第33話:
「座って待っていてください」
保胤に勧められ一葉は皮張りのソファに腰を下す。落ち着かない様子でそっと部屋を見渡した。
保胤の書斎に入ったのはこれで三度目だ。ちらりと飾り棚に目をやる。初めてこの部屋に入ったのは盗聴器を仕掛けた時。二度目は睡眠薬入りの焼き菓子を持ってきた時。そして今日は保胤から“見せたいものがある”と言われた。
(見せたいものって何かしら……)
「はい、これ」
タイミングよく声を掛けられ慌てて目線を正面に向ける。向かい合わせで保胤がソファに座った。そして、テーブルの上に箱を置いて、一葉の方へと差し出す。両手で抱えるほどの大きさのそれは、包装紙に包まれ綺麗なリボンが掛かっていた。
「あなたに」
どうぞと促され持ち上げてみるとズシッと結構な重みがあった。
「わ、私が開けていいんですか……?」
「一葉さんって時々面白いこと言いますね。表だけ見せるだけでわざわざ部屋に呼んだりしないですよ? まあ、僕が開けてもいいけど」
「え、あ……はい……じゃあ遠慮なく……」
確かにリボンが掛かっているところをみれば贈り物だろうということは察しがついたが、一葉は少し困ってしまった。
(また贈り物……)
立派な鏡台に衣装箪笥、洋服、洋傘や帽子などの装飾品。買い物帰りに一緒に食べたあんみつ。一葉がこの家に来てから保胤はほぼ毎日のように贈り物をくれる。気持ちは嬉しいが一方的に貰ってばかりだと気が引ける。
(流石に何か返さなきゃこれ以上は受け取れないよ……私にも保胤さんに差し上げられるものはないかしら……)
お返しを考えながらリボンを解く。シルクで出来た光沢のあるリボンはしゅるりと簡単に解けた。リボンを綺麗に畳み、次は慎重に包み紙を剝がしていく。開くと箔押し印刷が施された箱が見えた。一葉の手が止まる。
「どうぞ。遠慮しないで」
「は、はい……」
足を組み、ソファのひじ掛けで頬杖をつきながら保胤は一葉を見ている。一葉の様子を楽しんでいるようだった。箱の蓋を持ち上げるととんでもないものが一葉の目に飛び込んできた。
「これ……紅茶じゃないですか……しかも英国の…!」
箱の中身は紅茶の缶が二つにティージャムが入っていた。箔押しが施された箱を見た瞬間、もしやと思った。紅茶好きなら誰もが知っている
「それだけじゃないよ。下も見てみて。二段重ねになっているから」
「は、はい。あ……! ティーカップ……!」
「ふふ。あなた専用のものですよ」
箱の下には白磁のカップとソーサーが二客入っていた。
「え、え、あ、あの……! 保胤さんこれはどういう……?」
思いもよらない贈り物の連続に一葉は混乱しながら顔を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます