15話



 夕日朝日15歳は学生である。

 第三東京と呼ばれるこの地の高校に通う一般的な生徒であり、特質すべき点はない。

 よくもわるくも目立たない生徒であり、小学校、中学校と続いて同じ格好に通う子どもが多い中、仲のいい生徒というのも少ない。

 先日は登校日と呼ばれる日の為登校していたが、そんな日に起きたのがヒーローの死だった。

 凄惨な光景を目にした生徒の心身を心配した世論に後押しされ、学校側はカウンセリングを実施。

 

 怪人が襲ってきたのはそのカウンセリングの後の事だった。


「なんだありゃ」


 サイレンの音が響く中、朝日が目にしたのは天に昇る光の柱だった。

 それから間もなく、後処理の為に警察がやってくることになる。

 朝日も野次馬に混ざろうとしたが、人の多さに断念する事となった。


『新しいヒーローが誕生したって大騒ぎしてますよ』


 家に帰った朝日を出迎えたのはアリスと鈴だった。

 すっかりと家の中にいる事が普通になった鈴は、普段は朝日の食事の準備や家の掃除、アリスの相手をしている。

 先日の依頼報酬でテレビを購入し、ネットも繋がった事で情報収集もアリスと行っているらしい。

 

 居間に設置したテレビに、今日の事がニュースとして流れている。

 魔法少女の危機を救った謎の人物が怪人を倒したという内容だ。

 魔法少女に変わる新たなヒーローとしてぼやけたその謎の人物とやらの写真が映し出されている。


「……寧々」


 鈴がテレビを見て不安そうにしている。

 二人コンビとしてやってきたのだ。

 その片割れがピンチになったとなれば、気にしない訳もないだろう。


「っていうか、なんで怪人が来たんだ?」


 怪人を街に放っていた虎狼会という組織は先日壊滅したので、今しばらくは怪人が来る予定はないだろうと思っていたが、ものの数日で怪人が来てしまった。

 予想の間違いは、この街がこのまますぐに戦場になる可能性もあるということだ。

 そんな朝日の疑念を、アリスが払拭する。


『どうやらヒーローに会いに来た怪人らしいですよ。恐らくかと』


 組織やヒーローの手によって壊滅した組織が擁する怪人が野に放たれ、野良と呼ばれる状況になる事がある。

 その場合、怪人は長生きできない。

 協会が生み出す怪人は特別な薬を使って延命する必要があり、それがなければ寿命を迎える事になる。

 稀にそれすらも乗り越えた怪人がいるが、総じて命じる主人もなく暴れる怪人を野良と呼んだ。


「暇なやつなんだな」

「暇といえば、私たちは今後どうするの?」


 テレビを見ていた鈴が振り返る。


「今のところはなにも。使えそうな奴がいたら勧誘するぐらいだな」

「いるの? そんなひと」

「組織が壊滅して六年。未だ一人もいない」


 そこに自分が含まれていないことに鈴は不満気な顔をした。








 かつての千葉――現在の第三東京を統括する正真正銘の東京には、各地に点在するヒーローを束ねるヒーロー協会というものが存在する。

 ヒーローを名乗るのならば必ず加入しないといけないが、そこに束縛はほとんど存在しない。

 有事の際に招集命令が下され拒否すればヒーロー協会から除名されるというだけだ。

 それでもヒーローとしての活動を行うのならば、加入するメリットが加入後のデメリットを大きく上回っているので拒否するものはほとゆどいない。


 東京――ヒーロー協会本部。

 立ち並ぶ高層ビルのひとつであるそこに、協会の幹部が集まっていた。


「それで、闇人が出たってのはマジなのか?」


 長い机の席ひとつに、足を机の上に乗せる柄の悪い金髪の男が座っている。

 その顔には稲妻の形をした傷が右目を覆っており、人相の悪い顔をより際立たせる。


「然り。諜報部からの報告に間違いは無い」


 その男の対面、着流しを来た目を閉じている男が答える。

 

 「はっ! 結構な事じゃねぇか。闇人っていや都市伝説みたいなもんだからな。いるとなりゃ直接ボコれんだろ」

「そう簡単な話じゃないわ。闇人は姿を見せない。10年前の第三東京に現れたことすら、今まで無かったことなんだから」


 稲妻型の傷の男に、今度はスーツ姿の女が答える。


と協力したってやつか。はっ! 悪党と手を組むなんぞヒーローのすることじゃねぇよ」

「貴方はまだ若いのだから知らないだろうけど、闇人といえば誰もが恐れる伝説だったのよ」


 男に対し、女は諌めるように言った。

 稲妻型の傷の男――ヒーロー・スパークが今度こそ吐き捨てる。


「グダグダ言ってんじゃねぇよ。オレがいりゃ闇人だろうが狐だろうが余裕なんだよ」


 傲慢不遜なスパークの態度も、今度は誰も諌めない。

 この場に集まっているのは主要都市六つを守る国家公認ヒーローにして、ヒーロー協会の幹部。

 彼ら彼女は一人で複数の怪人を相手取り、圧勝出来る実力を持っている。

 皆一様に己こそが最強の自負があり、それ故に彼らは仲が悪い。


「ではスパーク、君が第三東京に行き調査して来てくれないかい?」


 物腰柔らく、良く通る声が響く。

 スパークの視線がそこへ向く。

 昼間に加え、日差し避けをしているとはいえ太陽に近いこの場所で、不自然に顔が暗く全容の見えない男。

 ヒーロー協会総本部本部長――東京を守る国家公認ヒーローにして、この場において誰もが最強と疑わない中、自然とその枠組みから外してしまう男。

 彼だけが、この場において他者に事が出来る。


「あァ、いいぜ。闇人なんぞ俺一人で十分だ」

「では頼んだよ」


 スパークがその場から消える。

 それに続いて、この場にいたほかのメンバーの姿も消えた。

 彼らは立体映像として遠方からこの会議に参加していたのだ。


「どうせならついでに狐退治もしてくれるといいけどね」


 唯一残ったのは、顔の見えない男だけ。

 その彼の手元には、企業ヒーロー魔法少女ブルーを殺した怪人を倒す黒い狐面の映像があった。

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