第7話
楽しそうにアリスと会話をする天羽鈴を見て、朝日はなぜという気持ちになった。
怪人となった事で、恐らく妖精の力とやらは使えなくなったのだろう。
それでも、大騒ぎになるかもしれないが、死んだ人間がもう一度同じ生活を送れるのなら、普通はそうするのではないだろうか。
朝日自身、そうするつもりで彼女を怪人として蘇らせた。
それは同情の気持ちが大きい。
朝日自身には理解できていないかもしれないが、彼女が亡き姉に似ている事も理由の一つかもしれない。
アリスは鈴を開放する事を理解しているからこそ、自身のマスターをどうしようもない愚か者だと笑っていた。
それがなぜか、鈴が朝日の配下に加わる事になった。
これにはびっくりである。
話が終わったのか、そこで鈴が朝日に声を掛けた。
「そういえば、何か活動とかってあるんですか? あっ、悪い事以外で」
悪の組織に悪い事以外を求められても困る。
「いや、うちは今完全に停止している。
「協会とかあるんですか?」
「あぁ。組織を作った後は大抵協会に属すことになる。協会に入れば仕事の割り振りとか、地区の管轄を任されるからな。うちは数年前までここの管轄だった」
「悪の組織なのに仕事とか管轄とかあるんだ。みんな好き勝手やってるものだと思ってました」
実際、それも間違いではない。
地区の管轄を任されてるといったが、その地区を拠点にしているという宣言にも近い。
他組織同士の争いを禁じているわけでもないし、仲裁に入るわけでもない。
増えすぎた組織を纏める役として協会が生まれたのだ。
だが利点もある。
「うちには必要ないものだが、怪人を作れる機械というのはどこにでもあるわけではないらしい。そういった組織に、協会は怪人を売っているんだ」
「怪人を作るっていうのも初めて聞きました」
「他にも組織の運営には多額の資金がなければ行えないが、協会が高額の仕事を割り振っている」
「ただ漠然と怪人を倒す為に魔法少女になったけど、悪の組織にも色々あるんですね」
関心する鈴。
怪人に関する仕組みについては協会に属していても秘密が多く、怪人を作れる機械に関しては現代の科学を逸脱している。
ただ朝日は使うだけなので、その機械の仕組みなど知ろうとした事もなかった。
「ただ、そうだな。あんたがやれるというのなら、もう一度協会に属して仕事を貰うというのもありだ」
「その、あんたという呼び方はやめてほしいです。私には鈴という名前がありますので、鈴と呼んでください」
むっ、と朝日の言葉が詰まる。
自慢ではないが、夕日朝日という人間は社交的な人間ではない。
学校と家を行き来し、休みの日は家を維持する為にバイト。
そうでなければ地下に籠る日々を送っている。
そんな人間が円満な他者とのコミュニケーションを行えるはずもない。
そんな奴が女の子を名前で呼ぶ。
そんなことが出来るのか。
言葉に詰まり、朝日は鈴の顔を見る。
凄く名前を呼んでほしそうにしている。
それを汲み取る事は出来た。
「――善処する」
結果、朝日は
怪人を擁する組織を総称して悪の組織と呼称し、それらを纏めているのが協会である。
協会の実情については多くを知る者はおらず、謎に包まれている。
そんな協会から使者がやってきたのは、天羽鈴を怪人に変えた翌日の事だった。
ちなみに鈴は朝日の家に住み込む事となった。
超高性能と自称するアリスといえど、手足がなければ家事を行えず埃の積もった家を見て鈴は頬を引き攣らせていた。
「この度はおめでとうございます」
朝早くに家を訪ねてきた、腰の低い黒スーツの男は、対応した鈴に自己紹介をし、名刺を渡す。
協会所属であること、そして名前以外書かれていないその名刺を見て、鈴は昨日の話にあった協会という組織の事を思い出した。
「えっと」
元高校生の鈴には、こういう時どうすればいいか分からなかった。
仮にも企業所属のヒーローであった彼女は、高校生にして企業から給料を貰いヒーローとして活動を行っていたが、求められていたのは社会人としてのマナーではなく、ヒーローとしての実力だったのでこういう対応をしたことがなかったからだ。
「黒岩さん」
そこへ、朝日がやってきた。
鈴はこれ幸いと朝日の後ろへ回る。
「お久しぶりですね。夕日様」
名刺にある通り、黒岩という男が朝日に頭を下げる。
低い腰は好印象ではなくどこか不気味な雰囲気があった。
「随分と早いな。まだ連絡は入れていなかったと思うが」
「悪の組織あるところ協会ありでございます。再び白狐会結成の空気となれば、わたしが来なければと思いまして」
黒岩が顔を上げる。
黒いスーツに、色付きの眼鏡の男。
協会を知らない鈴には、とんでもなく胡散臭く見えてしまう。
実際にそれは間違いではなく、朝日もこの男を胡散臭いと思っている。
連絡する前に来る時点で、胡散臭さの極みであろう。
「まぁ手っ取り早いのは助かるな」
「おぉ、それではやはり」
「あぁ、白狐会の再結成だ。ただ組織としての活動はまだ行わないがな」
「分かっておりますとも。仕事のご紹介をさせて頂きますよ」
会話も実に胡散臭かった。
朝日が何も言わないので、鈴も何も言わなかったが、この男の話を聞き続けるのはよくない気もしていた。
「わたしは無害ですよ。天羽鈴様」
黒岩の視線が突然鈴に向かう。
突然名前を呼ばれ、驚いて後ずさる。
その様子を見て、朝日は小さく笑った。
「確かに黒岩さんは初対面で見れば怪しいからな。ただ、協会の理念に忠実な人だ。俺たちに手を出す事も、不利益になる事もする人じゃない」
今後何度見ても怪しさが消える事はなさそうだが、朝日がそういうのならと納得した。
例え連絡する前に来たとしても、鈴の本名を知っていたとしても、黒岩という男はそれを使って朝日たちに不利益を与える人物ではない。
ただし決して味方になる事もない事を、朝日は知っていた。
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