第4話
時は明治後期の東京。
海運業・貿易業、軍事業、人材業と日本は近代化が発展し、様々な事業が誕生した。今日の令和まで続く大商社が誕生した時代である。
一葉の父・
しかしその事業は長くは続かず、定信は立て直すために莫大な借金を抱えることとなった。金を借りた相手は、会合で知り合った喜多治屋の社長・喜多治慶一郎だった。
定信の一人娘である一葉が、父の借金のカタに喜多治屋の養子となったのは三年前のことだ。
『うちには娘がいなくてね。一葉ちゃんがうちの子になってくれたら君のお父様もお母様もとっても助かるんだよ』
後に養父となる慶一郎と玲子に初めて会った日のことを、一葉は今でもよく覚えている。
慶一郎は椅子に座り、その足を土下座している父の頭上に乗せていた。革靴の底をぐりぐりとこすり付ける。その顔は笑っていた。
慶一郎の背後には黒服の男たちがずりと並び、一葉達の背後にも数名いて、まるで黒い牢屋のように一葉たちを取り囲んでいた。
床に頭を押し付けられている父の傍で、一葉の母・
玲子は千野に近づき、彼女の髪をそっと撫でた。
『綺麗な髪ねぇ……貸したお金も返せないのによく手入れされている。ねぇ、これでも売ったら多少は借金の足しになるのかしら?』
その一言が決定打となった。
これ以上、父と母に危害を加えられるのは耐えられない。
一葉は自ら喜多治家の養子になることを選んだ。
「ご心配なさらずに。あの子には喜多治家の者としてちゃんとした教育を受けさせますから」
一葉を車に乗せ、黒服の男に捕らえられた定信と千野に向かって、慶一郎はこう言い放った。
“教育”という言葉にどんな意味が込められているか、一葉自身この時は知る由もなかった。
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