13話
怪人二体を倒した朝日が奥に進んだ時、目にしたのは頭部が捻れた異様な死体だった。
明らかに普通の人間の仕業では無い。
「なんなんだこれ」
『サイコキネシスによるものですね。過去の事例に似た事件があります』
朝日の疑問に答えたのはアリスだった。
地下に来てからは役に立たなかったが、突然過去のネットに記録されたニュースを映し出す。
「復帰したのか?」
その変わりように、朝日は思いついた事があった。
アリスの不調は、地下に降りた時点からの妨害によるものだったからだ。
『はい。先程回線を復帰させました。今ならこの地下の見取り図もご用意出来ますよ』
「出口だけ頼む」
それよりも、と朝日は周囲に点在する不可思議な死体に目を向ける。
アリスが言うサイコキネシス。
いわゆる念動力は現代において珍しい能力ではない。
怪人が出現して以降、超能力と呼ばれるサイコキネシスやパイロキネシス、テレパシーや透視など、一定数そのような力に目覚めている者がいる。
だがもちろん超能力にも人によって能力の差がある。
強い超能力を持つものは大抵の場合ヒーローになっている。
だが人間の頭部、その硬い頭蓋骨を粘土をこねるように歪に変形されるほどのサイコキネシスとなれば朝日にも覚えがあった。
「――闇人か」
『間違いないかと。どうやら彼らは
表に現れること無く、時代の節目にその名前を残すだけとされる組織がある。
朝日や虎狼会とも違う、都市伝説のような存在。
闇人の
人間を容易く捻じ切るサイコキネシスの使い手の事を朝日は知っていた。
さらに奥に進んだ先に、大きな扉があった。
そこへ踏み入った朝日が見たのは金本と名乗った男が他と同じく頭部を変形させて殺された死体。
「何か使えそうな情報はあるか」
アリスに周辺の情報を調べさせる。
結果はすぐに出た。
『軒並み破壊されてます』
「だよな」
物理的に粉々に粉砕されたものからは情報は取れない。
金本の死体が握る携帯らしきものも、原型は留めていなかった。
だが情報はあった。
他でもない、虎狼会に手を加えていたのは闇人という組織だ。
『ここから地上まで直通のエレベーターがあります』
アリスが部屋の中に置かれた本棚の裏に、隠すように設置されたエレベーターを見つける。
もうここには用はないので、朝日はそこを使い地上へと戻った。
地上へ出た朝日が目にしたのは、地下と同じく殺された虎狼会のメンバーの死体だった。
結果として、虎狼会は今日をもって壊滅する事となった。
翌日、朝日の元に黒岩が現れた。
「闇人、ですか」
虎狼会に関する話を黒岩に行うと、黒岩は顔を伏せる。
思いもよらないといった感じだろうか。
「やつらが
「の、ようですね」
場を重苦しい雰囲気が包む。
事情を知らない鈴はこの異様な雰囲気にたじたじになっていた。
「――わかりました。今回の件は、上の方へも伝えておきます。結果として虎狼会は壊滅致しましたので、今後この地区は白狐会にお任せしたいと思います」
「分かった」
「つきましては、虎狼会の所持していた財産、資源、流通ルートは白狐会に引き継がれることになりますが、如何がしましょうか?」
――これが協会が秩序のない組織間を纏める役として認められる理由のひとつ。
勝者総取り。
組織同士の争いの後、その
今回の件に関しては不測の事態であり、本来であれば隠密の元に行われる調査であったが結果として虎狼会は壊滅。
虎狼会はとある組織の下位組織であったが独立してこの街に来ていたので上位組織もいない為、その全てを今回は白狐会が受け継ぐ事になる。
悪行を尽くす虎狼会の財産や資源はそれなりのものだった。
特にヒーローが目を光らす現代において人身売買などと言う行為を行える流通ルートなどは悪の組織にとって金に変えられないものだ。
「全て虎狼会による被害者の補填に当ててやってくれ」
だが朝日はそれらを拒否した。
「よろしいので? 彼らの資金があれば組織の拡大も容易かと」
「今はまだ組織として目立つ訳には行かないからな」
それは優しさからではない。
虎狼会が壊滅したことで、ひとつの地域に穴が空いた。
そこを狙うものは少なくないだろう。
そこを二人しかいない白狐会が穴埋めした所で数に押されるだけとなる。
ならば今しばらくは穴を空けた状態にしそこを狙うものだけを相手すればいい。
複数の組織を相手するより幾分かましだ。
「ではこれまで通り白狐会に関しては情報を伏せておきます。ですが既に一度、怪人との戦いに
「肝に銘じておく」
では、と黒岩は分厚い封筒を置いて帰っていった。
「一体何がどうなってたんですか?」
鈴には何も分からなかった。
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