12話:竜と歩むもの②
目まぐるしく流れる映像。
遊馬はそれが竜神アルフォルトの半生であることに気づいた。
遊馬とアルフォルトが溶け合い混ざり合う。
それは次第に形を整え、遊馬は目を開く。
「今のは……」
『我と貴様は魂までも今一つとなった。我は貴様であり、貴様は我――忌々しい神々の秘奥とやらだ』
アルフォルトの声が頭の中に響く。
気づけば、腕の中にいたアルフォルトがいない。
いや、
『混乱するのは構わんが、あの雌死ぬぞ』
ハッとして視線を怪人たちの方へ向ける。
怪人の持つ奇怪な剣が、膝をつくピンクの首をはねようとしていたところだった。
「やめろー!」
反射的に遊馬の体は動き出す。
踏み込んだ足は地面を砕き、遊馬の体は撃ち出された弾丸の如く怪人に迫る。
高速移動の最中であっても遊馬の視界は非常に緩やかであり、勢いのまま振り抜いた拳が怪人を捉えた。
轟音とともに吹き飛ぶ怪人。
「――え?」
反射的に動いたとはいえ、自身のあまりの速度に遊馬は驚いた。
『我と合体しているのだから当然であろう。我が本来の力を取り戻せばこの程度ではないわ』
遊馬の頭にドヤ顔のアルフォルトの顔が浮かぶ。
確かに、遊馬が覗いたアルフォルトの姿は竜神に相応しい強大で偉大とさえ思える、畏怖の念を抱く姿をしていた。
デフォルメされたような姿からは想像もつかないが。
「あなたは一体……」
ピンクが顔を上げて遊馬を見る。
遊馬は、あわあわと慌ててピンクに何かしら伝えようとするが言葉にする前にピンクはその場に倒れた。
「お、おい!」
『案ずることは無い。 気絶しているだけだ』
「そ、そっか」
安堵するが、背筋に冷たいものが走り遊馬はその場を飛び退いた。
そこを、いつの間にか復帰した怪人が剣を振った。
「貴様、一体何者だ」
剣を空振りした姿勢で怪人が遊馬を睨みつける。
「俺は――『フハハハハ! 良いだろう! 我は竜神アルフォルト! 貴様を滅ぼす者の名だ。光栄に思うがいい』」
突然、遊馬の口が勝手に動いてアルフォルトが喋り出す。
「おい!」
『む。なぜ怒りの感情を我に向ける』
再び主導権は遊馬に戻ったのか、声を出す事も出来たし、アルフォルトの声は頭の中に響くだけとなった。
『言ったであろう。我は貴様、貴様は我だと』
「まるで意味が分からない」
『察しの悪いやつだ』
呆れたような感情が直接遊馬に伝わってくる。
それと同じく、敵意も遊馬は感じ取った。
敵意の方は怪人だった。
「何をごちゃごちゃと訳の分からぬ言葉を話している! 俺を舐めているのか!」
怒髪天を衝くといわんばかりに、怪人が怒りを露わにする。
そういえば、アルフォルトの言葉は伝わる者と伝わらない者がいるようだったと遊馬は思い出した。
「不思議だ」
「あァ?」
遊馬の言葉に、余計に凄む怪人。
本来ならば恐れて逃げ出すような相手だというのに、遊馬の心は波紋ひとつない湖のような落ち着きがあった。
アルフォルトと合体し、その半生を覗き見たからか。
竜と人、神がいる世界で竜神と呼ばれ、人と神と戦った竜神の半生は遊馬の半生とは比べ物にならない壮絶なものであった。
そんなアルフォルトと一体となった今、目の前の怪人の何を恐れろというのか。
「悪いな怪人。あんたじゃ俺は倒せない」
「――――っ!!」
怒りのまま、怪人が弾かれたように遊馬に迫る。
奇怪な形をした剣を振り上げ、遊馬を両断せんと振り下ろした。
その剣を、遊馬は事もなく左手で受け止める。
「なっ!?」
剣を掴んだまま、怪人の体は宙に浮く。
咄嗟の判断で件を手放せばもう暫くは生き長らえたかもしれないが、怪人は剣を掴む手を離すことが出来なかった。
「――竜鳴拳」
遊馬の右手に光が集まり、その拳を振り上げる。
光は竜神の持つ純然たるエネルギーであり、 拳から放たれたその力は光の柱を作り、
『ふむ。奴は勇者足り得ぬ雑魚であったな』
ポンっと遊馬の体からアルフォルトが飛び出してくる。
その瞬間、遊馬は強い眩暈に襲われた
「お? おお??」
『ふむ。まぁ初めてにしては悪くない。我の力を使ったにしては派手さが足りんがな』
大地がぐにゃぐにゃとしているかのような不安定感を感じる遊馬にはアルフォルトの不満が伝わらなかった。
「ん……」
倒れていたピンクがそこで目を覚ました。
そして目にしたのは、頭を揺らしてゆらゆらと倒れそうになる男と、爬虫類のような顔で器用に
「何が起きたの……?」
ピンクの疑問に答えるものは誰もいなかった。
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