える。

「二階は食堂になっていて、三階は生徒用の調理室。四階と屋上は食事スペースです。ちなみに食堂メニューの私のオススメは野菜たっぷりラーメンです。」

「ほえー」

お嬢様学校にもラーメンあるんだ。

水月はずっとやり場が無さそうに黙っている。こんな美少年でも女子と話せないことがあるんだな、と俺は人知れず水月に親近感を覚えた。

売店に入る。すると、なにをしたでもないのに、女子生徒の冷たく刺すような目で見られる。何度目だろうか、ここに来る途中でもチラチラ向けられているから気にしないことにはしている。が、しかし一体何故俺は知りもしない女子生徒からこんなに嫌われているんだろうか。流石にいい気はしない。俺は断じてMプレイヤーではないのだ。


「あ、これなんてどうです?」

雨井はそんなのお構い無しというふうに接してくれるのでなんとなく助かる。

「じゃじゃん、アボカドおにぎり」

「えーなにそれ、そんなのもあんだ」

まぁ待て、榎浪柊介。見切りをつけるのはまだ早いだろう?この学校の設備は最高だし、あの視線もなにか、変な勘違いが広まっているからかも知れない。あの気にかかったポスターも、エイプリルフールに貼ったのがそのまま残っているだけかもしれん。そうだ、そうに決まっている。だってこんな意味不明な青春、あっていいはずがない。気にしたってしょうがないだろう。

だな、俺は俺なりにこの学園内の楽しみを見つけよう。


「でも、今はどっちかと言うとパンがいいかなーって。金持ちの学校なんだし、クロワッサンとか!多分焼きたてなんだろ?そういうの食ってみたい」

「ないです」

雨井はさっきまでの微笑みを一気に引かせて真顔になって答える。何だ急に。

「あ、ないんだ…じゃあ焼きそばパンとか…」

「も、ないですよ」

「そっかそっか、元女子校だもんな、メロンパンくらいはあるだろ?」

「ないですね」

「…嘘だろ?パンないの?」

「嘘じゃないです、パンはないです」

俺は水月に視線を送ると、水月も困り顔で頷いた。変な冗談じゃないらしい。

「食べたいですか?パン」

雨井が大きな瞳で俺の目をのぞき込むように聞いてくる。なんだよ?

「まぁ、あるなら食いたかったけど…」

「パンが何で出来ているか知っていますか?」

「え?小麦とか?」

「小麦と?」

「えー、イースト菌?砂糖とか?あとは…牛乳とかも入ってんのかな」

ピキっと、何かが切れる音がした。

「そう!牛乳!牛乳が入っているんです!いいですか?私たちは牛さんのおっぱいを無理やり揉んでパンを食べてるんです!分かりますか?転校生さんの痴漢野郎!しかもパンって場合によっては卵も使われているんですよ!?ヒヨコの赤ちゃん〆て食う飯がうまいですか!うまいでしょうね?こぉんの鳥殺しがぁ!なんでそんな酷いことが出来るんですか?私には産まれてくるはずだったヒヨコのピヨピヨという鳴き声が聞こえます!可哀想だと思いません!?分かったら、金輪際パンなんて食べないでください。動物さんの命はみんなで守りましょう。いいですね?にゃー」


突然激昂し出した雨井はマシンガンのように言い放つと、「じゃあ今日はアボカドおにぎりを屋上のベンチで食べましょうか」とまた平然として言って3つのアボカドおにぎりをレジへと持っていった。

俺が固まっていると水月があーあとでも言った風に頭に手を当てている。さっきからずっと浮かべていた困り顔に汗が滴っている。

「なんだ今のは、説明しろ」

「うん、まぁそうなるよね。えっと、水月さんはね、ヴィーガンなんだよ。そう、お肉とか卵とかの動物性の食べ物を食べない人。僕が一年の時の最初の方は、ワゴンいっぱいにパンがあったんだけど、彼女が『風生会』に入ってから、売店も食堂もヴィーガン食しか出さなくなっちゃったんだ。だからお肉も消えたし、パンも無いんだよねこの学校。困ったよね。」嫌な予感は的中していた。

「転校します、短い間だったがありがとう。」

「待って待って!僕だって嫌なんだからさ!それに男子と一部の女子はこっそりお弁当にお肉入れて食べてるから!せっかく、この苦しみを分かち合える友達が出来たと思ったのに、あ!逃がさないよ!逃げるなら僕を倒してからにしろぉ!」逃げようとする俺をガッチリホールドする水月。離せ。やつが帰ってくる前に。

「なに抱き合ってるんですか?鼻血出ちゃうのでやめてください。早く行かないと食べる場所取られちゃいますよ?」

「「はい」」

この学校のこと、少しは分かってきた。

俺は全力をかけてこのイカれた学校から転校しようと思う。

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