第8話
「虎狼会の調査?」
自宅に招き入れた黒岩が前置きの後、茶封筒を差し出した。
そこには虎狼会という組織について調査して欲しいと書かれていた。
「夕日様がご存知の通り、怪人の取り扱いに関しては協会が取り仕切っております。幾つかの例外を除き怪人に関して協会が知り得ないことはございません。ですが先日襲撃のあった怪人に関して、協会は認知しておりません」
「つまり、他組織の介入があったということか?」
「恐らく。故にこうして調査のお願いに参りました」
先の襲撃を行った、角と翼のある怪人を思い出す。
怪人の作成には素材を必要とし、その素材によつて怪人の
協会には怪人を作る事の出来る、朝日の持つ機械とは別のものがある。
それは他組織にも存在し、理論上素材があれば怪人を幾らでも生み出せる機械を有する組織はその分大きいところが多い。
朝日と、現在は鈴しかいない組織がその機械を持っているのは 特殊な例と言えるだろう。
「分かった。引き受けよう」
朝日は今回の依頼を引き受ける事にした。
理由は幾つかある。
組織として再結成した夕日の白狐会は、現在この街の管轄となっている虎狼会の下につく気は無いので敵対するしかないので実態の調査。
仮にも街のヒーローとして名の知れたブルーを殺せる実力のある怪人をどうやって手に入れたのか。
手を貸している組織があれば、その組織もまた朝日の敵となるので調べなければならない。
そしつ一番の理由は報酬。
今回の成功報酬は400万。
朝日のバイトで食いつないでいる中、鈴という配下というか面倒を見なくてはいけない相手が出来てしまったので、このままだと明日の食費にも困る事になってしまう。
ちなみに協会からの依頼としてはこの報酬は少ない方だったりする。
協会は組織に必要以上の関与をしないという姿勢を貫いている一方、秘匿された部分で一部の組織に力が偏らないよう管理している側面もあるので高い報酬を払い依頼をする際、そこには口止め料も含まれている。
そこまで厳密では無い為緩い秘匿でもあった。
「それでは、良いご報告をお待ちしております」
頭を下げたあと、黒岩は席を立つのと、お茶を用意していた鈴が戻ってくるのはほぼ同時だった。
朝日や鈴たちの住む街は都心からも離れており、比較的田舎という面が大きい。
それでも街は賑わっており、故に怪人の襲撃が頻回に訪れる街でもあった。
虎狼会。
朝日の住む街を現在牛耳ている組織の名であり、以前の組織が壊滅した後にこの街にやってきた新参者でもある。
その悪行は悪の組織に恥じぬものであり、人身売買、臓器密売、強盗に殺人とやりたい放題であったが、この街の企業が結託しヒーローを擁した事で治安が守られる事となった。
強い怪人は高い。
それは購入費の話であり、管理コストの話でもある。
ヒーローに引けを取らない怪人を手に出来るのはそれを維持、管理出来るだけの力のある組織だけであり、新参でありヒーローに良いようにやられていた虎狼会が手に出来るものではない。
「しかし良いとこ住んでるな」
虎狼会のアジトは街の中心部にある豪邸にあった。
当然悪の組織が大々的にアジトを知られているはずもなく、この為に朝日はなけなしの貯金からネット回線を引き、アリスをネットに繋いで情報収集を行った。
過去の怪人の襲撃があった場所から逆算してこの場所を突き止めたのはすぐの事だったが、ネット回線を引くのに四日も掛かってしまった。
プラスアリスやら諸々が消費する電気代を考えれば今月の出費は朝日のバイトで賄える額ではなくなってしまった。
この仕事、失敗は許されない。
『鈴さんを連れてこなくて良かったのですか』
高層ビルの屋上、虎狼会のアジトから探知されないであろう距離に朝日はいた。
その傍らにはアリスが浮かんでいる。
『寂しそうにしてましたのに』
「虎狼会が何をしていたか知らない訳じゃないだろ。正義のヒーローが知るには残酷過ぎる」
『お優しいですね』
多分に嫌味のこもったアリスの言葉はいつも通りでもある。
実際、鈴は不安定だ。
一度は自分で精神安定の為の仮面を外したが、現在は付けたまま生活を送っている。
何がきっかけでそのバランスが崩れるかは分からない。
本人は行きたそうにしていたが。
「見える範囲に見張りは?」
『怪人が二体。地中に埋まってますね』
遠方の状況をアリスが映し出す。
豪邸の庭、不自然に芝生がめくれ土が剥き出しになっている場所が二箇所ある。
「よほど羽振りがいいみたいだな」
『音を立てれば気づかれますよ』
「静かにいくさ」
朝日はアリスを掴む。
『丁寧にしてください』
苦情が来た。
何だかやる気が削がれる思いになった。
「――変身」
星空の下、狐面の男が高層ビルの屋上から飛び降りた。
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