第29話
(この人は……本当に私のことが……)
一目惚れだと、好きだと言われてはいる。ただ、ここまで身の安全を考えていてくれていたとは想像もしていなかった。
「だけど結局こうやってあなたに辛い思いをさせてしまいました……僕が迂闊でした。どうか許してください」
「あ……」
布団に置いていた手を保胤に握られる。壊れ物に触れるかのような繊細で優しい手付きだが、しっかりと包み込む力に一葉は顔を赤らめる。
(どうしよう……まだ薬が残っているのかしら……すごくドキドキする)
「どこか痛いところは? 気持ち悪いとかはないですか?」
一葉の様子を伺いながら保胤は指の腹で優しく手の甲をさする。
「だ……大丈夫です」
「一葉さんは手首が細いね。さっき抱いた時も随分身体が軽いなぁと思ったけど」
(さっき抱いた時って……!!)
お姫様抱っこのような態勢で保胤の寝室へと運ばれたことを思い出す。そして、彼の前で晒した自分の恥ずかしい姿も。
(やだ……また身体が勝手に……!)
思い出して身体が疼いた。保胤は一葉の反応を見ながら、自分の手で輪っかを作り一葉の手首を掴む。人差し指だけ伸ばし一葉の血管をなぞった。
「ああでも、一葉さんは身体は細いけど胸は豊かですよね。しかもすごく敏感で」
「なっ……!」
そんな恥ずかしいこと言わないで欲しい。情事を一葉に思い出させるように保胤がゆっくりと耳元で語り掛ける。
「あんなに敏感なのは薬のせい? それともあなた自身の体質かな?」
「そ、そんなの知らな……!」
「ふふ……顔が真っ赤ですよ。さっき僕にされたこと思い出しているんですか?」
こ、この人! 完全に楽しんでない……!?
「も、もう止めてください!!」
保胤の手を振りほどくように腕を上げ、近づいてくる身体をぐいぐいと押しのけた。保胤の言う通り顔は一葉の真っ赤で、とても熱い。
「はは、冗談です。それだけ力が戻っているならもう大丈夫かな? お夕飯、ここに置いておきます。食べられそうだったら食べてください」
笑いながら保胤はベッドから離れて水と一緒に持ってきた夕餉を指した。扉を開けて出ていこうとする。
「あ、でも、あれは本心ですから忘れないでくださいね」
「?」
「正式に夫婦になったら最後まで……覚えています?」
「わ、忘れました!!!!」
枕を投げる勢いの一葉を見て、笑いながら保胤はそそくさと出て行った。
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